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本編
第二十六章:蜜と毒のバックステージ、チェキ廃が堕ちる夜
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地下二階、ライブハウス特有のタバコと香水、そして湿った熱気の匂いが充満するフロア。
耳鳴りが止まない。爆音の重低音と、黄色い悲鳴がまだ鼓膜に焼き付いている。
私たちが崇拝するのは、アイドル崩れのキラキラしたガールズバンドじゃない。
黒の細身のスーツに身を包み、ヴィジュアル系の退廃美を纏った4人組ロックバンド『Vier(フィーア)』。
男の影を一切感じさせないその硬派で耽美な世界観に、フロアの九割を占める「バンギャ(女性ファン)」たちは熱狂し、頭を振り乱し、そして金を落とす。
私、麻衣(まい)もその一人だ。
しがないOLの給料の殆どを、推しであるギタリスト・カオル様のチェキ(ポラロイド写真)に注ぎ込んでいる、いわゆる「チェキ廃」だ。
「……はぁ。今日もカオル様、尊かった……」
物販列の最後尾。財布の中身は空っぽだけど、手元には数十枚のカオル様のチェキがある。
それだけで幸せだった。ステージ上の神様と、ほんの一瞬、撮影の時だけ触れ合える。それ以上のことなんて望んでいなかった。
――はずだった。
「ねえ、麻衣ちゃん」
不意に声をかけられた。
ドキリとする。声をかけてきたのは、ファンの間でも有名な「TO(トップオタ)」であり、カオル様との「繋がり(私的交流)」が噂されている古参ファンの女性、レイカさんだった。
全身をハイブランドの黒服で固めた彼女は、値踏みするような目で私を見下ろした。
「今日、結構積んでた(お金を使っていた)わよね。カオルが、麻衣ちゃんのこと気になってるみたい」
「え……? そ、それって……」
「『もっと近くで話したい』って。……意味、わかるよね?」
背筋に冷たいものが走る。
この界隈には、暗黙のルールがある。「蜜(金銭的貢ぎ)」や「繋がり」といった、表には出せない闇の風習。
レイカさんが提示しているのは、ファンとしての一線を越える招待状だ。
断れば、このコミュニティでの居場所はなくなるかもしれない。でも、頷けば――。
「……行きます。行かせてください」
私は、震える声で答えていた。
推しに近づけるなら、地獄でも構わない。そんな狂気が、私を突き動かしていた。
***
連れて行かれたのは、ライブハウスからタクシーで数分のシティホテル。
レイカさんはフロントで慣れた手つきでカードキーを受け取ると、「じゃあ、粗相のないようにね」と私をエレベーター前で突き放した。
どうやら、ここからは一人らしい。
指定された部屋番号。重厚なドアの前で深呼吸をする。
ノックをする手が震える。
「……どうぞ」
中から聞こえたのは、マイクを通さない、低くてハスキーな「生」の声。
私は意を決してドアを開けた。
薄暗い間接照明の部屋。タバコの煙が白く漂っている。
ベッドの縁に腰掛け、メンソールタバコをふかしていたのは、ステージ衣装を半分着崩したカオル様だった。
メイクはそのまま、でもシャツのボタンは開けられ、サラシを巻いた白い胸元が露わになっている。
「……お疲れ。麻衣、だっけ?」
「は、はいっ! お疲れ様です、カオル様っ!」
「硬いなぁ。ここじゃ『様』なんていらないよ。……こっち来て?」
カオル様が手招きする。
私は操り人形のように近づき、彼女の足元に跪いた。
憧れの推しが、目の前にいる。
汗と、ヴィヴィアンの香水と、タバコの匂い。
「レイカから聞いてるよ。最近、頑張ってくれてるって。……私のギター、好き?」
