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本編
第十九章:雪桜
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三月の風はまだ冷たいけれど、日差しには確かな春の匂いが混じっている。
私たちの通う私立女子高の敷地内には、早咲きの河津桜が植えられた並木道がある。ソメイヨシノよりも濃い、あざといほどのピンク色が、灰色の校舎を背景に艶やかに咲き誇っていた。
世間ではこれからが桜の季節だというのに、私たちの学校では、卒業式の日こそが満開のピークだ。まるで、今日巣立っていく先輩たちの前途を祝うように、あるいは別れを惜しんで泣き腫らした目元のように、木々は鮮烈な色を主張している。
体育館からは、吹奏楽部が奏でる「仰げば尊し」の重厚な旋律と、マイクを通した校長先生の祝辞が漏れ聞こえてくる。
私はその喧騒から逃れるようにして、旧校舎の三階、一番奥にある資料室に身を潜めていた。
ここは、普段は鍵がかかっているはずの「開かずの間」。だけど、図書委員長だった先輩がこっそりスペアキーを複製して持っていたおかげで、私たちにとっては一年間、二人だけの秘密の楽園だった場所だ。
埃っぽい古い紙の匂いと、先輩がつけているホワイトリリーの香水の残り香。
窓枠に腰掛け、ガラス越しに見える満開の桜並木を眺める。ここからは、校庭の桜が一番きれいに見える。
そして、カーテンを閉めれば、誰にも邪魔されずに、お互いの体温を確かめ合うことができた場所。
「……遅いなぁ、美雪(みゆき)先輩」
私は自分の膝を抱え、制服のスカートの裾をぎゅっと握りしめた。
今日は卒業式。主役である先輩が忙しいのは分かっている。クラスでの最後のホームルーム、後輩たちからの花束贈呈、写真撮影……。人気者の美雪先輩のことだ、きっと今頃、色んな人に囲まれて、あの優しい微笑みを振りまいているに違いない。
そう想像するだけで、胸の奥がチクリと痛む。
独占欲と、焦燥感。
明日からは、先輩はもうこの学校にはいない。
女子大生になって、新しい世界で、新しい出会いをして……私の知らない「美雪さん」になってしまう。
カツ、カツ、カツ……。
静まり返った廊下に、硬い足音が響いた。上履きのゴム音じゃない。草履の、凛とした音だ。
心臓がドクン♥ と大きく跳ねる。
ガチャリ、と鍵が回る音がして、重たい引き戸が開かれた。
「――おまたせ、彩花(あやか)」
逆光の中に立っていたのは、息を飲むほど美しい「和」の装いの先輩だった。
矢絣(やがすり)模様の着物に、深い紫紺色の袴。艶やかな黒髪はハーフアップに結い上げられ、桜の髪飾りが揺れている。
いつものブレザー姿も好きだったけれど、今日の先輩は、なんだか遠い世界のお姫様みたいで、神々しいほどだった。
「先輩……」
「ごめんね、なかなか抜け出せなくて。みんなが写真撮ろうって離してくれなくてさ」
先輩は苦笑いしながら戸を閉め、鍵をかける。
その「カチャ」という金属音が、世界と私たちを隔絶するスイッチだった。
先輩がこちらへ歩み寄ってくる。衣擦れの音が、シャラシャラと耳に心地よい。
「卒業、おめでとうございます」
「ふふ、ありがとう。彩花も、あと一年だね」
先輩が私の前に立ち、少し背伸びをして私の頭を撫でる。
その手つきはいつも通りの優しいものだったけれど、私はたまらなくなって、先輩の細い腰に腕を回して抱きついた。
「うぅ……っ、先輩ぃ……っ」
「あらあら、泣き虫さんは今日も健在だ」
鼻をすする私を、先輩が優しく抱き締め返してくれる。
着物の滑らかな手触りと、おしろいの混じった上品な香り。硬い帯の感触が、いつもより少しだけ距離を感じさせて、余計に切なさが募った。
「嫌です……行かないでください……」
「馬鹿ね。一生会えないわけじゃないのよ? 電車で一時間もあれば会える距離じゃない」
「でも……学校に来ても先輩がいないなんて、耐えられないです……」
「彩花……」
先輩の手が、私の頬を包み込む。
見上げると、先輩の瞳もまた、潤んで揺れていた。
