黒き死神が笑う日

神通百力

文字の大きさ
上 下
161 / 210

トイレ

しおりを挟む
 俺はトイレにこもっていた。急にお腹が痛くなってトイレに入ったのはいいが、便が詰まっているのか、全く出ない。いくら気張っても『こんにちは』と顔を出す事すらしない。もしや俺の便は恥ずかしがり屋なのだろうか? 
「おいおい、ハニー、いい加減にしないと怒るぞ? そろそろ顔を出したらどうだ?」
「……あんた、誰と喋ってるの?」
 突然、声が聞こえ、俺は顔を上げた。姉がドアを開けて立っていた。どうやら鍵を閉め忘れたらしい。姉の視線を感じながらも、そっとおいなりさんを手で隠した。いくら姉でも、男の部分を見られたくはない。
「自分の便と喋っているだけだ。さあ、早く出ていってくれ。大便の最中だからな」
「その様子だと、まだまだ時間がかかるでしょ? 小便したいから、代わってくれないかな?」
 俺は仕方なく便座から立ち上がり、姉に交代した。姉が小便を済ませたのを確認すると、すぐに座った。しかし、姉はトイレから出ていこうとしなかった。
「気張っても出ないんでしょ? 私が何とかしてあげるわ」
 姉はそう言うや否や俺のお腹を思いっきり殴った。あまりの痛さに気を失いそうになった。姉は何度もお腹を殴ってくる。さらには蹴りまでかましてくる始末だ。
「何度も衝撃を与えれば、大便なんてすぐに出るわよ」
 いったい何の根拠があってそんなことを宣うのだろうか。この理不尽な暴力に比べたら大便の痛さなど屁でもない。
 姉を睨みつけていると、大便が出た。気持ちいいくらいにどっさりと出た。まさか本当にこんなことで出るとは思わなかった。しかし、素直に姉に感謝する気にはなれない。暴力を振るわれたのだから。
「ほら、出たじゃない。私に感謝しなさいよ」
 姉は高らかに笑うと、トイレから出た。尻を拭き、大便との戦いに終止符が打たれた。

 その後、しばらくは別種のお腹の痛みに悩まされたことは言うまでもない。
しおりを挟む

処理中です...