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10話
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俺が夕飯にお邪魔する旨を実晴経由で連絡すると、実晴のお母さんからおつかいを頼まれた。
焼きそばの麺四人分と豚こま肉、それから適当に炭酸やジュースを買ってスーパーの袋を片手に実晴の家へ赴く。
「おつかいありがとねー。有誠くんが来てくれるっていうから量増やそうと思って!」
「すみません……」
「張り切ってホットプレート出しちゃった。いっぱい食べていってね!」
実晴のお母さんは夕飯まで時間があるから座ってて、と言うとキッチンで作業に入る。野菜を洗い始めたのを見て、ソファに座ってテレビをつけた実晴を小突く。
「莉温ちゃんがいないから余るんじゃなかったのか」
隣に腰をおろして実晴をにらむが、ひょいと肩をすくめられる。
「たくさん食べさせたいんだよ。有誠、すごくおいしそうに食べるから。好きにさせてあげて」
十八時を過ぎると実晴のお父さんが白い紙袋を引っ提げて帰宅した。
デパ地下で購入したというゼリーは、果物がほとんどそのままの形でごろごろ入っていた。スーパーで買うナタデココ入りのゼリー何個分の値段だろうか。いろいろな種類を買って来たから後で食べよう、と実晴のお父さんはにこにこしながら掲げたゼリーを冷蔵庫にしまった。
昔から両親の帰りが遅いのを心配して、与木家の人々は頻繁に食卓へと俺を招いた。
俺はこの家の人間でもなければ、何か得をもたらしているわけでもない。このあたたかい空間は俺を隔てた先にあるもので、俺はガラス越しにその景色を見ている。なぜだかいつもそんな想像が頭にあった。
莉温が拗ねそうだと、ホットプレートの上でじゅうじゅう音を立てる焼きそばを写真に収める実晴を横目に、取り皿を並べて席に着く。真っ白な陶器製の皿は頑丈で使い勝手がいいらしく、ごちそうしてもらうたびに目にしていたが、いつまでたっても見慣れなかった。
いつも通りベッドを背もたれに、飲み切れなかったジュースを持ち込んで食後のまったりとした時間を過ごす。いつもと違うのは実晴との距離。指一本の隙間もなくお互いの肩がぴっとりくっついている。
昼間の接触といい今といい、デート後から急激な変化だ。本当の恋人同士のように過ごすことで、実晴に好意を告げようとする人たちをかわそうという魂胆だろうか。俺とくっついたところで少し距離が近い友人同士にしか見えないと思うが。それに、誰もいない部屋の中でまでくっつかなくてもいいはずだ。この距離感に慣れてしまって感覚が麻痺しているのかもしれない、と思ったが役得なので黙っておく。
隣から漫画をのぞきこんでいた実晴が、目線をそのままにつぶやいた。
「今日集まったメンバーってなんだったんだろうね」
「……元一組で遊ぼうって話だっただろう」
「そうなんだけどさ……特別仲良かったわけでもないのに急な話だったよなって」
まずい。実晴に一島さんを警戒させないための人選で、カラオケの会もそこそこうまくいったと思っていたが、しっかり疑われていた。漫画のページをめくり、内容に集中している風を装って会話を続ける。
「まぁな……でも楽しかっただろ」
「そうだね。でも、有誠が参加するとは思わなかったな。関係値が微妙な人との集まり苦手でしょ。めずらしいね?」
関係値がどうとかはっきり言うな、と口にしかけたが、事実だから否定しづらい。一島さんの頼みでなければ即刻パスする。
どう切り返したものか悩んでいると実晴は俺の言葉を待たず、肩に腕を回してくる。
「一島さんがいたから?」
「は?」
「最近仲良さそうだもんね。このあいだも食堂のテラスで話しこんでたし」
「み、見てたのか」
「飲み物買うだけなのに帰りが遅いから見に行ったんだよ。取り込み中みたいだったからすぐ教室戻ったけど」
危ない。内容を聞かれていたら、こそこそ2人の仲を取り持とうとしていることがバレる。あと一島さんが羞恥で死ぬ。
恋愛相談が本人にバレるのは一番よくない。実晴が告白されたり付き合ったりするのがめんどうだと言ったことを、俺は知っているのだから余計に。
「ま、前にたまたま同じゲームしてることがわかって……それからそのゲームの話をすることが増えてな。食堂でも偶然会って話してただけだ」
ふーん、と返事をしたものの不満げに眉をしかめ、口をとがらせている。納得はしていなさそうだ。これ以上なんと説明したらいいのか。