いつも余裕ぶって私をからかう先輩も、本当は寂しいと思ってくれている。それが嬉しくて、胸が締め付けられる。
「私も、寂しいよ。彩花と毎日会えなくなるなんて……考えたくない」
先輩の顔が近づいてくる。
紅を引いた唇が、私の唇に重なった。
チュッ♥
最初は触れるだけの、挨拶のようなキス。
でも、すぐにそれでは足りなくなって、私が先輩の袴の背中を強く掴むと、先輩も呼応するように深く舌を入れてきた。
「んっ……ふぁ……っ、んちゅ♥」
口紅の味がする。少し苦くて、でも甘い、大人の味。
舌先が絡み合い、互いの唾液を交換し合う。
ジュル、レロ……チュプッ♥
静かな資料室に、水っぽい音が反響する。
窓の外では満開の桜が風に揺れているけれど、今の私たちの視界にはお互いのことしか映っていない。
「はぁ……っ、彩花……可愛い……♥」
「せん、ぱい……っ、もっと……♥」
理性が湯気のように蒸発していく。
別れの悲しみを塗りつぶすように、私たちは貪り合った。
先輩の手が、私のブレザーのボタンを外し、ブラウスの中に滑り込んでくる。
冷えた指先が熱い肌に触れ、背筋に電流が走った。
「ひゃうっ♥ つめた、い……」
「ごめん、外、寒かったから……でも、彩花の中はあったかいね」
先輩の指が、ブラジャーのホックを器用に外す。
解放された胸が、先輩の手のひらに包み込まれた。
ムニュッ♥
優しく、慈しむように揉まれる感覚に、膝の力が抜けていく。
「彩花のここ、ドキドキ言ってる。私のこと、そんなに好き?」
「すき……っ、大好きです、世界で一番……っ♥」
「私もよ。……ねえ、させて? 彩花の中に、私の証、刻みつけたい」
先輩の妖艶なウィスパーボイスに、私はコクコクと頷くことしかできなかった。
窓際の机に私が腰掛け、先輩がその間に割り込む。
私のスカートが捲くり上げられ、チェック柄の下着が露わになる。
恥ずかしいけれど、先輩に見られることだけは、快感だった。
「濡れてる……ぐしょぐしょじゃない♥」
「だって……先輩が、今日すっごく綺麗だから……っ」
「ふふ、素直でよろしい」
先輩が意地悪く笑い、下着をずらして、そこへ指を這わせる。
クチュッ♥
粘着質な音がして、私は思わず先輩の肩にしがみついた。
「んああっ♥ 先輩、そこっ……!」
一方で、私も先輩に触れたかった。
でも、袴はどうなっているのか分からない。
焦る私の手つきを見て、先輩が小さく笑い、私の手を導いた。
「こっちから……ここ、開いてるの」
着物の脇、身八つ口(みやつぐち)と呼ばれるスリットから手を差し入れる。
幾重にも重なった布の奥、さらしが巻かれた胸の膨らみや、帯の下の柔らかなお腹。
そして、袴の裾から手を潜り込ませると、そこには無防備な太ももがあった。
「あっ……んっ♥ 彩花の手、あったかい……」
先輩の足に触れた瞬間、先輩の身体がビクンと震えた。
いつもはリードしてくれる先輩が、私のタッチ一つで崩れ落ちそうになる。
その反応が愛おしくて、私は大胆に太ももの内側を撫で上げた。
袴の中は蒸れていて、濃厚な百合の香りが立ち込めている。
「先輩も……濡れてます……♥」
「……うるさい。全部、彩花のせいよ……っ」
先輩が顔を赤らめ、私の首筋に噛み付くようにキスをしてきた。
痛みと快楽のスパーク。
私たちは互いの秘所をまさぐり合い、涙で視界を滲ませながら、獣のように求め合った。
「ああっ、彩花、そこ、いいっ♥ もっと奥っ……!」
「私もっ、先輩の指、気持ちいい……っ! おかしくなるぅっ♥」
窓の外、風が強くなってきたのか、桜の花びらが激しく舞い散っている。
ピンク色の吹雪。
その美しい背景の中で、髪を乱し、袴を着崩し、涙と涎(よだれ)で顔をぐしゃぐしゃにして喘ぐ先輩は、この世のものとは思えないほど美しかった。
「っ、いく! 彩花、いくっ! 一緒にっ……!!♥」
「はいっ、私もっ、イき、ますぅぅぅッ!!♥♥」
絶頂の瞬間、私たちは強く抱き合い、お互いの存在を身体に刻み込むように硬直した。
脳内で火花が散り、世界が真っ白に染まる。
ドクドク、ドクドク……。
重なった心臓の音が、まるで一つの生命体のように共鳴していた。
***
荒い呼吸が落ち着くまで、私たちはどちらからともなく抱き合ったまま、窓の外を眺めていた。
事後の気だるさと、幸福感。そして、またすぐに訪れる別れの予感。
様々な感情が入り混じり、私の目から再び涙がこぼれ落ちた。
「……泣かないで」
先輩が、私の涙を指で拭ってくれる。
その時だった。
「……え?」
私の頬に、ポツリと冷たい雫が落ちた。
先輩の指先よりも、私の涙よりも、ずっと冷たくて、儚い感触。
見上げると、先輩も驚いたように空を見上げている。
「ねえ、見て、彩花……!」
先輩が指差した窓の外。
さっきまで舞っていた桜の花びらに混じって、白い、ふわふわとしたものが空から舞い降りてきていた。
それは風に舞う花びらよりも軽く、静かに、ピンク色の景色を白く染めていく。
「雪……?」
嘘みたいだ。もう三月も半ばを過ぎているのに。
満開の桜の上に降り注ぐ、季節外れの牡丹雪。
ピンクと白のコントラストが、あまりにも幻想的で、現実感を奪っていく。
「『雪桜』だ……」
先輩がうっとりとした声で呟いた。
雪桜。満開の桜に雪が積もる、稀有な現象。
美しくて、冷たくて、すぐに溶けて消えてしまう奇跡のような景色。
「綺麗……ですね」
「うん……。まるで、私たちの卒業を祝ってくれてるみたい」
先輩が私を背後から抱きしめ、肩に顎を乗せてくる。
耳元で囁かれる声が、雪のように染み渡る。
「彩花。私、大学に行っても、絶対浮気しないから」
「……ふふ、当たり前ですよ。もししたら、私が呪います」
「こわっ。……でも、それくらいのほうがいいかもね」
先輩がクスクスと笑い、私の耳たぶを甘噛みした。
チュッ♥
「待ってるから。来年、絶対迎えに来てね」
「はい。……死ぬ気で勉強して、絶対先輩の隣に行きますから」
窓の外では、雪が激しさを増し、桜の枝を白く化粧していく。
この景色を、私は一生忘れないだろう。
冷たい雪と、温かい先輩の体温。
そして、甘酸っぱくて切ない、私たちだけの秘密の味。
雪と桜が混じり合う空の下、私たちは再会を誓い、もう一度、長く深い口づけを交わした。
(第十九章 完)
私たちの通う私立女子高の敷地内には、早咲きの河津桜が植えられた並木道がある。ソメイヨシノよりも濃い、あざといほどのピンク色が、灰色の校舎を背景に艶やかに咲き誇っていた。
世間ではこれからが桜の季節だというのに、私たちの学校では、卒業式の日こそが満開のピークだ。まるで、今日巣立っていく先輩たちの前途を祝うように、あるいは別れを惜しんで泣き腫らした目元のように、木々は鮮烈な色を主張している。
体育館からは、吹奏楽部が奏でる「仰げば尊し」の重厚な旋律と、マイクを通した校長先生の祝辞が漏れ聞こえてくる。
私はその喧騒から逃れるようにして、旧校舎の三階、一番奥にある資料室に身を潜めていた。
ここは、普段は鍵がかかっているはずの「開かずの間」。だけど、図書委員長だった先輩がこっそりスペアキーを複製して持っていたおかげで、私たちにとっては一年間、二人だけの秘密の楽園だった場所だ。
埃っぽい古い紙の匂いと、先輩がつけているホワイトリリーの香水の残り香。
窓枠に腰掛け、ガラス越しに見える満開の桜並木を眺める。ここからは、校庭の桜が一番きれいに見える。
そして、カーテンを閉めれば、誰にも邪魔されずに、お互いの体温を確かめ合うことができた場所。
「……遅いなぁ、美雪(みゆき)先輩」
私は自分の膝を抱え、制服のスカートの裾をぎゅっと握りしめた。
今日は卒業式。主役である先輩が忙しいのは分かっている。クラスでの最後のホームルーム、後輩たちからの花束贈呈、写真撮影……。人気者の美雪先輩のことだ、きっと今頃、色んな人に囲まれて、あの優しい微笑みを振りまいているに違いない。
そう想像するだけで、胸の奥がチクリと痛む。
独占欲と、焦燥感。
明日からは、先輩はもうこの学校にはいない。
女子大生になって、新しい世界で、新しい出会いをして……私の知らない「美雪さん」になってしまう。
カツ、カツ、カツ……。
