息つく間もなく見ています

井村つた

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⑤友達 前編

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 この話は、麻綾さん(1文字仮名)から聞いた話を再構成しています。

 皆さんには友達はいるでしょうか?小学生からの友達、高校の部活が一緒の友達、大学のゼミの友達、同じ会社で仲良くなった友達、コミュニティーサークルで知り合った友達など色んな友達がいると思います。友達だと思っている人、本当に友達ですかというお話です。

 麻綾さんは、大学卒業後誰もが知っている保険会社に就職したそうです。OJTや先輩との同行もこなし、とある会社の担当を任せられるようになりました。食堂がある会社で務めた事がある人は分かるかもしれませんが、食堂でご飯を食べ終わると、声をかけてくる保険会社の人いますよね、あれが麻綾さんの仕事でした。最初はうまく声をかけられなかったり、声をかけても無視されたり、無碍にされたりする事も多く、とても大変な仕事だったそうです。

 そんなたいへんな仕事ですから、同期は皆、仲が良く、みんなで飲みに行くことも多く同僚ではなく友達のような感覚になったそうです。お客さんの中には、しつこくデートに誘ってくるなどする方もいるようで、挙句の果てにはいかがわしい事をすると、契約してあげるなどというとんでもない人も多くはないですが、いたそうです。その話も飲み会で出てきて「〇〇会社の△△って奴からこういう事言われた。ありえない」のようにその話を肴に飲むこともあったそうです。

 入社して1年が過ぎ、後輩も入ってきた頃でした。麻綾さんの同僚の美沙さん(1文字仮名)が合コンを開いてくれるというので、そこまで興味がなかったのですが、参加してみました。参加者は、麻綾さん、美沙さん、そして智美さん(仮名)でした。3人は同期の中でも仲がよく、大勢で行く飲み会とは別に、3人で土曜日のお昼を食べたり、美術館などにも行く仲だったそうです。

 合コン当日、主催者の美沙さんが思いがけない事を言いました。「実は合コンには私の彼氏が参加する」と言ったそうです。美沙さんには、彼氏がおり、智美さんが合コンを開け合コンを開けというので、彼氏に頼んで他の男性を誘ってくれたそうです。そのため、正確にいうと合コンでなく、美沙さんカップル2人と美沙さんの同僚の麻綾さんと智美さん、そして、美沙さんの彼氏の同僚2人の6人での飲み会だったそうです。智美さんは知っていたようなのですが、麻綾さんは知らなかったので、何か騙されて人数合わせに使われたなと思ったそうなのですが、気持ちを切り替えて飲み会に行ったそうです。

 合コンという名前の飲み会が、スタートします。小奇麗なイタリアン風のお店で、色んな種類の梅酒が飲み放題でした。6人掛けのテーブルで美沙さんの向かいに美沙さんの彼氏、美沙さんの横に智美さん、その横に麻綾さん。そのそれぞれの向かいに美沙さんの彼氏の同僚2人が座っているという座席でした。簡単な自己紹介が行われて、みんなでわいわい楽しく飲んだそうです。麻綾さんの向かいに座っている男性は、身長も180センチ程度あり、優しそうで場を和ますような素敵な男性だったそうです。直道さん(仮名)という名前で、麻綾さんとも会話が弾んでいたそうです。智美さんも2人の会話に交じってきて、会社の愚痴や結婚観なども楽しく喋ったそうです。

 1件目が終わり、2件目どうするみたいな話をお店の外でしていた所、大雨が降ってきたので、今日はここで解散しようという事になりました。それぞれメールアドレス(当時はラインがありません)を交換して、麻綾さんは直道さんとその隣にいた男性とメールアドレスを交換しました。美沙さんの彼氏とはさすがにメールアドレスの交換はしなかったそうです。

 駅でみんなと別れて電車に乗っていると、さきほどの直道さんから「今日は楽しかったです。また飲みに行きましょう」のような社交辞令的なメッセージが届きました。麻綾さんも「こちらこそ楽しかったです。また是非」のような簡単な返信をしたそうです。
 
 次の週の月曜日の朝、智美さんが麻綾さんに声をかけてきます。「合コンの男性陣からメールきた?」と聞かれたので、直道さんから社交辞令のメールが来たよと返事をしました。智美さんは、「そっか」と言って、自分のデスクに戻っていきました。

 次の木曜日に直道さんから1通のメッセージが届きました。「明日か明後日、2人で飲みにいきませんか?」というデートのお誘いでした。まあまあ好みのタイプであったので、2つ返事で麻綾さんはデートに出かける事にしたそうです。土曜日のデート当日、ちょっとめかしこんで、麻綾さんが待ち合わせ場所で待っていると私服の直道さんが走ってきました。はっきり言って、ダサかったそうですが、息を切らしながら「すみません。電車が少し遅れて」と言う彼に好感をもったそうです。映画を見たのですが、とてつもなく面白くないホラー映画だったので、逆に映画館を出た後に会話が弾んだそうです。小洒落たピザ屋さんでワインなども飲み、この後、どうするんだろう。と麻綾さんが思っていた所、しっかりと駅まで送ってくれて「また今度遊んでくれませんか?」と言われたそうです。初回のデートで大人の関係になる事もあると思っていた麻綾さんですが、きっちりしている人だなと直道さんを好きになったそうです。

 デートを複数回重ね、2人は付き合うようになりました。美沙さんと智美さんにもきっちりと報告をしたそうです。美沙さんは「いつの間に、魔性の女だね」と茶化したきたそうなのですが、智美さんは「あの人はやめておいた方が、、、まあ私の勘だけどね」と少し暗いトーンで言ってきました。智美さんが何を言おうと、自分が好きなのですから、別に麻綾さんも気にしていなかったそうです。

 付き合い初めて3か月程度した頃でしょうか。金曜日に智美さんが麻綾さんに「明日家に行っても良い?」と聞いてきました。麻綾さんは「ごめん、明日は彼氏が来るから」と言ったそうなのですが、「気にしないから大丈夫だよ」と家に来る事になってしまいました。そういう事じゃないのにと麻綾さんは思ったそうなのですが、断れない性格が災いして、翌日お昼から3人で家でご飯を食べる事になりました。

 土曜日のお昼3時ごろにやってきた智美さん。2人で買い物をしていると、たこ焼きパーティーをしようとなりました。タコやチーズなど色んな食材を買って家に帰りました。麻綾さんと智美さんがたこ焼きを作りながら、チューハイを飲んでいると17時半ごろに直道さんが色んなお菓子やお酒を買ってきてくれました。智美さんは「お久しぶりです。覚えていますか?」と直道さんに言いました。直道さんも笑顔で「覚えています。あの梅酒のお店で」と覚えていたそうです。それから3人はたこ焼きに悪戦苦闘しながら、楽しい時間を過ごしました。

 狭いワンルームにシングルベッドが置いてあり、その前にこたつがあります。3人で2辺しか使えないので少し狭いです。お酒の勢いもあってか、智美さんが直道さんをベシベシと叩いており、少しベタベタしすぎだな。と麻綾さんは思っていたのですが、まあそういう日もあるかとお酒をどんどん飲んだそうです。

 気がついたら、眠っていた麻綾さん。テレビも電気もつけっぱなし、こたつに体を入れた状態で、目が覚めました。何時か分からない、時計を見ると24時30分だったそうです。頭が痛い、部屋を出てキッチンと廊下が一体化した所にある冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注いで一気飲みします。頭が痛い、完全に飲みすぎたと思ったそうです。2人はどうなったのかと思い、部屋に戻るととんでもない光景が目に入ってきました。

 長くなりましたので、後半に続きます。
 


















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