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人生
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「あなたは交通事故で死にました。今日からは天国で過ごしてもらいます」
目の前に髪を七三分けにした男が立っていた。
俺は辺りを見渡した。壁一面には本棚が設置されており、大量の書類で埋められていた。
「天国でのルールは一つだけです。暴力は振るわないでください。これだけを守ってくださればけっこうです。それとあなたは二年前に奥さんを亡くしていますね。奥さんと一緒に暮らしますか? それとも一人で暮らしますか?」
男は書類を見ている。恐らく書類には俺の家族構成などが記載されているのだろう。本棚に保管されている書類にもきっと家族構成が記載されているのだろうな。
「そうですね。第二の人生は一人で暮らしたいと思います」
「分かりました。では私についてきてください。部屋をご案内いたします」
男は部屋の奥に進む。部屋の奥には扉があった。男は扉を開け、中に入った。俺は男の後に続いた。
「ここは広間となっています。ご自由にくつろいでください」
広間にはテーブルとソファーのセットが置かれている。その数は分からないが、百万は優に超えているだろう。ここは天国だから、多くの死者が暮らしている。そのくらいは必要になるのだろう。
「券売機も置いてありますので、食券をおばさんに渡していただければ、ここで食事もできます」
広間の端に券売機が何十台と設置されている。すぐ近くにはカウンターがあり、何十人ものおばさんが立っていた。
「二階から居住空間となっています。あなたの部屋は二階になります」
男は階段を上がり、俺も後に続いた。
男は廊下を左に進んだ。左右には数十以上部屋があった。左側だけでもこれだけの部屋があるのだから、右側と合わせば、一フロアだけで数百以上の部屋があると思われる。
男は足を止め、扉を指差した。
「こちらがあなたの部屋になります。必要最低限のものは用意してありますが、必要なものがあれば遠慮せずにおっしゃってください。すぐに用意いたしますので。では私はこれで」
男はペコリと頭を下げ、去っていった。
俺は扉を開けて、部屋の中に入った。
部屋の中央にこたつが置いてあった。そこから少し離れたところに木製のテレビ台が置いてあり、その上に液晶テレビが置かれていた。
テレビ台の横にはミニサイズの冷蔵庫が置いてある。冷蔵庫を開けてみると、飲み物が何本か入っていた。
一番奥にはシングルベッドが置いてある。ソファーに変形できるタイプのようだ。
入口近くにある扉を開けると、そこは洗面所だった。奥の扉を開け、湯船の広さも確認する。一人で入るには十分すぎるほどの広さだった。今度はシングルベッドの近くにある扉を開けると、そこはトイレだった。
一通り確認し終えてから、俺はテレビの電源を入れた。どうやら人間界の番組を放映しているようだ。バラエティーがあったから、それを観ることにした。
冷蔵庫からお茶を取り出し、こたつのスイッチを入れてから、足を突っ込んだ。
テレビを観て時間を潰していると、急にお腹が鳴った。そういえばここに来てから何も食べていない。飲み物は飲んでいたが、それではお腹は満たされない。
俺はテレビの電源を消し、お風呂を沸かした。それからお茶を持って広間に向かう。
券売機から親子丼を選び、食券をおばさんに渡す。
俺はカウンター近くのソファーに座り、親子丼ができるのを待った。
「お待たせしました、親子丼です」
五分ほどで親子丼が運ばれてきた。
俺は早速パクリと食べた。口の中に旨味が広がる。これほどまでに美味しい親子丼を食べたのは初めてだった。ものの数分で完食した。お茶も飲み切った。
俺は部屋に戻り、お風呂をチェックする。ちょうど良い温度だった。洗面所で服を脱ぎ、体を洗ってから、湯船に浸かる。
体の内側から温まるのを感じる。十五分ほど温もってから、俺は上がった。
歯を磨き、シングルベッドに入り、俺は目を閉じた。
☆☆
翌日、朝食を食べようと広間に向かったら、そこで妻と再会した。
「あら、二年ぶりね。あなたも死んでいたなんて驚きだわ」
「…………」
俺は妻から視線を逸らす。妻とは関係が冷え切っていた。妻は結婚直後から不倫を繰り返していた。そのたびに離婚を申し立てたが、『あなたも不倫すればいいじゃない』と言うばかりで離婚を承諾してくれなかった。第二の人生を一人で暮らすと決めたのは妻と一緒にいたくなかったからだ。
「私が死んだ後、あなたは再婚したのかしら? 不倫相手は何人いるわけ?」
「……再婚はしていない。それに俺は君とは違う。不倫相手なんていないよ」
「あら、私が悪いとでも言いたいの? 原因はあなたにもあるのよ。あなたがあんまりにもエッチが下手だから、不倫したのよ。どうせするなら、上手い人としたいもの。あなたが上手かったら、私は不倫なんてせずに済んだのよ。あなたが全部悪いのよ」
俺が悪いだって? 悪いのはどう考えても不倫した妻の方だ。妻の理不尽さに俺は腹が立った。
「不倫されたくないなら、上手くなることね。そうすれば、あなたと一緒に暮らしてあげてもいいわよ。どうせ掃除なんてしないでしょ? 私が生きてた頃もまったくしてくれなかったものね。あなたは私がいないと何もできないのよ」
俺は第二の人生を始めたばかりなのに、妻は邪魔をしようとする。一緒に暮らしてあげてもいいだと? ふざけるな。何で一緒に暮らさなきゃならないんだ。
もう我慢の限界だった。
「黙れ!」
俺は妻を殴ってしまった。頬を殴られた妻は床に尻もちをついた。妻はギロリと俺を睨んできた。
「ルールを破りましたね」
いつの間にか隣に七三分けの男が立っていた。
「あなたは奥さんに暴力を振るいました。地獄に落ちてもらいます」
足元に大きな穴が空いた。
「ま、待ってくれ!」
俺は穴に落ちる。
「第三の人生のスタートです」
七三分けの男は無表情で俺を見下ろしていた。
目の前に髪を七三分けにした男が立っていた。
俺は辺りを見渡した。壁一面には本棚が設置されており、大量の書類で埋められていた。
「天国でのルールは一つだけです。暴力は振るわないでください。これだけを守ってくださればけっこうです。それとあなたは二年前に奥さんを亡くしていますね。奥さんと一緒に暮らしますか? それとも一人で暮らしますか?」
男は書類を見ている。恐らく書類には俺の家族構成などが記載されているのだろう。本棚に保管されている書類にもきっと家族構成が記載されているのだろうな。
「そうですね。第二の人生は一人で暮らしたいと思います」
「分かりました。では私についてきてください。部屋をご案内いたします」
男は部屋の奥に進む。部屋の奥には扉があった。男は扉を開け、中に入った。俺は男の後に続いた。
「ここは広間となっています。ご自由にくつろいでください」
広間にはテーブルとソファーのセットが置かれている。その数は分からないが、百万は優に超えているだろう。ここは天国だから、多くの死者が暮らしている。そのくらいは必要になるのだろう。
「券売機も置いてありますので、食券をおばさんに渡していただければ、ここで食事もできます」
広間の端に券売機が何十台と設置されている。すぐ近くにはカウンターがあり、何十人ものおばさんが立っていた。
「二階から居住空間となっています。あなたの部屋は二階になります」
男は階段を上がり、俺も後に続いた。
男は廊下を左に進んだ。左右には数十以上部屋があった。左側だけでもこれだけの部屋があるのだから、右側と合わせば、一フロアだけで数百以上の部屋があると思われる。
男は足を止め、扉を指差した。