静まり返った廊下に、硬い足音が響いた。上履きのゴム音じゃない。草履の、凛とした音だ。
心臓がドクン♥ と大きく跳ねる。
ガチャリ、と鍵が回る音がして、重たい引き戸が開かれた。
「――おまたせ、彩花(あやか)」
逆光の中に立っていたのは、息を飲むほど美しい「和」の装いの先輩だった。
矢絣(やがすり)模様の着物に、深い紫紺色の袴。艶やかな黒髪はハーフアップに結い上げられ、桜の髪飾りが揺れている。
いつものブレザー姿も好きだったけれど、今日の先輩は、なんだか遠い世界のお姫様みたいで、神々しいほどだった。
「先輩……」
「ごめんね、なかなか抜け出せなくて。みんなが写真撮ろうって離してくれなくてさ」
先輩は苦笑いしながら戸を閉め、鍵をかける。
その「カチャ」という金属音が、世界と私たちを隔絶するスイッチだった。
先輩がこちらへ歩み寄ってくる。衣擦れの音が、シャラシャラと耳に心地よい。
「卒業、おめでとうございます」
「ふふ、ありがとう。彩花も、あと一年だね」
先輩が私の前に立ち、少し背伸びをして私の頭を撫でる。
その手つきはいつも通りの優しいものだったけれど、私はたまらなくなって、先輩の細い腰に腕を回して抱きついた。
「うぅ……っ、先輩ぃ……っ」
「あらあら、泣き虫さんは今日も健在だ」
鼻をすする私を、先輩が優しく抱き締め返してくれる。
着物の滑らかな手触りと、おしろいの混じった上品な香り。硬い帯の感触が、いつもより少しだけ距離を感じさせて、余計に切なさが募った。
「嫌です……行かないでください……」
「馬鹿ね。一生会えないわけじゃないのよ? 電車で一時間もあれば会える距離じゃない」
「でも……学校に来ても先輩がいないなんて、耐えられないです……」
「彩花……」
先輩の手が、私の頬を包み込む。
見上げると、先輩の瞳もまた、潤んで揺れていた。
いつも余裕ぶって私をからかう先輩も、本当は寂しいと思ってくれている。それが嬉しくて、胸が締め付けられる。
「私も、寂しいよ。彩花と毎日会えなくなるなんて……考えたくない」
先輩の顔が近づいてくる。
紅を引いた唇が、私の唇に重なった。
チュッ♥
最初は触れるだけの、挨拶のようなキス。
でも、すぐにそれでは足りなくなって、私が先輩の袴の背中を強く掴むと、先輩も呼応するように深く舌を入れてきた。
「んっ……ふぁ……っ、んちゅ♥」
口紅の味がする。少し苦くて、でも甘い、大人の味。
舌先が絡み合い、互いの唾液を交換し合う。
ジュル、レロ……チュプッ♥
静かな資料室に、水っぽい音が反響する。
窓の外では満開の桜が風に揺れているけれど、今の私たちの視界にはお互いのことしか映っていない。
「はぁ……っ、彩花……可愛い……♥」
「せん、ぱい……っ、もっと……♥」
理性が湯気のように蒸発していく。
別れの悲しみを塗りつぶすように、私たちは貪り合った。
先輩の手が、私のブレザーのボタンを外し、ブラウスの中に滑り込んでくる。
冷えた指先が熱い肌に触れ、背筋に電流が走った。
「ひゃうっ♥ つめた、い……」
「ごめん、外、寒かったから……でも、彩花の中はあったかいね」
先輩の指が、ブラジャーのホックを器用に外す。
解放された胸が、先輩の手のひらに包み込まれた。
ムニュッ♥
優しく、慈しむように揉まれる感覚に、膝の力が抜けていく。
「彩花のここ、ドキドキ言ってる。私のこと、そんなに好き?」
「すき……っ、大好きです、世界で一番……っ♥」
「私もよ。……ねえ、させて? 彩花の中に、私の証、刻みつけたい」
先輩の妖艶なウィスパーボイスに、私はコクコクと頷くことしかできなかった。
窓際の机に私が腰掛け、先輩がその間に割り込む。
私のスカートが捲くり上げられ、チェック柄の下着が露わになる。
恥ずかしいけれど、先輩に見られることだけは、快感だった。
「濡れてる……ぐしょぐしょじゃない♥」
「だって……先輩が、今日すっごく綺麗だから……っ」
「ふふ、素直でよろしい」
先輩が意地悪く笑い、下着をずらして、そこへ指を這わせる。
クチュッ♥
粘着質な音がして、私は思わず先輩の肩にしがみついた。
「んああっ♥ 先輩、そこっ……!」
一方で、私も先輩に触れたかった。
でも、袴はどうなっているのか分からない。
焦る私の手つきを見て、先輩が小さく笑い、私の手を導いた。
「こっちから……ここ、開いてるの」
着物の脇、身八つ口(みやつぐち)と呼ばれるスリットから手を差し入れる。
幾重にも重なった布の奥、さらしが巻かれた胸の膨らみや、帯の下の柔らかなお腹。
そして、袴の裾から手を潜り込ませると、そこには無防備な太ももがあった。
「あっ……んっ♥ 彩花の手、あったかい……」
先輩の足に触れた瞬間、先輩の身体がビクンと震えた。
いつもはリードしてくれる先輩が、私のタッチ一つで崩れ落ちそうになる。
その反応が愛おしくて、私は大胆に太ももの内側を撫で上げた。
袴の中は蒸れていて、濃厚な百合の香りが立ち込めている。
「先輩も……濡れてます……♥」
「……うるさい。全部、彩花のせいよ……っ」
先輩が顔を赤らめ、私の首筋に噛み付くようにキスをしてきた。
痛みと快楽のスパーク。
私たちは互いの秘所をまさぐり合い、涙で視界を滲ませながら、獣のように求め合った。
「ああっ、彩花、そこ、いいっ♥ もっと奥っ……!」
「私もっ、先輩の指、気持ちいい……っ! おかしくなるぅっ♥」
窓の外、風が強くなってきたのか、桜の花びらが激しく舞い散っている。
ピンク色の吹雪。
その美しい背景の中で、髪を乱し、袴を着崩し、涙と涎(よだれ)で顔をぐしゃぐしゃにして喘ぐ先輩は、この世のものとは思えないほど美しかった。
「っ、いく! 彩花、いくっ! 一緒にっ……!!♥」
「はいっ、私もっ、イき、ますぅぅぅッ!!♥♥」
絶頂の瞬間、私たちは強く抱き合い、お互いの存在を身体に刻み込むように硬直した。
脳内で火花が散り、世界が真っ白に染まる。
ドクドク、ドクドク……。
重なった心臓の音が、まるで一つの生命体のように共鳴していた。
***
荒い呼吸が落ち着くまで、私たちはどちらからともなく抱き合ったまま、窓の外を眺めていた。
事後の気だるさと、幸福感。そして、またすぐに訪れる別れの予感。
様々な感情が入り混じり、私の目から再び涙がこぼれ落ちた。
「……泣かないで」
先輩が、私の涙を指で拭ってくれる。
その時だった。
「……え?」
私の頬に、ポツリと冷たい雫が落ちた。
先輩の指先よりも、私の涙よりも、ずっと冷たくて、儚い感触。
見上げると、先輩も驚いたように空を見上げている。
「ねえ、見て、彩花……!」
先輩が指差した窓の外。
さっきまで舞っていた桜の花びらに混じって、白い、ふわふわとしたものが空から舞い降りてきていた。
それは風に舞う花びらよりも軽く、静かに、ピンク色の景色を白く染めていく。
「雪……?」
嘘みたいだ。もう三月も半ばを過ぎているのに。
満開の桜の上に降り注ぐ、季節外れの牡丹雪。
ピンクと白のコントラストが、あまりにも幻想的で、現実感を奪っていく。
「『雪桜』だ……」
先輩がうっとりとした声で呟いた。
雪桜。満開の桜に雪が積もる、稀有な現象。
美しくて、冷たくて、すぐに溶けて消えてしまう奇跡のような景色。
「綺麗……ですね」
「うん……。まるで、私たちの卒業を祝ってくれてるみたい」
先輩が私を背後から抱きしめ、肩に顎を乗せてくる。
耳元で囁かれる声が、雪のように染み渡る。
「彩花。私、大学に行っても、絶対浮気しないから」
「……ふふ、当たり前ですよ。もししたら、私が呪います」
「こわっ。……でも、それくらいのほうがいいかもね」
先輩がクスクスと笑い、私の耳たぶを甘噛みした。
チュッ♥
「待ってるから。来年、絶対迎えに来てね」
「はい。……死ぬ気で勉強して、絶対先輩の隣に行きますから」
窓の外では、雪が激しさを増し、桜の枝を白く化粧していく。
この景色を、私は一生忘れないだろう。
冷たい雪と、温かい先輩の体温。
そして、甘酸っぱくて切ない、私たちだけの秘密の味。
雪と桜が混じり合う空の下、私たちは再会を誓い、もう一度、長く深い口づけを交わした。
(第十九章 完)
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