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第十五話『味方がいる光景』
しおりを挟む七月三日(土)
ふわふわとなにも定まらない一週間が過ぎた。
週末だ。やっと苦痛な日々が終わった。
授業も耳に入らず、クラスメイトと話しても、上の空だった。
あれ以来、ハングリーボール部にもいってないし、トランの話題も出ない。
ハナとは、気まずいままでなにも修復しなかった。
だから昼食は、ケッカーやミラと食べた。
放課後や休み時間に皆で集まっても、私とハナは話さないし、並ばないし、笑いあわないし、触れあわない。
それが寂しいとも別に思わないが、じゃあなぜ一緒にいるのかと考えてしまう。
つまらない。
学校も、仲良しだと思っていた友達も、全部つまらない。
どこかへ引っ越して、ゼロからなにもかもをやりなおしたい。
こんな毎日が続くなら、こんなところにはいたくない。
今日は昼まで寝ていようと思ったのだが、ママとパパに叩き起こされた。
うちには週末の食事は、できる限り家族揃ってするというルールがある。
私はそんなの守る気はないのだが、毎週、強制的に守らされていた。
ママにぐいと身体を起こされ、ベッドから引き摺りおろされた。
そのまま手を引かれてキッチンまで連れて行かれた私は、ひどい寝癖頭だった。
椅子に座らされる。
食事が目の前のテーブルに並ぶ。
食欲がない。わけでもない。オナカは実は空いている。
半分眠ったまま、口の中にトーストを詰め込み、シーツのシワの模様が描かれた頬を膨らませてもぐもぐと咀嚼し、牛乳で喉へと流し込む。
胃は一瞬だけ驚き、すぐに働きだした。
バターを塗ってこんがりと、きつね色に焼いた食パンには、ピーナツクリームがたっぷりと塗ってある。
ザクザクした歯ごたえの下に、もっちりとした食感。
舌に広がる甘くてクリーミーなピーナツ味。
目はまだ開かないが、手は止まらない。
口も、胃も、どんどん次をよこせとモリモリ動く。
なんだ私は、ワンパクな成長期か?
パパとママは、ずっとテンションが高い。
何度もキスやハグを交わし、バカみたいに大笑いして、大声で喋る。
今にも踊りだしそうなほど、楽しそうにしている。
パパはウィークデーは帰りが遅く、朝が早い。
ママや私と、ほとんど顔を合わせない。
ママを起こさないように、そっとキッチンで立ったまま夜食を食べ、書斎にあるシングルベッドで寝ているらしい。
ほとんど家庭内別居状態だ。
でもこれは、夫婦仲が悪いからじゃない。逆だ。
パパはママが恋しくならないように、月曜から金曜までは、なにもかもを忘れてバリバリと働くようにしている。
愛しているから、会えない日々を一人で耐えているのだ。
その代わり、週末や休暇中は、バカみたいにはしゃぐ。
遊んで、遊んで、家族とベッタリで、全力で楽しむ。
そのパパの勢いに私とママはいつも巻き込まれる。いやママはむしろ、自分からパパのノリに参加しているように見える。
だからこの場面における被害者は、一人しかいない。
そう、私だ。
私がどんなにダルそうにしていても、お構いなしでこの二人は盛り上がる。
今もなにやら楽しそうに、次の休暇の予定を話し合っている。
私はほぼ聴いていなかったのだが、いつの間にか今度の連休には家族旅行に行くことが決定しており、行き先からなにから、全部決まっていた。
ほーん。
勝手にどーぞ、いってらっしゃーい。
私はラクダのように寝ボケ顔でパンをもぐもぐしながら、言って手を振った。
その瞬間、パパとママは私の両サイドに歩み寄り、左右から同時に抱き締めた。
頬と頬と頬が、ムギューと潰れる。やめろ。
「マッキー、またそんなノリの悪いことを言っちゃダメじゃないか」
パパがなぜか嬉しそうに、私の寝癖頭を子犬のようにモシヤモシャと撫で回す。
「もう、やめてよ!」
突き放そうとするが、二人ともバカみたいに怪力で、びくともしない。
「やめないよー」と、左右から頬にキスをされる。
うぎゃーと逃げようとする私を、パパが擽る。
「コチョコチョコチョコチョコチョ」
「うぎゃははは、やめろー!」
怪力の巨漢に、好き放題にオモチャにされる私。
笑う私に二人は満足し、また左右からキスをして抱き締めた。
私の左右のほっぺは、もうベチョベチョだ。
パパとママはこれから、オメカシしてデートに行くらしい。
これには、私は参加してもしなくてもいい。
パパはいつも、家族用と夫婦用、二パターンのデートプランを用意している。
私は当然、留守番を選択した。
二人はもう、ラブラブモードに突入しており、またチュッチュしている。
ママがシッターを呼ぼうとしたので、友達を呼ぶからいいと断った。
私はスマホを自室から持ってきて、ケッカーかミラに連絡しようとした。
と、メールが届いていることに気付く。
知らないアドレスからだったが、タイトルが「カールスキーです」と表示されているので、サブからだとわかった。
そうだ、こないだ、私のメアドを渡しておいたんだった。
なんだろか? 私はメールを開いてみた。
──つづく。
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