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第4話『根暗な自分』
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小学校でも中学校でも、俺に対する周囲の評価は『暗いヤツ』だった。
普段から下を向いて歩いている。
自分の話もしない。
遊びに誘われても参加しない。
そんなヤツに友達ができるはずもなく。人を寄せない学校生活を送っていた。
だけどこれこそが俺の処世術だった。
余計なものを見つけないように常に視線は下へ。
それでも視界に『常人には見えないもの』が入ることがある。
例えば小学校の時、図書室の前の廊下に立ち尽くす女子生徒がいた。ずっと廊下の窓から外を見ているだけの女子生徒がいることに気がついたけれど、ただ立っているだけだし大して気にも留めていなかった。だけどある時、雑談中の軽いおしゃべり感覚で、ふと、図書室の前にいる女子生徒のことを話した。
「あの女子、いつもいるよな。何見てんだろうな」
俺がそう言うが、その時話をしていた後ろの席のヤツは「そんなヤツいたか? 見た目、どんな感じのヤツ?」と聞き返してきた。
それに対して俺は、その女子生徒の見た目を簡単に説明するが、ソイツはただ首を傾げて「いや、見たことないなあ」と呟く。
その時、俺は自分が見ていたものがソイツには見えていなかったことを察する。
あまりに普通の見た目だったから、その瞬間までそれが『常人に見えないもの』であることがわからなかったのだ。
俺は「じゃあ俺がたまたまその女子がいるタイミングに図書室に行くからかな」と適当なことを言って話を切り上げた。
それ以降、俺は、『普通』だと思えるものが『普通じゃない』という可能性を知った。
『常人に見えないもの』は最初に見たあの不気味な女のように異常さが際立つものばかりではない。図書室の前の彼女のように、まるで普通の人間のようなものもいるのだ。
俺の目に、その違いがわからないのだ。
それが本当にいるものなのかわからない。
だから俺は自分から話題を出すのを止めた。
些細なことでも、話題にした事象が本当にあるものかわからないから。
いつも他人の話に相槌を返すだけ。それが安全だったのだ。
そして『そういうもの』はどうにも人が集まるところで多く見かけた。
遊園地、百貨店、乗り換え線が集まる大きな駅、観光地。
学校もそうだった。図書室前の女子生徒の姿をした『何か』もそうだけど、明らかに異形と呼べるようなおどろおどろしい姿のものもいた。
そういうものを見たくなくって、避けられる場所は避けていった。
そういう生き方をしてきたから、あの幼少期最悪の出来事以降、あんな目には遭っていない。
祖母ちゃんに言われた通り、見えても見なかった振りをする。
それらをいないものとして扱う。
そのせいで話さない、目を合わせようとしない、あまり話さない、そういう根暗な人間だと思われても、それ以上に弟のように俺が原因で自分や家族に厄災が降りかかることを考えればどうでも良いことだと思えるようになっていた。
それだけ、祐生の一件は俺に深い傷を残したのだ。
『常人に見えないもの』を見る不幸を、敢えて『能力』と言い換えるなら、俺には要らない『能力』だし捨てられるものなら今すぐ捨てたかった。
でもテレビでたまにやってる霊能特集みたいな番組を、こういう『能力』は歳を重ねるにつれなくなっていくことがある、という話がなされていた。
「本当にそんな日が来るのか」
俺はその話を聞きながら、それが本当ならその日が来るのをただ心待ちにするしかなかった。
早く普通の人間になりたい。
余計なものを見なくて済む人生を歩みたい。
ああいうものを見ずに生きていける人間の視界は、俺のよりも清々しいものなのだろう。
ただただ羨ましいと思うばかりの高校一年の春を迎えた。
普段から下を向いて歩いている。
自分の話もしない。
遊びに誘われても参加しない。
そんなヤツに友達ができるはずもなく。人を寄せない学校生活を送っていた。
だけどこれこそが俺の処世術だった。
余計なものを見つけないように常に視線は下へ。
それでも視界に『常人には見えないもの』が入ることがある。
例えば小学校の時、図書室の前の廊下に立ち尽くす女子生徒がいた。ずっと廊下の窓から外を見ているだけの女子生徒がいることに気がついたけれど、ただ立っているだけだし大して気にも留めていなかった。だけどある時、雑談中の軽いおしゃべり感覚で、ふと、図書室の前にいる女子生徒のことを話した。
「あの女子、いつもいるよな。何見てんだろうな」
俺がそう言うが、その時話をしていた後ろの席のヤツは「そんなヤツいたか? 見た目、どんな感じのヤツ?」と聞き返してきた。
それに対して俺は、その女子生徒の見た目を簡単に説明するが、ソイツはただ首を傾げて「いや、見たことないなあ」と呟く。
その時、俺は自分が見ていたものがソイツには見えていなかったことを察する。
あまりに普通の見た目だったから、その瞬間までそれが『常人に見えないもの』であることがわからなかったのだ。
俺は「じゃあ俺がたまたまその女子がいるタイミングに図書室に行くからかな」と適当なことを言って話を切り上げた。
それ以降、俺は、『普通』だと思えるものが『普通じゃない』という可能性を知った。
『常人に見えないもの』は最初に見たあの不気味な女のように異常さが際立つものばかりではない。図書室の前の彼女のように、まるで普通の人間のようなものもいるのだ。
俺の目に、その違いがわからないのだ。
それが本当にいるものなのかわからない。
だから俺は自分から話題を出すのを止めた。
些細なことでも、話題にした事象が本当にあるものかわからないから。
いつも他人の話に相槌を返すだけ。それが安全だったのだ。
そして『そういうもの』はどうにも人が集まるところで多く見かけた。
遊園地、百貨店、乗り換え線が集まる大きな駅、観光地。
学校もそうだった。図書室前の女子生徒の姿をした『何か』もそうだけど、明らかに異形と呼べるようなおどろおどろしい姿のものもいた。
そういうものを見たくなくって、避けられる場所は避けていった。
そういう生き方をしてきたから、あの幼少期最悪の出来事以降、あんな目には遭っていない。
祖母ちゃんに言われた通り、見えても見なかった振りをする。
それらをいないものとして扱う。
そのせいで話さない、目を合わせようとしない、あまり話さない、そういう根暗な人間だと思われても、それ以上に弟のように俺が原因で自分や家族に厄災が降りかかることを考えればどうでも良いことだと思えるようになっていた。
それだけ、祐生の一件は俺に深い傷を残したのだ。
『常人に見えないもの』を見る不幸を、敢えて『能力』と言い換えるなら、俺には要らない『能力』だし捨てられるものなら今すぐ捨てたかった。
でもテレビでたまにやってる霊能特集みたいな番組を、こういう『能力』は歳を重ねるにつれなくなっていくことがある、という話がなされていた。
「本当にそんな日が来るのか」
俺はその話を聞きながら、それが本当ならその日が来るのをただ心待ちにするしかなかった。
早く普通の人間になりたい。
余計なものを見なくて済む人生を歩みたい。
ああいうものを見ずに生きていける人間の視界は、俺のよりも清々しいものなのだろう。
ただただ羨ましいと思うばかりの高校一年の春を迎えた。
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