「こちらがあなたの部屋になります。必要最低限のものは用意してありますが、必要なものがあれば遠慮せずにおっしゃってください。すぐに用意いたしますので。では私はこれで」
男はペコリと頭を下げ、去っていった。
俺は扉を開けて、部屋の中に入った。
部屋の中央にこたつが置いてあった。そこから少し離れたところに木製のテレビ台が置いてあり、その上に液晶テレビが置かれていた。
テレビ台の横にはミニサイズの冷蔵庫が置いてある。冷蔵庫を開けてみると、飲み物が何本か入っていた。
一番奥にはシングルベッドが置いてある。ソファーに変形できるタイプのようだ。
入口近くにある扉を開けると、そこは洗面所だった。奥の扉を開け、湯船の広さも確認する。一人で入るには十分すぎるほどの広さだった。今度はシングルベッドの近くにある扉を開けると、そこはトイレだった。
一通り確認し終えてから、俺はテレビの電源を入れた。どうやら人間界の番組を放映しているようだ。バラエティーがあったから、それを観ることにした。
冷蔵庫からお茶を取り出し、こたつのスイッチを入れてから、足を突っ込んだ。
テレビを観て時間を潰していると、急にお腹が鳴った。そういえばここに来てから何も食べていない。飲み物は飲んでいたが、それではお腹は満たされない。
俺はテレビの電源を消し、お風呂を沸かした。それからお茶を持って広間に向かう。
券売機から親子丼を選び、食券をおばさんに渡す。
俺はカウンター近くのソファーに座り、親子丼ができるのを待った。
「お待たせしました、親子丼です」
五分ほどで親子丼が運ばれてきた。
俺は早速パクリと食べた。口の中に旨味が広がる。これほどまでに美味しい親子丼を食べたのは初めてだった。ものの数分で完食した。お茶も飲み切った。
俺は部屋に戻り、お風呂をチェックする。ちょうど良い温度だった。洗面所で服を脱ぎ、体を洗ってから、湯船に浸かる。
体の内側から温まるのを感じる。十五分ほど温もってから、俺は上がった。
歯を磨き、シングルベッドに入り、俺は目を閉じた。
☆☆
翌日、朝食を食べようと広間に向かったら、そこで妻と再会した。
「あら、二年ぶりね。あなたも死んでいたなんて驚きだわ」
「…………」
俺は妻から視線を逸らす。妻とは関係が冷え切っていた。妻は結婚直後から不倫を繰り返していた。そのたびに離婚を申し立てたが、『あなたも不倫すればいいじゃない』と言うばかりで離婚を承諾してくれなかった。第二の人生を一人で暮らすと決めたのは妻と一緒にいたくなかったからだ。
「私が死んだ後、あなたは再婚したのかしら? 不倫相手は何人いるわけ?」
「……再婚はしていない。それに俺は君とは違う。不倫相手なんていないよ」
「あら、私が悪いとでも言いたいの? 原因はあなたにもあるのよ。あなたがあんまりにもエッチが下手だから、不倫したのよ。どうせするなら、上手い人としたいもの。あなたが上手かったら、私は不倫なんてせずに済んだのよ。あなたが全部悪いのよ」
俺が悪いだって? 悪いのはどう考えても不倫した妻の方だ。妻の理不尽さに俺は腹が立った。
「不倫されたくないなら、上手くなることね。そうすれば、あなたと一緒に暮らしてあげてもいいわよ。どうせ掃除なんてしないでしょ? 私が生きてた頃もまったくしてくれなかったものね。あなたは私がいないと何もできないのよ」
俺は第二の人生を始めたばかりなのに、妻は邪魔をしようとする。一緒に暮らしてあげてもいいだと? ふざけるな。何で一緒に暮らさなきゃならないんだ。
もう我慢の限界だった。
「黙れ!」
俺は妻を殴ってしまった。頬を殴られた妻は床に尻もちをついた。妻はギロリと俺を睨んできた。
「ルールを破りましたね」
いつの間にか隣に七三分けの男が立っていた。
「あなたは奥さんに暴力を振るいました。地獄に落ちてもらいます」
足元に大きな穴が空いた。
「ま、待ってくれ!」
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