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◆第一章◆
Episode03: クロノス
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統治機構――クロノス。
その本部は、上層第二層区画にある。
監獄を彷彿とさせる、重厚かつ装飾のない武骨な鉄の扉。
脇に立つ、やたらとガタイのいい門番は鉄扉によく似合っていた。
「やっぱ趣味わりぃよな……」
これでもかと見栄えを無視した鉄扉は、余裕のないこのフロントの現状を表象しているようで俺は好きになれない。
雅さの欠片も無い扉を、”職員証”を提示してくぐる。
ひとまずは執務室へ向かった。
「ただいま戻りました」
「如月ぃ、さっさとレポート纏めておいてくれ」
「はい」
下層で掻いた嫌な汗をシャワー室で流したかったが、上司に逆らうわけにもいかずデスクへ直行する。
そのまま小一時間作業を続け、終わったころには上がりの時刻になっていた。
上司に今日の視察レポートを提出し、クロノスを出る。
第四層にある自宅には、既に外灯が灯っていた。
「玲二様、お帰りなさいませ。ご主人様がお呼びです」
使用人に軽く手を挙げて応えると、俺はある部屋に急いだ。
「お義父様、お呼びでしょうか」
「入れ」
「失礼します」
部屋に入る。
やたらデカい絵画と、彫金装飾で飾られた大部屋。
奥にある大理石でできたデスクに、俺を呼んだ張本人――如月源蔵――その人がいる。
「玲二。下層に行ったんだってな」
「ええ。職務の一環で視察に」
「どうだった」
「どうだった……とは?」
ときたま、義父は的を得ない質問を投げる。
「そのままの意味だ。お前が何を思ったのか」
「変わらず酷いところだと思いました」
「懐かしい――などとは思わなかったのか」
「いえ、もう過ぎたことですから」
懐かしんだところで、あの日々が戻るわけではない。
それに、今更あの日々に戻りたいとも思わない。
「そうか」
「それで……お義父様、用事とは」
「これで終わりだ。戻っていい」
「……はい」
下層が懐かしかったかどうか――それだけの為に呼んだのか……。
いよいよ義父というものがわからなくなってくる。
「(まあいつものことか……)」
「何か言いたいことがあるのか?」
「いいえ」
「なら戻れ」
「ええ。おやすみなさい」
自室に戻り、ベッドに転がる。
天井を見ながら、今日の出来事を思い出す。
「ガキどもか……」
あいつらはかつての俺と同じだ。
ただ生きるために命をかける。
自分の生まれてきた意味なんて考えたこともない。
いや、考える暇すら与えられなかったといったほうが正しいか。
ただ”死にたくない”から、”死ぬのが怖い”から。
だから――人から奪って生きていく。
「そんな人生クソ喰らえ……だな」
天は人の下に人を作らず――だったか。
だが、あれには続きがある。
―――無学なる者は貧人となり下人となるなり。
最初は貴賤などなかったのかもしれない。
しかし、次の世代――下人から生まれた人間には学を修める機会があるだろうか? きっと、ここから真の格差が生じるのだ。
俺は本当の親の顔を知らない。
「どうせロクでもない下人なんだろうがな……」
「もう寝るか」
今夜は夢見が悪そうだ。
その本部は、上層第二層区画にある。
監獄を彷彿とさせる、重厚かつ装飾のない武骨な鉄の扉。
脇に立つ、やたらとガタイのいい門番は鉄扉によく似合っていた。
「やっぱ趣味わりぃよな……」
これでもかと見栄えを無視した鉄扉は、余裕のないこのフロントの現状を表象しているようで俺は好きになれない。
雅さの欠片も無い扉を、”職員証”を提示してくぐる。
ひとまずは執務室へ向かった。
「ただいま戻りました」
「如月ぃ、さっさとレポート纏めておいてくれ」
「はい」
下層で掻いた嫌な汗をシャワー室で流したかったが、上司に逆らうわけにもいかずデスクへ直行する。
そのまま小一時間作業を続け、終わったころには上がりの時刻になっていた。
上司に今日の視察レポートを提出し、クロノスを出る。
第四層にある自宅には、既に外灯が灯っていた。
「玲二様、お帰りなさいませ。ご主人様がお呼びです」
使用人に軽く手を挙げて応えると、俺はある部屋に急いだ。
「お義父様、お呼びでしょうか」
「入れ」
「失礼します」
部屋に入る。
やたらデカい絵画と、彫金装飾で飾られた大部屋。
奥にある大理石でできたデスクに、俺を呼んだ張本人――如月源蔵――その人がいる。
「玲二。下層に行ったんだってな」
「ええ。職務の一環で視察に」
「どうだった」
「どうだった……とは?」
ときたま、義父は的を得ない質問を投げる。
「そのままの意味だ。お前が何を思ったのか」
「変わらず酷いところだと思いました」
「懐かしい――などとは思わなかったのか」
「いえ、もう過ぎたことですから」
懐かしんだところで、あの日々が戻るわけではない。
それに、今更あの日々に戻りたいとも思わない。
「そうか」
「それで……お義父様、用事とは」
「これで終わりだ。戻っていい」
「……はい」
下層が懐かしかったかどうか――それだけの為に呼んだのか……。
いよいよ義父というものがわからなくなってくる。
「(まあいつものことか……)」
「何か言いたいことがあるのか?」
「いいえ」
「なら戻れ」
「ええ。おやすみなさい」
自室に戻り、ベッドに転がる。
天井を見ながら、今日の出来事を思い出す。
「ガキどもか……」
あいつらはかつての俺と同じだ。
ただ生きるために命をかける。
自分の生まれてきた意味なんて考えたこともない。
いや、考える暇すら与えられなかったといったほうが正しいか。
ただ”死にたくない”から、”死ぬのが怖い”から。
だから――人から奪って生きていく。
「そんな人生クソ喰らえ……だな」
天は人の下に人を作らず――だったか。
だが、あれには続きがある。
―――無学なる者は貧人となり下人となるなり。
最初は貴賤などなかったのかもしれない。
しかし、次の世代――下人から生まれた人間には学を修める機会があるだろうか? きっと、ここから真の格差が生じるのだ。
俺は本当の親の顔を知らない。
「どうせロクでもない下人なんだろうがな……」
「もう寝るか」
今夜は夢見が悪そうだ。
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