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29.伊織くんも知っていたんですか?
しおりを挟む「……俺も翠となら⸺」
「翠?!」
小さなお兄さんの声が大きな叫び声に遮られます。廊下に響くお声は僕の名前を呼びます。
お声へゆっくり振り返ります。
視界にまず飛び込んでくるのは煌びやかな金髪。
「い伊織くん?!」
今日は生徒会長さんのお仕事をするって連絡があったはずなんですが。
伊織くんは僕の手元を見て、眉を寄せます。
ふいに肩をつかまれ、後ろへ引かれると同時にお兄さんが1歩前へ。
僕の視界を遮るように、僕と伊織くんの間にお兄さんが。
「篠崎。お前……」
「翠がよく言う『伊織くん』ってやっぱりお前だったんだな……」
「あ? なんでお前なんかが……」
「ただの従兄弟の伊織くんには関係ねーよ。俺と翠の仲だからな」
お兄さんの広く逞しいお背中越しの会話がいやに挑発的では。
それに、2人はお知り合いなんですか? と尋ねようとしますが。
「はぎゃ! お、お兄さん?!」
お兄さんは繋いでいた手を指を絡める繋ぎ方に変えます。
ぎゅっと絡めた繋ぎ方は、さらに密着度が高い。
大きな手のひらがぴたりとくっつき、じんじん熱いです。
「おにいさん?」
「おい、いつもの爽やか笑顔が消えてんぞ。従兄弟の佐倉伊織くん」
「名前も呼ばれないお兄さんは翠から手を離してもいいんじゃないかな?」
お兄さんが舌打ちしました。
頭上で飛び交う会話及び空気が心なしかぴりついています。
お兄さんは伊織くんをまっすぐ見つめています。
眉を寄せたお顔は、なぜか悔しそう。
繋いだ手にさらに力が篭ります。
「おに……」
「ゴメンな佐倉。翠と雨止むまで校内デートして一緒に帰んだよ。お前こそ、ここ離れてくんね?」
「はっ! 篠崎お前は野良猫に傘かける役割だろ。ほら野良猫がデート待ってるよ。翠は僕が送っていくよ」
あれ? お兄さんが地域猫ノラさんを飼っていることを伊織くんも知っていたんですね……。
僕だけが知っていると思っていたのに
二人だけの秘密だと思っていたのは勘違いだった。
それに、さっきからお兄さんの口調は僕へ話しかける時と全然違う。
ぞんざいな、砕けた口調です。
不意にずん、と胸の奥が重くなります。
いつの間にか近づいていた伊織くんに手首を掴まれ、引っ張られていました。
「翠。そいつなんかに触れられたら翠が汚れるから、離れて。篠崎より『家族』の僕がいいよね?」
なんでお兄さんのことそんなに悪くいうんですか?!
あんなに自分は仲良ししてもらっているくせに。
かっこいいとまで言われているくせに。
「いやです! お兄さん優しくていい人です!」
つい考えるより先に口を突いて出た反論が、廊下に反響します。
「翠?」
「僕は……」
伊織くんは手首を掴んだまま固まっています。
その表情を見た途端、過去に一瞬で攫われます。
全身の血の気が引き、目の前が真っ暗に。
耳の奥で誰かが泣いています。
ああ、これは僕と伊織くんだ。
お母さんと弟のお葬式すら出られず泣く僕と、伊織くん。
なんて酷いことを伊織くんにしてしまったんでしょうか。
ダメ。ダメ。
また伊織くんにこんなお顔をさせたら……。
「ご、ごめん。伊織くん」
みっともなく声が震えた。
「翠」
お兄さんと目が合います。
ああ、お兄さんも悲しいお顔になってしまいました。
やっぱり『わがまま』を言ってはいけないです。
みんなを不幸に悲しいお顔にさせてしまいます。
こんな『わがまま』な気持ちは押し潰して、もうなかったことにしましょう。
「ごめんなさい。お兄さんにご迷惑かけちゃいましたね。もう会いません」
両手を思い切り振り払います。
非力な僕の力でも振り払えたのはお兄さんも迷惑だと思っていたからなのかもしれません。
2人の表情を見たくなくて、駆け出します。
呼び止められる声がした気がしても、もう無理です。
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