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塾テスト不正疑惑事件
② 定期テストと不正
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「そういえばさ賢、先週の定期テストで二位だった日野さんに追い抜かれたりしないよな?」
「日野に追い抜かれる? 日野に追い抜かれたら、何だっていうんだよ」
「一位じゃなくなるってことだよ。賢は先週一位とったじゃないか。五年生の時からずっと噂になってるだろ? 六年生の最後のテストで一位が取れたら塾から推薦状が出て、県内ならどこの中学でも合格できるって噂」
「そんな噂信じるなよ。大体、上級塾で一位を取れるなら……」
と、そんな事を言っていると、教室に男の人が二人入ってきた。
先に入ってきたのは、谷口塾長。
その後に続いて、塾講師の三井竜司(みつい りゅうじ)先生だ。
「はい、注目ー」
と谷口塾長が手をパンパンと叩きながら生徒たちの注目を集める。
「えー、今日は定期テストです。皆さん、夢はありますか? ここの塾に通っているということは、多かれ少なかれ勉強が必要な夢、例えばお医者さんや学者さんを目指している人もいるでしょう。こちらとしてもなるべく多くの生徒の夢を応援したいですが、レベル分けの事を考えるとこの人数までが厳しいのです。皆さん、夢を叶えるため、頑張りましょう!」
谷口塾長は、遠まわしに『学力の低い者に夢は叶えられない』という厳しい現実を突きつけながら、定期テストの問題用紙を教師用のテーブルに置いて教室を去っていった。
『夢』。
谷口塾長の言葉に出たその単語に僕は今まで陸と葵に勉強を教えていたことを思い出す。
二人には夢がある。
陸の夢は獣医。
幼い頃、飼っていた犬が病気で死んでしまったことで獣医を目指そうと決心したのだという。
葵の夢は小児科医。
幼い頃、葵自身が重い病気にかかっていて小児科に入院していた経験があり、それが小児科医を志すきっかけになったのだという。
僕は、小学生でこの二人以上に将来を考えて勉強している人を見たことが無い。
もちろん、応援したい。
僕の父親は昔塾講師をしていて、他の人を手助けして目標を達成するためのサポートをする事に喜びを感じていた。
それがいつの間にかうつったのか、僕も夢や目標を持って努力する人をサポートし応援するのが今の楽しみになっていた。
「……って、あれ、葵は?」
僕は、葵がいつもの席にいない事に気が付いた。
僕はいつも最前列の真ん中に座り、その左隣に陸、右隣に葵が座るのがいつもの席だ。
だが、先ほど僕に声をかけた葵がいつの間にかいなくなっていたのだ。
「ああ、葵はあっち」
陸が指さした先。
最前列の右から二番目の席には、葵の姿。
最前列の右端に座る、普段話したことが無い女子、日野美月(ひの みつき)の隣にいた。
「なんか、いつも一人でいるから友達になるとか言って、隣の席に座ったんだよ」
そう陸が言うので葵と美月の様子を見てみると、積極的に声をかける葵とそれにぎこちない様子で接する美月、といった感じだった。
そんな二人をなんとなく眺めていると、定期テストが始まった。
事件が起こったのは、定期テストが終了した直後の事だった。
テストを回収し終えたところで、谷口塾長が再び教室へと入ってきたのだ。
「あー、全員、鞄の中身と机の中に入っているものを全て出すように」
そう言う谷口塾長に、三井先生は驚いた表情で対応する。
「谷口塾長。急にどうしたのですか?」
「生徒がカンニングしていないかのチェックを忘れていてね。何、やましいことをしてない生徒はすぐ応じてくれるはずだよ」
三井先生も知らなかったといった様子。
とはいえ、この定期テストのランキングによっては一般塾送りとなるのだ。
カンニングが無いかチェックするというのも分からない話ではない。
僕はカバンの中身を全て出し、机の中には何も無い事をチェックする。
カバンは塾から支給される、A4サイズ程度の本が四、五冊くらい入る四角い物だ。
中身は塾の授業で使う教科書やノート類。
学校用をランドセル、塾用をカバンと使い分けるのに便利だ。
そして、机。
とは言っても、こっちはほぼほぼ使ったことが無い。
いつも、カバンから教科書とノート、ランドセルから筆記用具類を出して使うので、机を使う必要が無いのだ。
「ん……? 何だこれ?」
陸がそう声を漏らした。
カバンから取り出したのは、一枚の紙。
先ほど受けた定期テストの解答付き問題用紙だった。
バシッ! と音がしたかと思うと、それが消えた。
谷口塾長が取り上げたのだ。
「他にもいないか?」
いつもよりも低めのトーンでそう声を上げながら谷口塾長が周囲を見回す。
すると、何かを見つけた様子である生徒の元へ近付いた。
「これは何だ?」
葵の座っている机の中に谷口塾長が手を突っ込む。
すると、陸のカバンに入っていた物と同じ解答付き問題用紙が出てきた。
「三井先生。言うまでもない事ですが、事前に解答付き問題用紙を入手するという不正を働いた場合、どうなりますか?」
「え、えっと……」
突然の事で若干うろたえる三井先生。
数秒考えた後、三井先生はこう答えた。
「無条件で、一般塾行きです」
「日野に追い抜かれる? 日野に追い抜かれたら、何だっていうんだよ」
「一位じゃなくなるってことだよ。賢は先週一位とったじゃないか。五年生の時からずっと噂になってるだろ? 六年生の最後のテストで一位が取れたら塾から推薦状が出て、県内ならどこの中学でも合格できるって噂」
「そんな噂信じるなよ。大体、上級塾で一位を取れるなら……」
と、そんな事を言っていると、教室に男の人が二人入ってきた。
先に入ってきたのは、谷口塾長。
その後に続いて、塾講師の三井竜司(みつい りゅうじ)先生だ。
「はい、注目ー」
と谷口塾長が手をパンパンと叩きながら生徒たちの注目を集める。
「えー、今日は定期テストです。皆さん、夢はありますか? ここの塾に通っているということは、多かれ少なかれ勉強が必要な夢、例えばお医者さんや学者さんを目指している人もいるでしょう。こちらとしてもなるべく多くの生徒の夢を応援したいですが、レベル分けの事を考えるとこの人数までが厳しいのです。皆さん、夢を叶えるため、頑張りましょう!」
谷口塾長は、遠まわしに『学力の低い者に夢は叶えられない』という厳しい現実を突きつけながら、定期テストの問題用紙を教師用のテーブルに置いて教室を去っていった。
『夢』。
谷口塾長の言葉に出たその単語に僕は今まで陸と葵に勉強を教えていたことを思い出す。
二人には夢がある。
陸の夢は獣医。
幼い頃、飼っていた犬が病気で死んでしまったことで獣医を目指そうと決心したのだという。
葵の夢は小児科医。
幼い頃、葵自身が重い病気にかかっていて小児科に入院していた経験があり、それが小児科医を志すきっかけになったのだという。
僕は、小学生でこの二人以上に将来を考えて勉強している人を見たことが無い。
もちろん、応援したい。
僕の父親は昔塾講師をしていて、他の人を手助けして目標を達成するためのサポートをする事に喜びを感じていた。
それがいつの間にかうつったのか、僕も夢や目標を持って努力する人をサポートし応援するのが今の楽しみになっていた。
「……って、あれ、葵は?」
僕は、葵がいつもの席にいない事に気が付いた。
僕はいつも最前列の真ん中に座り、その左隣に陸、右隣に葵が座るのがいつもの席だ。
だが、先ほど僕に声をかけた葵がいつの間にかいなくなっていたのだ。
「ああ、葵はあっち」
陸が指さした先。
最前列の右から二番目の席には、葵の姿。
最前列の右端に座る、普段話したことが無い女子、日野美月(ひの みつき)の隣にいた。
「なんか、いつも一人でいるから友達になるとか言って、隣の席に座ったんだよ」
そう陸が言うので葵と美月の様子を見てみると、積極的に声をかける葵とそれにぎこちない様子で接する美月、といった感じだった。
そんな二人をなんとなく眺めていると、定期テストが始まった。
事件が起こったのは、定期テストが終了した直後の事だった。
テストを回収し終えたところで、谷口塾長が再び教室へと入ってきたのだ。
「あー、全員、鞄の中身と机の中に入っているものを全て出すように」
そう言う谷口塾長に、三井先生は驚いた表情で対応する。
「谷口塾長。急にどうしたのですか?」
「生徒がカンニングしていないかのチェックを忘れていてね。何、やましいことをしてない生徒はすぐ応じてくれるはずだよ」
三井先生も知らなかったといった様子。
とはいえ、この定期テストのランキングによっては一般塾送りとなるのだ。
カンニングが無いかチェックするというのも分からない話ではない。
僕はカバンの中身を全て出し、机の中には何も無い事をチェックする。
カバンは塾から支給される、A4サイズ程度の本が四、五冊くらい入る四角い物だ。
中身は塾の授業で使う教科書やノート類。
学校用をランドセル、塾用をカバンと使い分けるのに便利だ。
そして、机。
とは言っても、こっちはほぼほぼ使ったことが無い。
いつも、カバンから教科書とノート、ランドセルから筆記用具類を出して使うので、机を使う必要が無いのだ。
「ん……? 何だこれ?」
陸がそう声を漏らした。
カバンから取り出したのは、一枚の紙。
先ほど受けた定期テストの解答付き問題用紙だった。
バシッ! と音がしたかと思うと、それが消えた。
谷口塾長が取り上げたのだ。
「他にもいないか?」
いつもよりも低めのトーンでそう声を上げながら谷口塾長が周囲を見回す。
すると、何かを見つけた様子である生徒の元へ近付いた。
「これは何だ?」
葵の座っている机の中に谷口塾長が手を突っ込む。
すると、陸のカバンに入っていた物と同じ解答付き問題用紙が出てきた。
「三井先生。言うまでもない事ですが、事前に解答付き問題用紙を入手するという不正を働いた場合、どうなりますか?」
「え、えっと……」
突然の事で若干うろたえる三井先生。
数秒考えた後、三井先生はこう答えた。
「無条件で、一般塾行きです」
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