34 / 81
第三十三話『眠れない夜の脱線話』
しおりを挟むうちのバンド、あ、そうそう、まだバンド名をここに書いていなかったかも。
私たちのバンドの名前は、『ネフィリム』という。
名前の由来はこうだ。
人間の娘に恋をした天使が地上におりてその娘と結婚し、子供をもうけた。
だがその行為は神の怒りをかってしまい、同じことをした天使たちは皆、天界を追放された。
追放された堕天使たちは、サタンのもとで悪魔の仲間となった。
サタンは元々、天界で最も賢く美しい天使だったのだ。
天使たちと人間の女との間の子供たちは巨人のように大きく育ち、ネフィリムと呼ばれた。
たしか、聖典に描かれたそんな神話が元ネタだったと思う。
私は、神様はいると思うが、信仰心があるかってーとべつにそーでもないので、よく知らない。
この太古の巨人伝説は、サブの養父母が熱心なクリスチャンとのことで、そこで得た知識らしい。でも彼も私と同様、信仰心はあまりないと言っていた。
ロックとは、悪魔が人間に与えたものだという伝説があるらしい。
悪魔は神様と対等で、単純な善対悪の表裏くらいに思っている人も多いが、実は全くそんなことはない。
宗教上の設定なので、信仰心がないものにはどーでもいい話だが、一応、神様と悪魔には力の差が設定されている。
というか、差なんていう比較できるような違いではなく、悪魔は人間や動植物と同じく、ただの神様の被造物なので、関係性としては、たとえるなら漫画の作者と登場人物くらい次元が違う。
神が創ろうと思えばそこに現れ、消えろと思えば消える。
そう望むだけで死滅させられるというレベルの戦力差なのだ。
なのに、それほどのリスクをおかして創造者に反抗し、弱く無知な人間に娯楽を与えた。
神や熱心な信者たちはそれを『誘惑』と呼ぶが、バンドマンはそれを『祝福』と呼ぶべきだと、これはたしか、ノンが力説していた。
一神教における悪魔とは聖典に登場する反抗者だけでなく、古き多神教の神々も含まれる。
中世で弾圧された魔女や異端者たちとは、主にそういった古い宗教の信者だったらしい。
私は映画や小説のファンタジーの世界に憧れるので、多神教の物語に登場する、精霊や妖精たちは好きだ。
ただ、ロックが悪魔の音楽だと言われてしまうと、なんだか、自分がやっていることが、おどろおどろしいものに感じてしまう。
反抗者とは、常識、慣例、流行、法律などを安易に信じず、権力や多数派などに無思考で倣わない者のことだ。
それがロックの姿勢であり、個性と多様性こそが教義なのだと、これもたしか、いつかのミーティングでノンが熱く語っていた。
あいつは、頭がいいのかアホなのかよくわからない。
でも、少なくともこのロック論に関しては、アホかと笑った。
そもそも空想上の物語を、信仰だのなんだのと真剣に語るのがバカげている。
べつに私は、どっちでもいい。
人類がアダムとエバから始まろうと、猿から進化しようと、生活になんら影響はない。
おっと。バンド名の話からだいぶ脱線してしまったけど、これは脳ミソが興奮で沸騰しているからだ。
筆が進むままに任せていたら、いつまで経っても今日の一日は語り終わらない。
えー、と、なんだ。
なにから話すべきか、な、と。
そう、リハだ。
バンドマンたちは練習のことも、ライブ本番を想定したリハーサルという意味でリハと呼ぶみたいだけど、これは私が今日、まだ客の入っていないライブハウスで経験した、いわゆるリハーサルっぽいリハーサルのことだ。皆がイメージするそのまんまのやつ。
まずは、これから話していこう。
──つづく。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる