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第二十七話『くしけずるかそけき』
しおりを挟むサンダルのような足音。
絢爛な夕刻の街路からゆるゆると影がのびてくる。
僕には関係ないと思っていた世界から、手がのばされた感覚。
なんだろう?
影が足を止めて、僕のすぐ横にしゃがむ。
またあの男たちが戻ってきたのかなとも思った。
やっぱり暇だから、もう少しいためつけて遊ぶことにしたのかなと。
恐ろしくて頭を抱えたくなったけど、もう動く気力がなかった。
涙が滲む目の端に、白いスカートがひらめくのが映った。
スカートが巻き起こした風が僕の顔周りを抜けて、細道の奥へ抜けていく。
茶髪の男が僕のそばにしゃがんだときは、煙草と暴力の臭いがした。
違う人だ。今の風は透明で、なんの匂いもしなかった。
怠くなった首筋を回して、少しスカートのほうに向けてみる。
最初に見えたのは膝小僧だった。
それからふくらはぎと、つるりとした脛を抱える細長い指。
逆光でよく見えないが、上下白の服には、不思議な模様が染めてあった。
はらりと垂れた髪の毛が僕のおでこをくすぐる。
垂れ下がった前髪の奥に、三日月のような目が笑っている。
その顔を見た僕はしばらく、夢を見ているのかなと思った。
まさかこんなタイミングで、彼女がこんなところに現れるはずがない。
それでも、幻でも消えてほしくなくて名前を呼ぶ。
声がうまく出せない。出そうとしてはエホエホと噎せてしまう。
喉が締まるような感じと、胸焼けみたいな苦しさ。
──マオリ。
手をのばして、垂れた髪の毛の奥にある、白くて丸い頬に触れてみる。
表面はぺとりと冷たくて、でもすぐに温かくなった。
脛を抱えていた掌が、頬に触れた僕の手を包んでくれたからだ。
声が出る前に、僕はもう泣いていた。
嗚咽に引っかかって、さっきからずっと息ができない。
「あお、あおい、まおお、まおおう」
子供の頃、迷子になって、母親に見つけてもらったときのような。
目玉からぼたぼたと溢れ出る涙がヤケドしそうなくらい熱い、あの感じ。
鼻水で溺れそうな、恥ずかしくてでも大泣きが止まらない、あのときの感じ。
「なあに?」
マオリの声だ。本物だ。
「あい、あい、会いた、かった。ず、ずっと、ずっと今日、きょ」
影になっている彼女の顔がふと、オバケみたいに大きくなった。
柔らかい息が僕の鼻にかかり、湿った唇がぼくの言葉を吐息ごと止める。
ちろりと、舌先が僕の歯をなめた。
何が起きたのか、頭がぼうっとしてよくわからない。
「うん、私も」
僕の手を包んでいるのと逆の手が僕の髪の毛を梳き、頭を撫でて頬を包む。
西日はとっくに消えて空気は青黒く、人通りでちろちろと途切れる商店街の灯がぼんやりと、彼女をふちどっていた。
──つづく。
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