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十一公演目――ウェンアイムゴーン
一曲目:コルダ・グローリア
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「えっ! サンクスギビングデーパレードに出るの、僕たち!」
父さん、もといバンドマスターからの発表に、驚いたのは僕も含めメンバーほぼ全員だった。流石にサブバンドマスターは知ってたのかな、落ち着いてる。嬉しそうではあるけどね。そりゃあそうだ、サンクスギビングデーのパレードといえばマンハッタンを何マイルも練り歩く一大イベント! ラジオ中継だってあるし新聞にも載る。でも急だなあ。もう当日まで半月もないのに。
「出ると決まったわけじゃないさ。出てみないかと打診されているって話だ」
打診? …………ああ、そっか! このパレードの主催は! 道理でさっきから見ないと思った。僕が思い浮かべたニコニコ笑顔の彼は、想像したままの顔で上手から出てくる。
「はい! 私アーノルド・ディモントが、ディモンズ社長代理として直々にオファーさせて頂きました! 勿論、皆様に承認頂いた暁には私もフロートに立ち観衆の皆様にご挨拶しようかと考えております! グローリア・ビッグバンドにとっては宣伝となり、我々ディモンズにとっては次期社長たる私の好感度上昇に繋がる。双方にとって有益な提案かと!」
「じ、自分で言うんですかそれ……」
アルコが引き気味に言うと、皆からドッと笑いが起きた。そっかそっか、今年は主催側の人がうちのバンドにいるんだ。改めて、デパート経営もうちでの出演もこなした上で学業もって、本当に忙しいんだなあアーノルドくん。
「おっと、少々誠実すぎましたでしょうか。しかし皆様にとって悪い話ではないでしょう?」
「にしたって急すぎねえっすか? バンドマスターとツインズはまだしも、俺たちゃ凡才なんだぞ? もうちょっと準備期間ってもんが欲しかったっすけどね」
「おやおや、その歌唱力でドラム不在の窮地を救ったトランぺッター・ペーター様が何を仰る! ……とはいえご指摘のとおり、このような時期のお願いになったのには込み入った事情がございまして」
そうだよね、それこそペーターくんが一曲代わってくれたあの頃、九月ぐらいにはメンバーに通達されてていい話な気がする。それぐらい大規模なイベントだと思うんだけどな。
「実は元々オファーしていた楽団がドイツ系の方々でして。欧州の戦況変化に伴い辞退されてしまったのです」
「ああ、そっかあ。ボリス博士もすぐ行っちゃったもんね。それでうちなら何とかできるって思ってくれたんだ!」
「ええ、ええ! 全くもってその通りでございますコルダ様! 実を言いますと企画段階でオファー候補にグローリア・ビッグバンドも挙がっていたのですが、連日公演続きで多忙だろうとあと一歩のところで通らなかったのです。当然スケジュールを大きく動かしてしまうことになりますから、ご出演頂いた暁には相応の対価をご用意致します。ずばり……」
アーノルドくんが父さんの顔をチラッと窺った。父さんが頷いて、言葉の続きを引き取る。
「……ディモンズが、我々グローリア・ビッグバンドのスポンサーとなってくれるそうだ。今回限りではなく、今後とも、と」
「「す……スポンサー!?」」
僕とアルコだけじゃない、メンバーほぼ全員の声が重なる。そもそもうちのバンドにスポンサーはついたことがなかったはず。立ち上げた当初の活動費は父さん、母さんやサブバンドマスター、あとボリス博士のポケットマネーだったって聞いてるし。だから皆びっくりはしてるけど、スポンサーがついたらどうなるのかイマイチよく分からない、って顔してる。予想しうるメリットの中で、一番大きいものといえば……。
「それってつまり……ディモンズの宣伝に協力する代わりに、皆のギャラが増えるってことかな」
「左様にございます! 更にメンバーの皆様にはディモンズ各店舗にてご利用頂ける様々なご優待サービスを!」
「そこまで……ディモンズ側にメリットはあるんですか」
「勿論ですとも! ラジオ広告、将来的にはテレビ放送での広告にも皆様を起用し相互に知名度向上を図ろうと考えております!」