「ゲームの話なら俺とすればいいじゃん」
言い訳の方法を考えていたところへ放たれた発言に思考が止まった。ぶすくれた顔のままこちらをにらむ実晴に、目を丸くする。
「……スマホゲームなんだ。実晴はやらないだろ?」
「…………やる。なんていうやつ?」
なぜそこまでしてゲームを……と思ったが、一島さんとの密談内容を疑っているわけではなさそうなので、本人がやる気のうちにスマホを手に取り、暇なときに適当にプレイしていたゲームのアイコンを見せる。実晴は表示されたタイトルを確認すると、アプリストアでそのゲームを見つけてインストールし始めた。本当にプレイするつもりのようだ。
早速チュートリアルに進むと、キャラクターの選択画面へ移る。自分の好きな動物のキャラクターを選んで育てるというものだった。お世話だけでなく、エサやおもちゃ、プレゼントなどを買うためにミニゲームでその世界の通貨を稼ぐことも必要となる。
真っ白な毛の先がピンクに染まったもふもふした猫、鋭い爪とキバを持った青い瞳の狼、虹色に光るクラゲなど、選べるキャラクターは三十種類を超える。
ひょいひょいと画面をスクロールしていた実晴が、指の動きを止めた。濡羽色の毛なみを持つヒョウを選択し、しばらくの間じっと眺めて決定ボタンを押した。
実晴のゲーム画面をのぞきこんでいると、あっという間に二十時を過ぎてしまっていた。あわてて実晴の両親にあいさつをしてから与木家を後にする。
風呂を終えてベッドに寝転がり、かたわらに置いていたスマホを手に取る。通知が三件。二件はメッセージアプリからで、一件は先ほど実晴に教えたゲームからだった。
そのまま通知をタップするとアプリが立ち上がる。プレゼントボックスには『みはるさんからプレゼントが届きました』というメッセージと、ペットにあげられる花が届いていた。
本当にやってる……と、妙な感動を覚える。
プレゼントボックスを閉じると、トサカのような毛が生えたクマのキャラクターが地団駄を踏み、数週間ぶりに会いにきた飼い主に怒りをあらわにしていた。
もらったプレゼントをクマに与え、フレンドリストから実晴のアカウントを選択する。持ち物から『おいしいエサ』を選んでプレゼントを送り、クマの機嫌が直ったのを確認して画面の光を落とした。
焼きそばの麺四人分と豚こま肉、それから適当に炭酸やジュースを買ってスーパーの袋を片手に実晴の家へ赴く。
「おつかいありがとねー。有誠くんが来てくれるっていうから量増やそうと思って!」
「すみません……」
「張り切ってホットプレート出しちゃった。いっぱい食べていってね!」
実晴のお母さんは夕飯まで時間があるから座ってて、と言うとキッチンで作業に入る。野菜を洗い始めたのを見て、ソファに座ってテレビをつけた実晴を小突く。
「莉温ちゃんがいないから余るんじゃなかったのか」
隣に腰をおろして実晴をにらむが、ひょいと肩をすくめられる。
「たくさん食べさせたいんだよ。有誠、すごくおいしそうに食べるから。好きにさせてあげて」
十八時を過ぎると実晴のお父さんが白い紙袋を引っ提げて帰宅した。
デパ地下で購入したというゼリーは、果物がほとんどそのままの形でごろごろ入っていた。スーパーで買うナタデココ入りのゼリー何個分の値段だろうか。いろいろな種類を買って来たから後で食べよう、と実晴のお父さんはにこにこしながら掲げたゼリーを冷蔵庫にしまった。
昔から両親の帰りが遅いのを心配して、与木家の人々は頻繁に食卓へと俺を招いた。
俺はこの家の人間でもなければ、何か得をもたらしているわけでもない。このあたたかい空間は俺を隔てた先にあるもので、俺はガラス越しにその景色を見ている。なぜだかいつもそんな想像が頭にあった。
莉温が拗ねそうだと、ホットプレートの上でじゅうじゅう音を立てる焼きそばを写真に収める実晴を横目に、取り皿を並べて席に着く。真っ白な陶器製の皿は頑丈で使い勝手がいいらしく、ごちそうしてもらうたびに目にしていたが、いつまでたっても見慣れなかった。
いつも通りベッドを背もたれに、飲み切れなかったジュースを持ち込んで食後のまったりとした時間を過ごす。いつもと違うのは実晴との距離。指一本の隙間もなくお互いの肩がぴっとりくっついている。
