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危機を乗り越える
ダリオの訪問
最近、職場でカタリーナの姿を見かけなくなった。
最初は単に勤務の都合だろうと思っていた。
俺自身も任務や上官との連携で、本庁舎のほうへ出向く機会が減っていたから。自然と顔を合わせる機会もなくなった、そう思っていた。
けれど、ある日の昼休み、ふと耳にした会話が、その考えを覆した。
「最近、職場でも色々あったから、それが原因かしら?」
「え? 何のことだ?」
すぐ近くのベンチで、俺の同僚が女性職員と話していた。
その女性は、カタリーナと同じ部署に所属していたらしい。
「少し前に入社してきたカタリーナさん、最近ずっと休んでるのよ」
「……休んでる?」
俺は思わず、手元のコップを強く握りしめていた。
「実はね、メリセラ様がダリオ様と婚約希望していたでしょ? でも、それを断られたって噂が流れてて、その原因がカタリーナさんにあるらしいのよ」
「カタリーナさんが……原因?」
「ほら、女性ってそういう話題に敏感だから。すぐ広がっちゃって。
実は想い人がいるらしいとか、あの人を揺さぶったのは誰かとか……そういうの、ね」
「……ダリオ殿って、誰か気になる人がいるって噂されてたけど、まさか……」
同僚の声は次第に小さくなったが、もう充分だった。
カタリーナが、仕事に来ていない。
しかもその理由が、俺にある。そう囁かれている。
静かに胸が痛んだ。
彼女は、そんなことで身を引くような人じゃない。
けれど、自分が関わったことで、彼女を孤立させてしまったのなら。
俺は立ち上がり、深く息をついた。
「……会いに行くか」
確かめなければならない。
彼女が今、どこで何を思い、何を選ぼうとしているのか。
そして、俺の心もまた‥‥
もう、知らないふりはできなかった。
彼女に会いに行こう。
そう思ったはいいものの、今のカタリーナがどこに住んでいるのか、俺には分からなかった。
あの優しく笑った顔も、忙しそうに駆け回る後ろ姿も、今ではすっかり職場から姿を消してしまっている。
だが、考えてみれば、俺は彼女のすべてを知らないままでいた。
かつて婚約していたとはいえ、それは若い頃の話だ。
ただの記憶にすがって、会いたいと思っているだけでは、何も始まらない。
けれど、
もし、あの家が今もリベルタ家のままで残っているのなら。
そして、彼女が一時でもそこに戻っているのなら。
挨拶がてら訪ねてみるのも悪くない。
いや、それ以前に……彼女を想うなら、何よりもまず、あの家の人々に会うべきだ。
カタリーナの両親に、そして、礼儀を重んじるあの兄君に。
俺がどれだけ本気で彼女のことを考えているのか。
それを伝えるなら、いずれ通らなければならない道なのだから。
……それに、もしかしたら、彼女もそこにいるかもしれない。
そう思い立ち、俺は休日を使ってリベルタ家を訪ねることに決めた。
準備をしながら、胸の奥に灯るのは緊張ではなく、決意だった。
もう、ただ見ているだけではいられない。
今度こそ、彼女を守りたい。心から、そう思っていた。
それに、俺はもう彼女から離れるつもりはない。
どこへ行くにしても、一緒に行こう。
そう、俺はもう心に決めている。
……それはもちろん、彼女の気持ち次第だ。
無理に何かを押しつけるつもりはない。
けれど、それでも、そう願わずにはいられなかった。
昔、あのとき。
ほんの少しのすれ違いが、俺たちを離れ離れにしてしまった。
互いを想いながらも言葉にできず、届かず、ただ時間だけが過ぎていったあの日々。
思い出すたび、今でも胸が締めつけられる。
もう、あんな想いは二度としたくない。
そして、彼女にも絶対にさせたくない。
だからこそ、今度こそは、どこに行くにも必ず二人で。
どんな道でも、隣で歩いていこうと。
一緒になれたら……今度こそ、必ず‥‥。
そして、訪問の日はやってきた。
久しぶりに見るリベルタ家の門は、昔とほとんど変わっていなかった。
堅牢な造りの中に、どこか温かみの残る石造りの屋敷。だが今は、それがやけに遠く感じられる。
受け入れてくれるだろうか?