「シアターにもスポンサー席を作ろうと思う。内装もディモンズのロゴを付けたりするかもな」
僕やアルコの質問に、アーノルドくんと父さんが答える。……そもそも父さんがバンドマスターなんだから、父さんが納得してるならほぼ決定事項みたいなもん。反対する理由も特にないし。皆の雰囲気も、ちょっと大変だけど今後のために頑張ろうって空気に変わってきた。アルコも…………アルコ? どうしたんだろう。端っこに移動して何か考え込んでる。聞きに行こう。
「どうしたの、なにか心配ごと?」
「コルダ……え、っと、その、テレビ、って言ってたでしょ。今までは僕たちの顔って、ポスターのイラストや公演で見た人しか知らなかったはずだから、ほら……」
「……! アダマス……」
そうだった。アーノルドくん曰く、ギャングが狙ってるのは〝容姿が全く似ていない、金髪と黒髪で十四歳の双子〟だった。正に僕たちも当てはまってる。ただ、それなら僕らを名指ししてないのが不思議だし、信憑性も高くないから最近はあまり気にしてなかった。その話を聞いたのも二ヶ月以上前だったし。でもアルコは違うのかも。……泣きそうな顔してたもんな、あの日。
「……アーノルドくん」
「はい! なんでしょうコルダ様」
アーノルドくんを舞台端に呼び寄せて、耳を貸してもらう。アルコがちょっとだけ戸惑った顔したから、一緒に聞いててって微笑んだ。
「パレードに出るのもスポンサーについてもらうのも賛成だけど、ひとつだけ心配なことがあるんだ。ほら、僕たちアダマスって奴に狙われてるかもしれないでしょ? パレードに出たら新聞に載ったりしちゃうんじゃないかなって」
「……成程。そういうことでしたら、私のほうから報道各社に念押ししておきましょう」
「そんなことできるんですか?」
「お任せを! 広告を出している会社もありますし、何よりキングオブニュースたるストリング・タイムズのご子息とは親しい友人でしてね」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたっけ。……じゃあ、頼んだよ」
「ええ! なに、主催たる私をアップで撮れとお願いすれば一発ですとも!」
アーノルドくんは自信満々でウインクして、センターに舞い戻っていった。
父さん、もといバンドマスターからの発表に、驚いたのは僕も含めメンバーほぼ全員だった。流石にサブバンドマスターは知ってたのかな、落ち着いてる。嬉しそうではあるけどね。そりゃあそうだ、サンクスギビングデーのパレードといえばマンハッタンを何マイルも練り歩く一大イベント! ラジオ中継だってあるし新聞にも載る。でも急だなあ。もう当日まで半月もないのに。
「出ると決まったわけじゃないさ。出てみないかと打診されているって話だ」
打診? …………ああ、そっか! このパレードの主催は! 道理でさっきから見ないと思った。僕が思い浮かべたニコニコ笑顔の彼は、想像したままの顔で上手から出てくる。
「はい! 私アーノルド・ディモントが、ディモンズ社長代理として直々にオファーさせて頂きました! 勿論、皆様に承認頂いた暁には私もフロートに立ち観衆の皆様にご挨拶しようかと考えております! グローリア・ビッグバンドにとっては宣伝となり、我々ディモンズにとっては次期社長たる私の好感度上昇に繋がる。双方にとって有益な提案かと!」
「じ、自分で言うんですかそれ……」
アルコが引き気味に言うと、皆からドッと笑いが起きた。そっかそっか、今年は主催側の人がうちのバンドにいるんだ。改めて、デパート経営もうちでの出演もこなした上で学業もって、本当に忙しいんだなあアーノルドくん。
「おっと、少々誠実すぎましたでしょうか。しかし皆様にとって悪い話ではないでしょう?」
「にしたって急すぎねえっすか? バンドマスターとツインズはまだしも、俺たちゃ凡才なんだぞ? もうちょっと準備期間ってもんが欲しかったっすけどね」
「おやおや、その歌唱力でドラム不在の窮地を救ったトランぺッター・ペーター様が何を仰る! ……とはいえご指摘のとおり、このような時期のお願いになったのには込み入った事情がございまして」
