18 / 55
18.再燃する記憶
しおりを挟む
ある日、アレクシスの元に一通の招待状が届いた。
差出人は、レティシア・フォン・グリューンヴァルト。
内容は、王都で開かれる美術展の招待で、
展示後に昼食も共にどうか、という丁寧な文面だった。
彼は数分、その手紙を見つめていた。が、結局、筆を取り返事を書いた。
「……少し顔を出すだけだ。義理のようなものだ。」
そう自分に言い聞かせるように。
王都の一角、貴族たちの間で話題となっていた美術展が開かれた館は、
優美な装飾に包まれ、静謐な空気が漂っていた。
白亜の壁に飾られた絵画はどれも選び抜かれた逸品で、訪れた客たちは皆、感嘆の声を漏らしていた。
その中心で、レティシア・フォン・グリューンヴァルトは優雅に立ち振る舞い、招待客一人ひとりに丁寧に言葉を交わしていた。
金色の髪を結い上げ、深紅のドレスに身を包んだその姿は、まるで過去のままの「貴族の華」だった。
アレクシスは、少し遅れてその場に現れた。
彼の姿が視界に入ると、レティシアはふわりと微笑み、まるでかつての恋人を迎えるかのように軽やかに近づいた。
「アレクシス。来てくれて嬉しいわ。」
「レティシア。招待、ありがとう。。」
礼儀として交わした言葉だったが、アレクシスの胸の奥には、かつて彼女に抱いた特別な感情が蘇り始めていた。
目の前にいるレティシアは、美しく、堂々としていて、そして何より、あの頃と同じ笑顔を彼に向けていた。
(……何故だ……。私は、もう……)
自らを戒めるように心の中で呟く。
だが、心は少しずつ、冷静さを失い始めていた。
「人が多いわね。少し休みましょう。」
レティシアが軽やかに囁いた。
展示会場の奥、貴族専用の特別室へと案内されると、そこにはあらかじめ用意されたテーブルとワインがあった。
「招待客の皆様には後ほど挨拶に回るわ。だから、少しだけ……あなたと話がしたい。」
そう言って、彼女はアレクシスを優しく見つめた。
彼は一瞬躊躇したものの、静かに頷き、席に着いた。
「相変わらず……細やかな配慮だな。」
「貴方が来ると聞いて、特別に用意したのよ。」
レティシアはワインを注ぎながら、まるで昔話をするように語り始めた。
「貴方と一緒に美術館へ通ったこと、覚えている?」
「……ああ。」
「私たち……美しいものを一緒に見て、語り合って、それだけで幸せだったわね。」
アレクシスの胸に、甘い記憶が溢れる。
あの頃は、未来を信じて疑わず、彼女と手を取り合って歩む日々を夢見ていた——。
「時は戻らない……。」
言葉を途中で止めた。
だがレティシアは、静かに続けた。
「戻らないからこそ……今、この時間が愛しいのよ。」
その瞬間、彼女の手がアレクシスの手の上に重なった。
温かく、柔らかく、しかしどこか強い意志を宿した指先だった。
アレクシスは手を振り払えなかった。
そして、その触れ合いが過去の記憶をより鮮明に蘇らせていった。
その日の帰り道。
馬車の中、アレクシスは窓の外を見つめながら、無言だった。
(私は……何をしているんだ。)
レティシアと過ごした時間、彼女の笑顔、触れた手の温もり——。
それらが心を占める一方で、
ルシアとエドワードの笑顔が頭に浮かび、胸が軋んだ。
(ルシア……)
「今日も、お疲れ様でした。お食事、温めましょうか?」
屋敷に戻った彼を出迎えたのは、変わらぬ優しい微笑みを浮かべたルシアだった。
彼は胸を突かれたように、思わず目を逸らした。
「……いや、すまない。疲れている。少し休ませてくれ。」
「……ええ。」
ルシアは彼の様子に僅かな違和感を覚えながらも、何も言わなかった。
(どうしたのかしら……)
心の奥に、小さな疑念が芽生えた。
しかし、ルシアはアレクシスを信じたかった。
「彼は信じて欲しいと言ってたわ。。。」
その言葉を胸に違和感は気のせいだと思い直し、気を確かにしなければと自分自身を律するのだった。
しかし、それはやがて彼女を苦しめることになる——。
差出人は、レティシア・フォン・グリューンヴァルト。
内容は、王都で開かれる美術展の招待で、
展示後に昼食も共にどうか、という丁寧な文面だった。
彼は数分、その手紙を見つめていた。が、結局、筆を取り返事を書いた。
「……少し顔を出すだけだ。義理のようなものだ。」
そう自分に言い聞かせるように。
王都の一角、貴族たちの間で話題となっていた美術展が開かれた館は、
優美な装飾に包まれ、静謐な空気が漂っていた。
白亜の壁に飾られた絵画はどれも選び抜かれた逸品で、訪れた客たちは皆、感嘆の声を漏らしていた。
その中心で、レティシア・フォン・グリューンヴァルトは優雅に立ち振る舞い、招待客一人ひとりに丁寧に言葉を交わしていた。
金色の髪を結い上げ、深紅のドレスに身を包んだその姿は、まるで過去のままの「貴族の華」だった。
アレクシスは、少し遅れてその場に現れた。
