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三公演目――兄たちのサニーサイド

三曲目:コルダ・グローリア

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「……うーん、なかなか手強い相手みたいだね。本名は勿論、仮面の下の素顔は誰も知らない……普段は司令塔だけど、肉弾戦もお手のもの、か。そこまで実力があるのならどこかで下積みしてそうなもんだけど、今のところバレてないから余計に突然現れた新星っぽさがあるんだろうね」

 紅茶はミルクと砂糖を足して、なんとか飲みきれそう。完全に飲みきるとお代わりを持ってきてくれちゃうだろうから、調整しつつちまちまと。アーノルドくんは小さく切られたチュロスを口に運んでいたけど、飲み込んだあとで「そうなのです」と返してくれた。
 
「アダマスに狙われている可能性がある以上、外出時はボディガードをつけたほうがよろしいかと。ご入用であれば紹介致しますので、是非」

「そうだね~……あまり大事にはしたくないんだけど。一応アルコに言っとくよ。ありがとう」

「グローリア・ビッグバンドはこれから更に栄えていくことでしょう。その顔たるお二人ですから、用心しすぎるぐらいで丁度良いかもしれませんね」

 アーノルドくんの言葉に、アルコの怯えた顔が浮かぶ。細く揺れる、琥珀の瞳。悲痛に歪んだ小さな口元。ギャングは、怖くない。そう言うのなら、君が恐れてるものはなんなんだろう。僕のために、家のために、バンドのためにと動いてくれる君が、久々にみせた涙だから。どうにかしてあげたい。

「……アルコ様が大切ですか?」

 山盛りだったチュロスの、最後の一つを残してアーノルドくんは言う。チョコレート味のそれをフォークで刺しながら、僕は強く頷いた。

「勿論。アルコの笑顔が、僕の太陽だから」

「はは、成程! それ抜きでは生きられない、と。しかし世間の皆様方は、コルダ様のほうが太陽だとお思いでは?」

「そう?」

「ええ。いつだって中心で輝き、圧倒的な光を放っておられます。周りの星はコルダ様に魅了され、離れることができません。正に太陽!」

「んー……でも僕、一人じゃ光れないよ?」

 チュロスを舌にのせて、数滴の紅茶で飲み込む。ナプキンで口周りを軽く拭ってから、僕は続けた。

「だから月かな、強いて言うなら。アルコがいなくなったら、僕は陰るよ」

「……成程、成程。心得ました。では彼自身が雲らぬよう、引き続きアダマスへの警戒を強めてまいりましょう。……おっと! コルダ様、そろそろお時間では?」

 腕時計の針を見れば、ご機嫌で両手をあげてる。彼の言うとおりもう戻らないと。

「アーノルドくんは学校に戻るんだっけ? 途中まで一緒に行こうよ」

「お誘い頂き誠に光栄。ですが私は此方で少し仕事を片付けてから出ますので、お見送りだけさせて頂ければ」

「そっか。大変なんだねデパートの御曹司も」

「コルダ様ほどではございません」

 エレベーターに向かうと、今度はさっきの男の人が中から開けて待ってた。専用の裏口から出るか聞かれたけど、念の為帽子と伊達眼鏡は持ってきてるから、って行きと同じ表通りへ出る。太陽はちょうど真上で朗らかに歌ってた。

「……一緒にいられれば、それで僕は幸せなんだ。お金なんかなくたっていい」

 貯金でも始めようかな。一セントも残さず奪われたとしても、アルコの笑顔が見れなくなるよりずっといいから。タップよろしく足音を立てて、僕は明るい表通りを北へ進んだ。
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