そうだよね、それこそペーターくんが一曲代わってくれたあの頃、九月ぐらいにはメンバーに通達されてていい話な気がする。それぐらい大規模なイベントだと思うんだけどな。
「実は元々オファーしていた楽団がドイツ系の方々でして。欧州の戦況変化に伴い辞退されてしまったのです」
「ああ、そっかあ。ボリス博士もすぐ行っちゃったもんね。それでうちなら何とかできるって思ってくれたんだ!」
「ええ、ええ! 全くもってその通りでございますコルダ様! 実を言いますと企画段階でオファー候補にグローリア・ビッグバンドも挙がっていたのですが、連日公演続きで多忙だろうとあと一歩のところで通らなかったのです。当然スケジュールを大きく動かしてしまうことになりますから、ご出演頂いた暁には相応の対価をご用意致します。ずばり……」
アーノルドくんが父さんの顔をチラッと窺った。父さんが頷いて、言葉の続きを引き取る。
「……ディモンズが、我々グローリア・ビッグバンドのスポンサーとなってくれるそうだ。今回限りではなく、今後とも、と」
「「す……スポンサー!?」」
僕とアルコだけじゃない、メンバーほぼ全員の声が重なる。そもそもうちのバンドにスポンサーはついたことがなかったはず。立ち上げた当初の活動費は父さん、母さんやサブバンドマスター、あとボリス博士のポケットマネーだったって聞いてるし。だから皆びっくりはしてるけど、スポンサーがついたらどうなるのかイマイチよく分からない、って顔してる。予想しうるメリットの中で、一番大きいものといえば……。
「それってつまり……ディモンズの宣伝に協力する代わりに、皆のギャラが増えるってことかな」
「左様にございます! 更にメンバーの皆様にはディモンズ各店舗にてご利用頂ける様々なご優待サービスを!」
「そこまで……ディモンズ側にメリットはあるんですか」
「勿論ですとも! ラジオ広告、将来的にはテレビ放送での広告にも皆様を起用し相互に知名度向上を図ろうと考えております!」
「シアターにもスポンサー席を作ろうと思う。内装もディモンズのロゴを付けたりするかもな」
僕やアルコの質問に、アーノルドくんと父さんが答える。……そもそも父さんがバンドマスターなんだから、父さんが納得してるならほぼ決定事項みたいなもん。反対する理由も特にないし。皆の雰囲気も、ちょっと大変だけど今後のために頑張ろうって空気に変わってきた。アルコも…………アルコ? どうしたんだろう。端っこに移動して何か考え込んでる。聞きに行こう。
「どうしたの、なにか心配ごと?」
「コルダ……え、っと、その、テレビ、って言ってたでしょ。今までは僕たちの顔って、ポスターのイラストや公演で見た人しか知らなかったはずだから、ほら……」
「……! アダマス……」
そうだった。アーノルドくん曰く、ギャングが狙ってるのは〝容姿が全く似ていない、金髪と黒髪で十四歳の双子〟だった。正に僕たちも当てはまってる。ただ、それなら僕らを名指ししてないのが不思議だし、信憑性も高くないから最近はあまり気にしてなかった。その話を聞いたのも二ヶ月以上前だったし。でもアルコは違うのかも。……泣きそうな顔してたもんな、あの日。
「……アーノルドくん」
「はい! なんでしょうコルダ様」
アーノルドくんを舞台端に呼び寄せて、耳を貸してもらう。アルコがちょっとだけ戸惑った顔したから、一緒に聞いててって微笑んだ。
「パレードに出るのもスポンサーについてもらうのも賛成だけど、ひとつだけ心配なことがあるんだ。ほら、僕たちアダマスって奴に狙われてるかもしれないでしょ? パレードに出たら新聞に載ったりしちゃうんじゃないかなって」
「……成程。そういうことでしたら、私のほうから報道各社に念押ししておきましょう」
「そんなことできるんですか?」
「お任せを! 広告を出している会社もありますし、何よりキングオブニュースたるストリング・タイムズのご子息とは親しい友人でしてね」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたっけ。……じゃあ、頼んだよ」
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