彼の姿が視界に入ると、レティシアはふわりと微笑み、まるでかつての恋人を迎えるかのように軽やかに近づいた。
「アレクシス。来てくれて嬉しいわ。」
「レティシア。招待、ありがとう。。」
礼儀として交わした言葉だったが、アレクシスの胸の奥には、かつて彼女に抱いた特別な感情が蘇り始めていた。
目の前にいるレティシアは、美しく、堂々としていて、そして何より、あの頃と同じ笑顔を彼に向けていた。
(……何故だ……。私は、もう……)
自らを戒めるように心の中で呟く。
だが、心は少しずつ、冷静さを失い始めていた。
「人が多いわね。少し休みましょう。」
レティシアが軽やかに囁いた。
展示会場の奥、貴族専用の特別室へと案内されると、そこにはあらかじめ用意されたテーブルとワインがあった。
「招待客の皆様には後ほど挨拶に回るわ。だから、少しだけ……あなたと話がしたい。」
そう言って、彼女はアレクシスを優しく見つめた。
彼は一瞬躊躇したものの、静かに頷き、席に着いた。
「相変わらず……細やかな配慮だな。」
「貴方が来ると聞いて、特別に用意したのよ。」
レティシアはワインを注ぎながら、まるで昔話をするように語り始めた。
「貴方と一緒に美術館へ通ったこと、覚えている?」
「……ああ。」
「私たち……美しいものを一緒に見て、語り合って、それだけで幸せだったわね。」
アレクシスの胸に、甘い記憶が溢れる。
あの頃は、未来を信じて疑わず、彼女と手を取り合って歩む日々を夢見ていた——。
「時は戻らない……。」
言葉を途中で止めた。
だがレティシアは、静かに続けた。
「戻らないからこそ……今、この時間が愛しいのよ。」
その瞬間、彼女の手がアレクシスの手の上に重なった。
温かく、柔らかく、しかしどこか強い意志を宿した指先だった。
アレクシスは手を振り払えなかった。
そして、その触れ合いが過去の記憶をより鮮明に蘇らせていった。
その日の帰り道。
馬車の中、アレクシスは窓の外を見つめながら、無言だった。
(私は……何をしているんだ。)
レティシアと過ごした時間、彼女の笑顔、触れた手の温もり——。
それらが心を占める一方で、
ルシアとエドワードの笑顔が頭に浮かび、胸が軋んだ。
(ルシア……)
「今日も、お疲れ様でした。お食事、温めましょうか?」
屋敷に戻った彼を出迎えたのは、変わらぬ優しい微笑みを浮かべたルシアだった。
彼は胸を突かれたように、思わず目を逸らした。
「……いや、すまない。疲れている。少し休ませてくれ。」
「……ええ。」
ルシアは彼の様子に僅かな違和感を覚えながらも、何も言わなかった。
(どうしたのかしら……)
心の奥に、小さな疑念が芽生えた。
しかし、ルシアはアレクシスを信じたかった。
「彼は信じて欲しいと言ってたわ。。。」
その言葉を胸に違和感は気のせいだと思い直し、気を確かにしなければと自分自身を律するのだった。
しかし、それはやがて彼女を苦しめることになる——。
497
あなたにおすすめの小説
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
私たちの離婚幸福論
桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
【改稿版】光を忘れたあなたに、永遠の後悔を
桜野なつみ
恋愛
幼き日より、王と王妃は固く結ばれていた。
政略ではなく、互いに慈しみ育んだ、真実の愛。
二人の間に生まれた双子は王国の希望であり、光だった。
だが国に流行病が蔓延したある日、ひとりの“聖女”が現れる。
聖女が癒やしの奇跡を見せたとされ、国中がその姿に熱狂する。
その熱狂の中、王は次第に聖女に惹かれていく。
やがて王は心を奪われ、王妃を遠ざけてゆく……
ーーーーーーーー
初作品です。
自分の読みたい要素をギュッと詰め込みました。
お望み通り、消えてさしあげますわ
梨丸
恋愛
一国の次期王妃と言われていた子爵令嬢アマリリス。
王太子との結婚前夜、彼女は自ら火を放ち、死んだ。
国民達は彼女の死を特に気にもしなかった。それどころか、彼女の死を喜ぶ者もいた。彼女の有していた聖女の力は大したものではなかったし、優れているのは外見だけの“役立たずの聖女”だと噂されるほどだったから。
彼女の死後、すぐさま後釜として皆に好かれていた聖女が次期王妃に召し上げられた。
この国はより豊かになる、皆はそう確信した。
だが、“役立たずの聖女”アマリリスの死後──着実に崩壊は始まっていた。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
※この調子だと短編になりそうです。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月@騎士の夫〜発売中です
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる