宮川小たんてい団

吉善

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黒帯盗難事件

④ 佐那原朱里の謹慎

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 私にとって、武術とはいったい何なのだろう?
 正直、今まであって当たり前で、考えたことが無かった。
 一応、正義には『自己成長の一環』と言っていたが、あれはお父さんが言っていたことを真似て言っていただけだ。
 自分自身で思い、心の底から言っていたわけではない。
 とりあえず言えるのは、今まで積み重ねてきた努力を取り上げられ、否定されるような感覚を覚えた事だ。
 世間一般に言う、濡れ衣を着せられた人達は今の私と同じ気持ちなのだろうか?
 そんな人達を調査や推理で救う探偵は、テレビとかで言うところのヒーローみたいなものなのだろうか?
 そんな人を手助けできるのなら、私は、私は……。



 翌日。
 まだ半分くらいしかクラスメイト達が来ていない教室で、私は正義を自分の席の方へ呼んでいた。
 探偵団入りを考え直してくれた、とでも考えていたのか、正義は嬉しそうな表情をしていた。
 だが、私の落ち込んだ様子を見てある程度何かを察したのか、探偵団入りの話は切り出さなかった。
 その代わり「どうしたの?」と心配そうな声で私に話しかけてくれた。
 私は正義に、昨日家に帰ってからの出来事を話す。
 お父さんの黒帯が無くなった事。
 その黒帯が女子更衣室にあった私のスポーツバッグから出てきた事。
 そして、一カ月の謹慎処分を受けた事だ。

「謹慎!?」

 そんなに厳しく罰せられるのか、とでも思ったのか、正義は驚いた表情をする。
 私の家でこういうのは常識なのだが、正義には、いや、普通の家庭ではあまり一般的ではない罰のようだ。

「……うん。私、締めちゃいけない黒帯を締めたって疑われて、道場には立ち入り禁止で、練習も禁止。道着と帯も取り上げられちゃった」

 はああ……。
 と、今までの人生で一番かと思えるほど深いため息をついて机に顔を突っ伏せた。
 正直、悔しかった。
 黒帯を盗んだのは私ではない。
 つまり、本当の犯人は別にいて、その人に罪をなすり付けられたのだ。
 いったい誰が? なぜ黒帯は盗まれたの? なぜ私のスポーツバッグに黒帯が入れられたの?
 分からないことだらけで頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
 犯人を見つけて謹慎を解きたいが、自分は道場に入る事すらできず、ろくに調べることはできないだろう。
 となると、誰かの協力が必要になるのだ。
 例えば、正義とか。

「謹慎か……」
「うん」
「謹慎……」

 ここで、私は少しむっとして、机に突っ伏していた顔を上げる。
 まるで自分の事のように重く受け止めた、といえば確かにそうなのだが、やはり何度も謹慎と言われると腹が立った。

「ねえ、落ち込んでんだから何度も言わないでよ」
「『きんしん』って何?」

 ビンタしてやろうかと思った。
 いや、いやいやいや……。
 いくらカチンときたとはいえ、私はそんなことはしない。
 試合や練習、悪党相手以外で殴る蹴るをするのはお父さんの言いつけで禁止されているからだ。
 それに、単純に私自身、殴る蹴るは好きではない。
 というか、さっきの正義のリアクションはいったい何だったんだ。
 よく分からない部分もあるが、とりあえず私はこぶしを繰り出す代わりに、言葉を返した。

「悪い事したから、家でおとなしく反省してろって言われたの!」

 自分で言ってさらに気分が落ち込んできた。
 私は再び机に突っ伏した。



 昼休み。
 午前中は教室移動などであまり時間が取れなかったため、昼休みの時間を使って私が知る限りの事件内容を詳しく正義に伝えることにした。
 正義は、待ってましたと言わんばかりに百円ショップで売っているようなメモ帳をランドセルから取り出し話を聞く姿勢になる。
 まず、家で家族に聞いて調べた事について話す。
 お父さんの黒帯を最後に見たのはどうやら私。
 事件の日の朝、私が学校に向かう時までは、道場の隣にある干場に道着と帯は干されていた。
 黒帯が最初に無いことに気付いたのは、おそらくその日の取り込み当番である、中二の田中先輩だ。
 だけど、私は謹慎中なため、詳しい事情を直接聞くことは出来ていない。

「とりあえず、黒帯が無くなったのは朝から夕方の取り込みまでの時間か。大分範囲が広いな……」

 そこまで話を聞いたところで、正義は書いていたメモを一ページずつ破いて机の上に並べた。
 書かれたメモは以下の通り。

 ・黒帯を最後に見たのは事件当日の朝。見たのは朱里。
 ・取り込み当番の人が、黒帯が無いのに最初に気付いた。名前は田中先輩。
 ・干場は道場の隣にある。

 ここで、私は正義について少しだけ誤解をしていたことに気が付いた。
 正義は頭は悪くはない。
 多分、興味が無いこと、例えば学校の勉強に対しては少し不真面目で、それが原因で成績が悪かったのだ。
 興味を持っている推理に関しては人並みに能力がある。
 私も自分がやろうと思って力を入れ始めた武術に関しては力を発揮している。
 それが、正義の場合だと推理なのだ。

「事件当日、朝から夕方の取り込みまでの間、家や道場には誰かいた?」

 私と、中二、高一、高三の兄達は学校だからいない。
 となるとお父さんとお母さんしかいない。
 だけど、黒帯の持ち主のお父さんは違うし、お母さんは武術は素人で黒帯に興味は無いはずだ。
 そう答えると、正義は頭を抱えた。

「となると、最初に盗むタイミングがあって、出来心で黒帯を締めたいと考えそうな人……。取り込み当番の人が犯人か……?」

 取り込み当番を疑い始めたところで、私と正義は……。
 突然、頭に軽くチョップをくらった。

「何してんの? 二人して」

 頭にチョップを入れたのは、私と正義は同時に声の方を振り向く。
 そこにいたのは、昨日、正義に探偵団に誘われた頭脳担当メンバー。
 有時賢だった。

「賢! 探偵団に入りに来てくれたのか!」
「違う、昨日の探偵団の話をしに来たんじゃない。廊下に響き渡るくらい二人のおしゃべりが盛り上がっていたから、君ら二人を注意しに来たんだ。うるさい」

 周囲を見回してみると、教室内や廊下にいる生徒の何人かがこちらを見ていた。
 どうやら、賢の言う通り声が大きかった様だ。
 ごめん、と私と正義が言うと、賢は小さくため息をつく。
 すると、賢は机の上に置かれたメモをチラチラと見た。

「それで、二人は何をしてるの?」

 私は、賢に事情を説明した。
 昨日家に帰った後、黒帯が盗まれた事件に関してだ。

「朱里が謹慎……。それを解くために犯人探しがしたいんだね」
「うん。状況の整理はある程度できたんだけど、まだ犯人候補の絞り込みさえ出来てないの。今のところ、取り込み当番の人が怪しいんだけど……」

 賢は正義が書いたメモを一枚一枚見る。
 そして、何秒か目をつぶって考え込んだ。
 私は、おおっと期待する声を出しそうになるがそれを飲み込む。

「……朱里、取り込み当番は犯人の可能性は低いよ」

 そう言い切る賢。
 私と正義は一瞬お互いの顔を見た後、賢の方を向いた。
 二人で考えても分からない犯人の絞り込みを、賢は簡単にやってのけたからだ。

「え、今の話で分かるの?」
「うん。今書いた、このメモがその証拠だね」

 賢は、書かれたメモを一つ指さし、そう宣言した。
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