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第七話『悪魔か野獣か同じものか』
しおりを挟むふらふらと手を引かれるままについていくと、いつの間にか視聴覚室だった。
ここが部室だと、サブは嬉しそうに言う。
胸の内側がくすぐったい。
これは感情なのか、それとも、えー、あれ? なんだろう。うまく言えない。
サブの声が、映画などでよく見る気絶する寸前の人の聴覚のように、響きながらくぐもって脳に届く。
下腹部があたたかい。のは、なぜだ。膀胱にたまった尿か?
淫魔に魅せられた虜のように、私はただ呆然と言われたことに頷き続ける。
人間に快楽を教えたと言われる、一神教の悪魔サタン。
悪魔の誘惑で善悪の知識の実を食した対価として、残酷で無慈悲な神様に寿命という名の死を与えられ、偽善に満ちた楽園を追い出された、純粋で無知なアダムとエバ。
運命に翻弄されたその最初の男女と、私の男性への免疫力は似ている。
快楽という知恵に抗う術を持たない、赤子のような抵抗力。
堕ちていくような感覚と、昇っていくような感覚が同居して、心が躍る。
サブに冷たくしようとするのは、違うと思う。
身体が、頭が勝手にそうするのなら、それが自然だ。でも今は違う。
ムリして怒れば、演技でそうしていることになってしまう。それはカッコ悪い。今まではそうじゃなかったし、それは嘘じゃない。でもムリして、演技して怒った途端に、今までの私が嘘だったことになってしまう。
だから、今は楽しそうに、「へえ、そうなんだ」などと応えては彼に微笑む。
それが一番、ムリをしていない素の自分だからだ。以前と現在とは違う。
なぜなのか、理由はわからないし、どうでもいい。
幽体離脱をしているかのように、その自分を俯瞰している自分も確かにいる。
そいつは慌てているし、やめろよせと騒いでいる。
そっちも本心だし、その別人格をバカじゃないかと冷笑するのも自分だ。
サブが防音扉を開けてくれて、私は招かれるままに入室した。
私は果たして、外界と隔てられた城に幽閉されるプリンセスなのか。それとも、野獣との時間を楽しむ自分に気付き、恐る恐るダンスに応じる美女なのか。
私はか弱くないし、ゲームや物語に登場する、無意志なプリンセスでもない。
ただ残念ながら、意志はあっても、自己認識はブニョブニョだった。
圧力鍋で調理された豚の脂身なみの、とろけるブニョブニョ加減だ。
自分の振る舞いに絶望し、同時に心地よくも感じている。
矛盾した喜び。または嫌悪感。いや違う、なんだこれは?
「スタジオ」とサブが呼ぶそこには、数人の男子がそれぞれの楽器を手に、いや、ドラムセットは手に持てないけど、期待に満ちた顔をして、私たちを待っていた。
──つづく。
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