昼間の接触といい今といい、デート後から急激な変化だ。本当の恋人同士のように過ごすことで、実晴に好意を告げようとする人たちをかわそうという魂胆だろうか。俺とくっついたところで少し距離が近い友人同士にしか見えないと思うが。それに、誰もいない部屋の中でまでくっつかなくてもいいはずだ。この距離感に慣れてしまって感覚が麻痺しているのかもしれない、と思ったが役得なので黙っておく。
隣から漫画をのぞきこんでいた実晴が、目線をそのままにつぶやいた。
「今日集まったメンバーってなんだったんだろうね」
「……元一組で遊ぼうって話だっただろう」
「そうなんだけどさ……特別仲良かったわけでもないのに急な話だったよなって」
まずい。実晴に一島さんを警戒させないための人選で、カラオケの会もそこそこうまくいったと思っていたが、しっかり疑われていた。漫画のページをめくり、内容に集中している風を装って会話を続ける。
「まぁな……でも楽しかっただろ」
「そうだね。でも、有誠が参加するとは思わなかったな。関係値が微妙な人との集まり苦手でしょ。めずらしいね?」
関係値がどうとかはっきり言うな、と口にしかけたが、事実だから否定しづらい。一島さんの頼みでなければ即刻パスする。
どう切り返したものか悩んでいると実晴は俺の言葉を待たず、肩に腕を回してくる。
「一島さんがいたから?」
「は?」
「最近仲良さそうだもんね。このあいだも食堂のテラスで話しこんでたし」
「み、見てたのか」
「飲み物買うだけなのに帰りが遅いから見に行ったんだよ。取り込み中みたいだったからすぐ教室戻ったけど」
危ない。内容を聞かれていたら、こそこそ2人の仲を取り持とうとしていることがバレる。あと一島さんが羞恥で死ぬ。
恋愛相談が本人にバレるのは一番よくない。実晴が告白されたり付き合ったりするのがめんどうだと言ったことを、俺は知っているのだから余計に。
「ま、前にたまたま同じゲームしてることがわかって……それからそのゲームの話をすることが増えてな。食堂でも偶然会って話してただけだ」
ふーん、と返事をしたものの不満げに眉をしかめ、口をとがらせている。納得はしていなさそうだ。これ以上なんと説明したらいいのか。
「ゲームの話なら俺とすればいいじゃん」
言い訳の方法を考えていたところへ放たれた発言に思考が止まった。ぶすくれた顔のままこちらをにらむ実晴に、目を丸くする。
「……スマホゲームなんだ。実晴はやらないだろ?」
「…………やる。なんていうやつ?」
なぜそこまでしてゲームを……と思ったが、一島さんとの密談内容を疑っているわけではなさそうなので、本人がやる気のうちにスマホを手に取り、暇なときに適当にプレイしていたゲームのアイコンを見せる。実晴は表示されたタイトルを確認すると、アプリストアでそのゲームを見つけてインストールし始めた。本当にプレイするつもりのようだ。
早速チュートリアルに進むと、キャラクターの選択画面へ移る。自分の好きな動物のキャラクターを選んで育てるというものだった。お世話だけでなく、エサやおもちゃ、プレゼントなどを買うためにミニゲームでその世界の通貨を稼ぐことも必要となる。
真っ白な毛の先がピンクに染まったもふもふした猫、鋭い爪とキバを持った青い瞳の狼、虹色に光るクラゲなど、選べるキャラクターは三十種類を超える。
ひょいひょいと画面をスクロールしていた実晴が、指の動きを止めた。濡羽色の毛なみを持つヒョウを選択し、しばらくの間じっと眺めて決定ボタンを押した。
実晴のゲーム画面をのぞきこんでいると、あっという間に二十時を過ぎてしまっていた。あわてて実晴の両親にあいさつをしてから与木家を後にする。
風呂を終えてベッドに寝転がり、かたわらに置いていたスマホを手に取る。通知が三件。二件はメッセージアプリからで、一件は先ほど実晴に教えたゲームからだった。
そのまま通知をタップするとアプリが立ち上がる。プレゼントボックスには『みはるさんからプレゼントが届きました』というメッセージと、ペットにあげられる花が届いていた。
本当にやってる……と、妙な感動を覚える。
プレゼントボックスを閉じると、トサカのような毛が生えたクマのキャラクターが地団駄を踏み、数週間ぶりに会いにきた飼い主に怒りをあらわにしていた。
もらったプレゼントをクマに与え、フレンドリストから実晴のアカウントを選択する。持ち物から『おいしいエサ』を選んでプレゼントを送り、クマの機嫌が直ったのを確認して画面の光を落とした。
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