「大好きですっ! 世界一ですっ!」
「ふふ。嬉しい。……じゃあ、私の『中身』も、好きになってくれる?」
カオル様が、細い指で私の顎をすくい上げる。
その瞳は、ステージ上のカリスマ性とは違う、どこか虚ろで、それでいて強烈な引力を持つ「依存先」を求める瞳だった。
「……して?」
「えっ……」
「ファンなら、推しが気持ちよくなること、したいでしょ?」
拒否権なんてなかった。
カオル様の唇が、私の唇に押し付けられる。
ンチュッ……♥
ニコチンの苦味と、リップの甘い味が混ざり合う。
男の人とのキスとは違う。もっと柔らかく、ねっとりとした舌の感触。
「んっ……ぁ……っ、カオル、さま……っ」
「可愛い声。……チェキ撮ってる時は、あんなに大人しかったのに」
カオル様の手が、私のブラウスの中に滑り込んでくる。
ギターの弦を押さえるために硬くなった指先。
それが私の胸を乱暴に鷲掴みにする。
「ひゃうっ!?♥ い、痛いっ、けど……っ!」
「痛いのがいいんでしょ? 私たちは、痛みで繋がってるんだから」
カオル様は私をベッドに引きずり上げると、馬乗りになった。
美しい顔が歪み、サディスティックな笑みを浮かべる。
ああ、これが「裏側」だ。
彼女たちは、こうやってファンを食い物にし、身体も金も搾取することで、あの脆く美しい世界を維持しているのだ。
でも、今の私にとって、それは絶望ではなく至上の喜びだった。
「麻衣のここ……濡れてる。ライブ中も、私の指見て濡らしてたの?」
「は、はいぃっ……! カオル様の指、エロくて……ずっと、おかしくなりそうでしたっ……♥」
「変態だね。……ご褒美に、この指でイかせてあげる」
ズチュッ!!♥
カオル様の指が、私の中に容赦なく突き刺さる。
前戯なんてない。渇きを癒やすような暴力的な挿入。
「あぎっ!♥ ふかいっ、ギターの指っ、硬いっ……!♥」
「いい声。もっと鳴いて? 私のギターみたいに、激しく」
グチュッ、グチュグチュ……!!♥
カオル様は、私のGスポットをピックで弦を弾くように激しく擦り上げた。
正確無比なリズム。速弾きの指使い。
私は完全に楽器にされていた。
「ああっ、ああっ! カオル様っ、すごいっ、テクニックすごいっ!♥」
「当たり前でしょ。何人抱いてきたと思ってるの」
耳元で囁かれる残酷な真実さえ、今は快感のスパイスになる。
私は「特別な一人」じゃない。「その他大勢」の一人だ。
でも、今この瞬間だけは、カオル様は私を見てくれている。私の中に入ってくれている。
「いくっ! 推しの指でっ、イッちゃうッ!♥」
「イキなよ。……その代わり、明日からも私に貢いでね?」
悪魔の契約。
でも私は、快楽の中で首を縦に振っていた。
「はいっ! 貢ぎますっ! 一生、カオル様のATMになりますぅぅッ!!♥」
「いい子だ。……堕ちろッ!」
ズポポポポッ……!!!♥
最速のピストンと共に、私は脳髄を焼かれるようなオーガズムに達した。
ビクンッ!! ビクビクッ!!♥
白目を剥いて痙攣する私を、カオル様は冷めた目で、しかしどこか満足そうに見下ろしていた。
***
事後。
カオル様は事もなげに新しいタバコに火をつけ、シャワーも浴びずに「じゃあ、帰っていいよ」と言い放った。
余韻もへったくれもない。
私は乱れた服を整え、ふらつく足で部屋を出た。
廊下には、レイカさんが待っていた。
彼女は私の顔を見て、ニヤリと笑った。
「……おかえり。これで麻衣ちゃんも、こっち側の住人ね」
私は何も言わずに頷いた。
身体の奥がまだ熱い。カオル様の匂いが染み付いている。
財布は空っぽだし、心も身体もボロボロだ。
でも、不思議と後悔はなかった。
だって、私はあんなに美しくて残酷な「神様」と、共犯関係になれたのだから。
ファンコミュニティの闇。
その底なし沼の心地よさを知ってしまった私は、もう二度と、光の当たる場所には戻れないだろう。
(第二十六章 完)
耳鳴りが止まない。爆音の重低音と、黄色い悲鳴がまだ鼓膜に焼き付いている。
私たちが崇拝するのは、アイドル崩れのキラキラしたガールズバンドじゃない。
黒の細身のスーツに身を包み、ヴィジュアル系の退廃美を纏った4人組ロックバンド『Vier(フィーア)』。
男の影を一切感じさせないその硬派で耽美な世界観に、フロアの九割を占める「バンギャ(女性ファン)」たちは熱狂し、頭を振り乱し、そして金を落とす。
私、麻衣(まい)もその一人だ。
しがないOLの給料の殆どを、推しであるギタリスト・カオル様のチェキ(ポラロイド写真)に注ぎ込んでいる、いわゆる「チェキ廃」だ。
「……はぁ。今日もカオル様、尊かった……」
物販列の最後尾。財布の中身は空っぽだけど、手元には数十枚のカオル様のチェキがある。
それだけで幸せだった。ステージ上の神様と、ほんの一瞬、撮影の時だけ触れ合える。それ以上のことなんて望んでいなかった。
――はずだった。
「ねえ、麻衣ちゃん」
不意に声をかけられた。
ドキリとする。声をかけてきたのは、ファンの間でも有名な「TO(トップオタ)」であり、カオル様との「繋がり(私的交流)」が噂されている古参ファンの女性、レイカさんだった。
全身をハイブランドの黒服で固めた彼女は、値踏みするような目で私を見下ろした。
「今日、結構積んでた(お金を使っていた)わよね。カオルが、麻衣ちゃんのこと気になってるみたい」
「え……? そ、それって……」
「『もっと近くで話したい』って。……意味、わかるよね?」
背筋に冷たいものが走る。
この界隈には、暗黙のルールがある。「蜜(金銭的貢ぎ)」や「繋がり」といった、表には出せない闇の風習。
レイカさんが提示しているのは、ファンとしての一線を越える招待状だ。
断れば、このコミュニティでの居場所はなくなるかもしれない。でも、頷けば――。
「……行きます。行かせてください」
私は、震える声で答えていた。
推しに近づけるなら、地獄でも構わない。そんな狂気が、私を突き動かしていた。
***
連れて行かれたのは、ライブハウスからタクシーで数分のシティホテル。
レイカさんはフロントで慣れた手つきでカードキーを受け取ると、「じゃあ、粗相のないようにね」と私をエレベーター前で突き放した。
どうやら、ここからは一人らしい。
指定された部屋番号。重厚なドアの前で深呼吸をする。
ノックをする手が震える。
「……どうぞ」
中から聞こえたのは、マイクを通さない、低くてハスキーな「生」の声。
私は意を決してドアを開けた。
薄暗い間接照明の部屋。タバコの煙が白く漂っている。
ベッドの縁に腰掛け、メンソールタバコをふかしていたのは、ステージ衣装を半分着崩したカオル様だった。
メイクはそのまま、でもシャツのボタンは開けられ、サラシを巻いた白い胸元が露わになっている。
「……お疲れ。麻衣、だっけ?」
「は、はいっ! お疲れ様です、カオル様っ!」
「硬いなぁ。ここじゃ『様』なんていらないよ。……こっち来て?」
カオル様が手招きする。
私は操り人形のように近づき、彼女の足元に跪いた。
憧れの推しが、目の前にいる。
汗と、ヴィヴィアンの香水と、タバコの匂い。
「レイカから聞いてるよ。最近、頑張ってくれてるって。……私のギター、好き?」
「大好きですっ! 世界一ですっ!」
「ふふ。嬉しい。……じゃあ、私の『中身』も、好きになってくれる?」
カオル様が、細い指で私の顎をすくい上げる。
その瞳は、ステージ上のカリスマ性とは違う、どこか虚ろで、それでいて強烈な引力を持つ「依存先」を求める瞳だった。
「……して?」
「えっ……」
「ファンなら、推しが気持ちよくなること、したいでしょ?」
拒否権なんてなかった。
カオル様の唇が、私の唇に押し付けられる。
ンチュッ……♥
ニコチンの苦味と、リップの甘い味が混ざり合う。
男の人とのキスとは違う。もっと柔らかく、ねっとりとした舌の感触。
「んっ……ぁ……っ、カオル、さま……っ」
「可愛い声。……チェキ撮ってる時は、あんなに大人しかったのに」
カオル様の手が、私のブラウスの中に滑り込んでくる。
ギターの弦を押さえるために硬くなった指先。
それが私の胸を乱暴に鷲掴みにする。
「ひゃうっ!?♥ い、痛いっ、けど……っ!」
「痛いのがいいんでしょ? 私たちは、痛みで繋がってるんだから」
カオル様は私をベッドに引きずり上げると、馬乗りになった。
美しい顔が歪み、サディスティックな笑みを浮かべる。
ああ、これが「裏側」だ。
彼女たちは、こうやってファンを食い物にし、身体も金も搾取することで、あの脆く美しい世界を維持しているのだ。
でも、今の私にとって、それは絶望ではなく至上の喜びだった。
「麻衣のここ……濡れてる。ライブ中も、私の指見て濡らしてたの?」
「は、はいぃっ……! カオル様の指、エロくて……ずっと、おかしくなりそうでしたっ……♥」
「変態だね。……ご褒美に、この指でイかせてあげる」
ズチュッ!!♥
カオル様の指が、私の中に容赦なく突き刺さる。
前戯なんてない。渇きを癒やすような暴力的な挿入。
「あぎっ!♥ ふかいっ、ギターの指っ、硬いっ……!♥」
「いい声。もっと鳴いて? 私のギターみたいに、激しく」
グチュッ、グチュグチュ……!!♥
カオル様は、私のGスポットをピックで弦を弾くように激しく擦り上げた。
正確無比なリズム。速弾きの指使い。
私は完全に楽器にされていた。
「ああっ、ああっ! カオル様っ、すごいっ、テクニックすごいっ!♥」
「当たり前でしょ。何人抱いてきたと思ってるの」
耳元で囁かれる残酷な真実さえ、今は快感のスパイスになる。
私は「特別な一人」じゃない。「その他大勢」の一人だ。
でも、今この瞬間だけは、カオル様は私を見てくれている。私の中に入ってくれている。
「いくっ! 推しの指でっ、イッちゃうッ!♥」
「イキなよ。……その代わり、明日からも私に貢いでね?」
悪魔の契約。
でも私は、快楽の中で首を縦に振っていた。
「はいっ! 貢ぎますっ! 一生、カオル様のATMになりますぅぅッ!!♥」
「いい子だ。……堕ちろッ!」
ズポポポポッ……!!!♥
最速のピストンと共に、私は脳髄を焼かれるようなオーガズムに達した。
ビクンッ!! ビクビクッ!!♥
白目を剥いて痙攣する私を、カオル様は冷めた目で、しかしどこか満足そうに見下ろしていた。
***
事後。
カオル様は事もなげに新しいタバコに火をつけ、シャワーも浴びずに「じゃあ、帰っていいよ」と言い放った。
余韻もへったくれもない。
私は乱れた服を整え、ふらつく足で部屋を出た。
廊下には、レイカさんが待っていた。
彼女は私の顔を見て、ニヤリと笑った。
「……おかえり。これで麻衣ちゃんも、こっち側の住人ね」
私は何も言わずに頷いた。
身体の奥がまだ熱い。カオル様の匂いが染み付いている。
財布は空っぽだし、心も身体もボロボロだ。
でも、不思議と後悔はなかった。
だって、私はあんなに美しくて残酷な「神様」と、共犯関係になれたのだから。
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