心臓が少しだけ早く脈を打つのを感じながら、俺は門兵に声をかけた。
「突然の訪問で申し訳ない。ダリオ・ヴァレンテと申します。フェルナンド様に……ご挨拶を」
先触れも出していない訪問だった。無理かもしれない。そんな思いが頭を過る。だが、後悔はしたくなかった。
待つこと数分、門の奥から姿を現したのは、かつてと変わらぬ静かな威厳をたたえた男、フェルナンドだった。
「久しぶりだな。ダリオ」
そう言って微かに口元を緩めた彼に、少しだけ救われた気がした。
「お前の話は、カタリーナから聞いているよ」
その言葉に胸が締めつけられた。彼女が俺のことを、話してくれていた。その事実が、どれほど心を温めるものだったか。
応接室へ案内され、座るように促されたが、フェルナンドの表情は次第に硬くなった。
「だが、すまない。今、カタリーナには会わせられない」
「……なぜですか?」
思わず出た問いに、彼は静かに目を伏せた。
「今は色々と、難しい時期なんだ。……お前が思っている以上に、な」
それ以上を語ることはしなかった。だが、その言葉の奥には、守ろうとする強い意志が感じられた。
兄として、家の当主として、フェルナンドは、カタリーナを今外の何ものからも守ろうとしているのだ。
俺は、まっすぐに言った。
「……それでも、彼女さえよければ、そして許されるのであれば、また会いに来たいと思っています」
フェルナンドは難しい顔でこちらを見つめ、しばらく何も言わなかった。
沈黙が落ちた空間に、壁の時計の音だけが響いている。
やがて、彼は深く息をつきながら、ゆっくりと頷いた。
「……その気持ちが、本物なら。俺の目で確かめさせてもらうことになるだろうな」
それは、試されるということ。
だが、逃げるつもりはなかった。
彼女を想う気持ちに、偽りなどなかったから。
その夜、夕食後の静かな時間。
カタリーナは自室に戻ろうとしていたところで、兄に呼び止められた。
「カタリーナ、少し話がある」
書斎に通されると、フェルナンドは机越しに静かに語った。
「報告するのが遅くなって悪かったな。……今日、ダリオが家に来た」
カタリーナは思わず息を呑んだ。
けれど兄の眼差しは、淡々としたものだった。
「もちろん、今のお前の状況を考えれば、彼と会わせるわけにはいかない。
そのことは、彼にもはっきりと伝えておいた」
「……兄さま、何から何までありがとうございます」
カタリーナは、視線を落として小さく頭を下げた。
申し訳なさと、それでも胸の奥に芽生える感情を、そっと押し込める。
「今はまず、ティモシオの跡継ぎ問題を片づけるのが先だ」
フェルナンドは腕を組みながら、ふっと目を細めた。
「……あの義母、なかなか厄介そうだからな。
まぁ、私に任せておきなさい」
その言葉に、カタリーナは顔を上げる。
「お前たちは、私たちリベルタ家にとって大切な家族だ。
必ず守るよ」
兄のその言葉に、胸がじんと熱くなった。
無口で不器用だけれど、いつも見えないところで支えてくれる兄。
あの頃、家族を離れたことを責めることもなく、こうして迎えてくれた人。
「……ありがとう、兄さま」
ふたりの間に静かに流れる空気に、家族の絆の温もりが灯る夜だった。
最初は単に勤務の都合だろうと思っていた。
俺自身も任務や上官との連携で、本庁舎のほうへ出向く機会が減っていたから。自然と顔を合わせる機会もなくなった、そう思っていた。
けれど、ある日の昼休み、ふと耳にした会話が、その考えを覆した。
「最近、職場でも色々あったから、それが原因かしら?」
「え? 何のことだ?」
すぐ近くのベンチで、俺の同僚が女性職員と話していた。
その女性は、カタリーナと同じ部署に所属していたらしい。
「少し前に入社してきたカタリーナさん、最近ずっと休んでるのよ」
「……休んでる?」
俺は思わず、手元のコップを強く握りしめていた。
「実はね、メリセラ様がダリオ様と婚約希望していたでしょ? でも、それを断られたって噂が流れてて、その原因がカタリーナさんにあるらしいのよ」
「カタリーナさんが……原因?」
「ほら、女性ってそういう話題に敏感だから。すぐ広がっちゃって。
実は想い人がいるらしいとか、あの人を揺さぶったのは誰かとか……そういうの、ね」
「……ダリオ殿って、誰か気になる人がいるって噂されてたけど、まさか……」
同僚の声は次第に小さくなったが、もう充分だった。
カタリーナが、仕事に来ていない。
しかもその理由が、俺にある。そう囁かれている。
静かに胸が痛んだ。
彼女は、そんなことで身を引くような人じゃない。
けれど、自分が関わったことで、彼女を孤立させてしまったのなら。
俺は立ち上がり、深く息をついた。
「……会いに行くか」
確かめなければならない。
彼女が今、どこで何を思い、何を選ぼうとしているのか。
そして、俺の心もまた‥‥
もう、知らないふりはできなかった。
彼女に会いに行こう。
そう思ったはいいものの、今のカタリーナがどこに住んでいるのか、俺には分からなかった。
あの優しく笑った顔も、忙しそうに駆け回る後ろ姿も、今ではすっかり職場から姿を消してしまっている。
だが、考えてみれば、俺は彼女のすべてを知らないままでいた。
かつて婚約していたとはいえ、それは若い頃の話だ。
ただの記憶にすがって、会いたいと思っているだけでは、何も始まらない。
けれど、
もし、あの家が今もリベルタ家のままで残っているのなら。
そして、彼女が一時でもそこに戻っているのなら。
挨拶がてら訪ねてみるのも悪くない。
いや、それ以前に……彼女を想うなら、何よりもまず、あの家の人々に会うべきだ。
カタリーナの両親に、そして、礼儀を重んじるあの兄君に。
俺がどれだけ本気で彼女のことを考えているのか。
それを伝えるなら、いずれ通らなければならない道なのだから。
……それに、もしかしたら、彼女もそこにいるかもしれない。
そう思い立ち、俺は休日を使ってリベルタ家を訪ねることに決めた。
準備をしながら、胸の奥に灯るのは緊張ではなく、決意だった。
もう、ただ見ているだけではいられない。
今度こそ、彼女を守りたい。心から、そう思っていた。
それに、俺はもう彼女から離れるつもりはない。
どこへ行くにしても、一緒に行こう。
そう、俺はもう心に決めている。
……それはもちろん、彼女の気持ち次第だ。
無理に何かを押しつけるつもりはない。
けれど、それでも、そう願わずにはいられなかった。
昔、あのとき。
ほんの少しのすれ違いが、俺たちを離れ離れにしてしまった。
互いを想いながらも言葉にできず、届かず、ただ時間だけが過ぎていったあの日々。
思い出すたび、今でも胸が締めつけられる。
もう、あんな想いは二度としたくない。
そして、彼女にも絶対にさせたくない。
だからこそ、今度こそは、どこに行くにも必ず二人で。
どんな道でも、隣で歩いていこうと。
一緒になれたら……今度こそ、必ず‥‥。
そして、訪問の日はやってきた。
久しぶりに見るリベルタ家の門は、昔とほとんど変わっていなかった。
堅牢な造りの中に、どこか温かみの残る石造りの屋敷。だが今は、それがやけに遠く感じられる。
受け入れてくれるだろうか?
心臓が少しだけ早く脈を打つのを感じながら、俺は門兵に声をかけた。
「突然の訪問で申し訳ない。ダリオ・ヴァレンテと申します。フェルナンド様に……ご挨拶を」
先触れも出していない訪問だった。無理かもしれない。そんな思いが頭を過る。だが、後悔はしたくなかった。
待つこと数分、門の奥から姿を現したのは、かつてと変わらぬ静かな威厳をたたえた男、フェルナンドだった。
「久しぶりだな。ダリオ」
そう言って微かに口元を緩めた彼に、少しだけ救われた気がした。
「お前の話は、カタリーナから聞いているよ」
その言葉に胸が締めつけられた。彼女が俺のことを、話してくれていた。その事実が、どれほど心を温めるものだったか。
応接室へ案内され、座るように促されたが、フェルナンドの表情は次第に硬くなった。
「だが、すまない。今、カタリーナには会わせられない」
「……なぜですか?」
思わず出た問いに、彼は静かに目を伏せた。
「今は色々と、難しい時期なんだ。……お前が思っている以上に、な」
それ以上を語ることはしなかった。だが、その言葉の奥には、守ろうとする強い意志が感じられた。
兄として、家の当主として、フェルナンドは、カタリーナを今外の何ものからも守ろうとしているのだ。
俺は、まっすぐに言った。
「……それでも、彼女さえよければ、そして許されるのであれば、また会いに来たいと思っています」
フェルナンドは難しい顔でこちらを見つめ、しばらく何も言わなかった。
沈黙が落ちた空間に、壁の時計の音だけが響いている。
やがて、彼は深く息をつきながら、ゆっくりと頷いた。
「……その気持ちが、本物なら。俺の目で確かめさせてもらうことになるだろうな」
それは、試されるということ。
だが、逃げるつもりはなかった。
彼女を想う気持ちに、偽りなどなかったから。
その夜、夕食後の静かな時間。
カタリーナは自室に戻ろうとしていたところで、兄に呼び止められた。
「カタリーナ、少し話がある」
書斎に通されると、フェルナンドは机越しに静かに語った。
「報告するのが遅くなって悪かったな。……今日、ダリオが家に来た」
カタリーナは思わず息を呑んだ。
けれど兄の眼差しは、淡々としたものだった。
「もちろん、今のお前の状況を考えれば、彼と会わせるわけにはいかない。
そのことは、彼にもはっきりと伝えておいた」
「……兄さま、何から何までありがとうございます」
カタリーナは、視線を落として小さく頭を下げた。
申し訳なさと、それでも胸の奥に芽生える感情を、そっと押し込める。
「今はまず、ティモシオの跡継ぎ問題を片づけるのが先だ」
フェルナンドは腕を組みながら、ふっと目を細めた。
「……あの義母、なかなか厄介そうだからな。
まぁ、私に任せておきなさい」
その言葉に、カタリーナは顔を上げる。
「お前たちは、私たちリベルタ家にとって大切な家族だ。
必ず守るよ」
兄のその言葉に、胸がじんと熱くなった。
無口で不器用だけれど、いつも見えないところで支えてくれる兄。
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