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29:優しさが脳を抉る
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昨晩は牛丼を食べてアパートに戻ると、すぐさままた茉莉花が泣くので璃亜夢は病院で助産師に教えられた手順を思い出しながら、おっかなびっくり茉莉花に母乳をあげる。
それから三時間に一回くらいのペースで茉莉花に起こされミルクをあげていたが、朝はもう酷い眠気に襲われていた。
だけど昨日よりは清々しい朝だった。
なぜなら茉莉花に対して殺意はなかったから。
朝になってまた母乳をあげてオムツを取り替える。それが一段落して、自分のご飯をどうしようかと考える。
相変わらず何もない部屋。
汚してはいけないとキツく言われているが、このまま生活をしていく上でそれが守れないかもしれない。茉莉花と生活を続けるのならばこの部屋を出ることも考えなくてはならない。
だけどどうしたら……。
そもそもの話、茉莉花を育てられるのか、璃亜夢にはそれが最大の疑問だった。
『自分が今みたいなことになってるのは、お母さんのせいだって思ってるでしょ? そんなお母さんに育てられた璃亜夢ちゃんが育てる女の子は、『もう一人の璃亜夢ちゃん』になるって思わない?』
永延の言葉が的を射ていた。
本当にその通りなのだ。こんな自分に育てられれこの子は、幸せ、とは言わなくても良い人生を送れるのか。そう思わずにはいられない。
璃亜夢はミルクを飲んでまた寝てしまった茉莉花を見下ろして気が付けば「ごめん」と呟いていた。
そんな時、インターホンが鳴って璃亜夢は我に返る。
一体誰だ。
まさか永延。そう思ったが、そもそもこの部屋はあの男が借りているのだから鍵を所持している。先日だって、鍵を使って入ってきていた。その時璃亜夢は眠ってしまっていたからもしかしたら入る前にインターホンを鳴らした可能性はあるかもしれないが、あの男が璃亜夢にそんな気を使うようなことをするとは到底思えなかった。
だとすると……。
璃亜夢はやってきた人物に心当たりがあるものの、念のため息を殺して扉の覗き穴から外を確認する。そこには大黒が立っていた。
その姿に璃亜夢はほっとしながら、恐る恐る扉を開けた。
大黒は璃亜夢が扉から顔を出すのを見て「おはようございます」と笑う。
「おはようございます……」
璃亜夢もオウム返しのように呟くが、大黒の顔を見て昨日の出来事が夢ではなかったのだと確認できて胸が熱くなる。
大黒は持っていたビニール袋を璃亜夢に見せる。中にはコンビニで売ってる弁当が二つ入っている。
「昨日の感じだと、璃亜夢さん、食事を疎かにしてそうだったから買ってきたんだけど……ご飯食べた?」
そう言いながら苦笑を浮かべる大黒に璃亜夢は首を横に振る。すると大黒は安心したように肩の力を抜いた。彼はビニール袋の中からハンバーグ弁当と唐揚げ弁当を出して璃亜夢に見せる。
「適当に選んだんだけど好きな方選んで。残ったのは僕が食べるから」
「じゃあ……ハンバーグで」
璃亜夢がそう言うと大黒は「どうぞ」とハンバーグ弁当を差し出すので素直に受け取る。
お礼を言わなくては。
璃亜夢はそう思うが口篭ってしまう。
大黒は弁当を渡すとそれだけで満足したように「それじゃあ」と隣りの部屋に戻ろうとする。
あ、行ってしまう。
お礼、言わないと、昨日だって結局言ってない。
早く何か。
言わないと。
璃亜夢は焦る。
それでやっと出た言葉が「あのっ!」と自分でも驚く程裏返った声だった。
その声に大黒も驚いて振り返って戸惑い顔で璃亜夢を見る。
璃亜夢も戸惑う。
目をバタ足のように激しく泳がせると、しどろもどろになりながら「あー」とか「えーっと」と呟く。
そして暫くして、漸く小さな声で呟く。
「一緒に食べよ」
消え入りそうな声で呟く。
断られるだろうか。
一瞬そう心配するが、大黒はすぐさま「良いよ」と頷く。
その頷きに、璃亜夢はまた自分の中で何か救われていくような感覚に陥った。
それから三時間に一回くらいのペースで茉莉花に起こされミルクをあげていたが、朝はもう酷い眠気に襲われていた。
だけど昨日よりは清々しい朝だった。
なぜなら茉莉花に対して殺意はなかったから。
朝になってまた母乳をあげてオムツを取り替える。それが一段落して、自分のご飯をどうしようかと考える。
相変わらず何もない部屋。
汚してはいけないとキツく言われているが、このまま生活をしていく上でそれが守れないかもしれない。茉莉花と生活を続けるのならばこの部屋を出ることも考えなくてはならない。
だけどどうしたら……。
そもそもの話、茉莉花を育てられるのか、璃亜夢にはそれが最大の疑問だった。
『自分が今みたいなことになってるのは、お母さんのせいだって思ってるでしょ? そんなお母さんに育てられた璃亜夢ちゃんが育てる女の子は、『もう一人の璃亜夢ちゃん』になるって思わない?』
永延の言葉が的を射ていた。
本当にその通りなのだ。こんな自分に育てられれこの子は、幸せ、とは言わなくても良い人生を送れるのか。そう思わずにはいられない。
璃亜夢はミルクを飲んでまた寝てしまった茉莉花を見下ろして気が付けば「ごめん」と呟いていた。
そんな時、インターホンが鳴って璃亜夢は我に返る。
一体誰だ。
まさか永延。そう思ったが、そもそもこの部屋はあの男が借りているのだから鍵を所持している。先日だって、鍵を使って入ってきていた。その時璃亜夢は眠ってしまっていたからもしかしたら入る前にインターホンを鳴らした可能性はあるかもしれないが、あの男が璃亜夢にそんな気を使うようなことをするとは到底思えなかった。
だとすると……。
璃亜夢はやってきた人物に心当たりがあるものの、念のため息を殺して扉の覗き穴から外を確認する。そこには大黒が立っていた。
その姿に璃亜夢はほっとしながら、恐る恐る扉を開けた。
大黒は璃亜夢が扉から顔を出すのを見て「おはようございます」と笑う。
「おはようございます……」
璃亜夢もオウム返しのように呟くが、大黒の顔を見て昨日の出来事が夢ではなかったのだと確認できて胸が熱くなる。
大黒は持っていたビニール袋を璃亜夢に見せる。中にはコンビニで売ってる弁当が二つ入っている。
「昨日の感じだと、璃亜夢さん、食事を疎かにしてそうだったから買ってきたんだけど……ご飯食べた?」
そう言いながら苦笑を浮かべる大黒に璃亜夢は首を横に振る。すると大黒は安心したように肩の力を抜いた。彼はビニール袋の中からハンバーグ弁当と唐揚げ弁当を出して璃亜夢に見せる。
「適当に選んだんだけど好きな方選んで。残ったのは僕が食べるから」
「じゃあ……ハンバーグで」
璃亜夢がそう言うと大黒は「どうぞ」とハンバーグ弁当を差し出すので素直に受け取る。
お礼を言わなくては。
璃亜夢はそう思うが口篭ってしまう。
大黒は弁当を渡すとそれだけで満足したように「それじゃあ」と隣りの部屋に戻ろうとする。
あ、行ってしまう。
お礼、言わないと、昨日だって結局言ってない。
早く何か。
言わないと。
璃亜夢は焦る。
それでやっと出た言葉が「あのっ!」と自分でも驚く程裏返った声だった。
その声に大黒も驚いて振り返って戸惑い顔で璃亜夢を見る。
璃亜夢も戸惑う。
目をバタ足のように激しく泳がせると、しどろもどろになりながら「あー」とか「えーっと」と呟く。
そして暫くして、漸く小さな声で呟く。
「一緒に食べよ」
消え入りそうな声で呟く。
断られるだろうか。
一瞬そう心配するが、大黒はすぐさま「良いよ」と頷く。
その頷きに、璃亜夢はまた自分の中で何か救われていくような感覚に陥った。
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