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天地開闢編
第4話 神産み──炎上案件
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国産みの作業は順調に進んでいた。
淡路、四国、九州、本州……八つの島をクラフトして「大八島国」は完成。
さらに二人は山や海、風や雨を司る神々を次々と生み出し、世界は少しずつ秩序を帯びていった。
ここまでくると、イザナギとイザナミはそれなりに「俺たち、やればできるじゃん」って自信を持ち始めていたに違いない。
ゲームで言えばチュートリアルから中盤に差し掛かり、拠点もNPCも揃ってきた頃。
そろそろ「次はラスボスかな?」なんて考えるくらいの達成感。
だが神話はそんな都合のいい展開を許さない。
炎を宿す子
最後に二人が生んだのは「火の神・カグツチ」。
その身体は炎そのもの。
真っ赤な光を放ち、誕生の瞬間、島々の大地が焼け焦げるほどの熱を発した。
イザナミの顔に苦悶の表情が浮かぶ。
「……っ、熱い……!」
産声は、赤子の泣き声ではなく、燃え盛る焔の轟きだった。
イザナミの体を内側から灼き尽くし、彼女は激しい痛みにのたうった。
イザナギはただ、その手を握るしかない。
「大丈夫だ、イザナミ! お前は強い……!」
叫ぶ声は、どこか必死で、そして無力だった。
喪失
火の神の誕生は、母の命と引き換えだった。
イザナミは燃え盛るように衰弱していき、やがて横たわったまま動かなくなる。
その姿は、美しくも痛々しい。
国を生み、神々を生み、最後には“炎”を残して去った。
古事記はあっさりと「イザナミは火の神を生んで死んだ」と書くだけだ。
けれど、ここに至るまでの苦悶や喪失感を想像すると、その一文の冷徹さが逆に胸を締め付ける。
イザナギは呆然と立ち尽くした。
目の前には燃える赤子、カグツチ。
そして、冷たくなっていく妻の身体。
「なぜ……どうして……」
国産みの達成感は一瞬で吹き飛び、残ったのは絶望だけだった。
創造と喪失は常にセット。
神話はそのことを容赦なく突きつけてくる。
怒りと悲しみ
イザナギの心には、怒りが湧き上がった。
奪われた妻。
原因は、火の神カグツチ。
「お前さえいなければ……!」
彼は剣を抜き、わが子に刃を振るった。
愛の結晶であるはずの子を、その手で斬り伏せる。
血しぶきが大地に降り注ぎ、そこからまた新たな神々が生まれた。
怒りと悲しみの産物。
人間で言えば「失敗の残骸からバグが派生して、別のキャラが追加される」ようなものだ。
神話はここで、愛と創造の物語から、怒りと復讐の物語へと転じる。
絶望の果てに
イザナギはイザナミを抱きかかえる。
その身体はすでに冷たい。
「一緒に国を作ろう」そう誓ったのに、その約束は果たされなかった。
「待っていろ……イザナミ。必ず迎えに行く」
その決意とともに、彼の視線は黄泉の国――死者の世界へと向かう。
そこに妻がいるのなら、たとえ禁忌を犯そうとも会いに行く。
まとめ
神産みの最後に火の神カグツチが誕生
その炎でイザナミは焼かれ、命を落とす
イザナギは絶望し、怒りに駆られてカグツチを斬殺
その血からさらに新たな神々が生まれる
物語は「創造」から「喪失と復讐」へと転換
国を生み、神々を生み、そして炎に奪われる。
神話の物語は、甘美な創造の喜びと、残酷な喪失の悲しみを同じ筆で描く。
第4話は、イザナミの死という取り返しのつかない出来事で幕を閉じる。
けれどイザナギの旅はここで終わらない。
愛する妻を取り戻すため、彼は禁忌の領域――黄泉の国へと足を踏み入れるのだ。
淡路、四国、九州、本州……八つの島をクラフトして「大八島国」は完成。
さらに二人は山や海、風や雨を司る神々を次々と生み出し、世界は少しずつ秩序を帯びていった。
ここまでくると、イザナギとイザナミはそれなりに「俺たち、やればできるじゃん」って自信を持ち始めていたに違いない。
ゲームで言えばチュートリアルから中盤に差し掛かり、拠点もNPCも揃ってきた頃。
そろそろ「次はラスボスかな?」なんて考えるくらいの達成感。
だが神話はそんな都合のいい展開を許さない。
炎を宿す子
最後に二人が生んだのは「火の神・カグツチ」。
その身体は炎そのもの。
真っ赤な光を放ち、誕生の瞬間、島々の大地が焼け焦げるほどの熱を発した。
イザナミの顔に苦悶の表情が浮かぶ。
「……っ、熱い……!」
産声は、赤子の泣き声ではなく、燃え盛る焔の轟きだった。
イザナミの体を内側から灼き尽くし、彼女は激しい痛みにのたうった。
イザナギはただ、その手を握るしかない。
「大丈夫だ、イザナミ! お前は強い……!」
叫ぶ声は、どこか必死で、そして無力だった。
喪失
火の神の誕生は、母の命と引き換えだった。
イザナミは燃え盛るように衰弱していき、やがて横たわったまま動かなくなる。
その姿は、美しくも痛々しい。
国を生み、神々を生み、最後には“炎”を残して去った。
古事記はあっさりと「イザナミは火の神を生んで死んだ」と書くだけだ。
けれど、ここに至るまでの苦悶や喪失感を想像すると、その一文の冷徹さが逆に胸を締め付ける。
イザナギは呆然と立ち尽くした。
目の前には燃える赤子、カグツチ。
そして、冷たくなっていく妻の身体。
「なぜ……どうして……」
国産みの達成感は一瞬で吹き飛び、残ったのは絶望だけだった。
創造と喪失は常にセット。
神話はそのことを容赦なく突きつけてくる。
怒りと悲しみ
イザナギの心には、怒りが湧き上がった。
奪われた妻。
原因は、火の神カグツチ。
「お前さえいなければ……!」
彼は剣を抜き、わが子に刃を振るった。
愛の結晶であるはずの子を、その手で斬り伏せる。
血しぶきが大地に降り注ぎ、そこからまた新たな神々が生まれた。
怒りと悲しみの産物。
人間で言えば「失敗の残骸からバグが派生して、別のキャラが追加される」ようなものだ。
神話はここで、愛と創造の物語から、怒りと復讐の物語へと転じる。
絶望の果てに
イザナギはイザナミを抱きかかえる。
その身体はすでに冷たい。
「一緒に国を作ろう」そう誓ったのに、その約束は果たされなかった。
「待っていろ……イザナミ。必ず迎えに行く」
その決意とともに、彼の視線は黄泉の国――死者の世界へと向かう。
そこに妻がいるのなら、たとえ禁忌を犯そうとも会いに行く。
まとめ
神産みの最後に火の神カグツチが誕生
その炎でイザナミは焼かれ、命を落とす
イザナギは絶望し、怒りに駆られてカグツチを斬殺
その血からさらに新たな神々が生まれる
物語は「創造」から「喪失と復讐」へと転換
国を生み、神々を生み、そして炎に奪われる。
神話の物語は、甘美な創造の喜びと、残酷な喪失の悲しみを同じ筆で描く。
第4話は、イザナミの死という取り返しのつかない出来事で幕を閉じる。
けれどイザナギの旅はここで終わらない。
愛する妻を取り戻すため、彼は禁忌の領域――黄泉の国へと足を踏み入れるのだ。
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