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塾テスト不正疑惑事件
④ 一般塾の陸と葵
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友達がある日、急に別のクラスに移動することになったら、どんな気持ちになるだろう?
塾に通っていない俺、正義には塾仲間のことが分からないから、代わりに学校のクラスで想像してみた。
転校みたいな、連絡を取り合うのも難しいって程ではないが、やっぱりいつもそばにいて当たり前の人がいなくなるのは寂しいと思う。
賢は『応援したい』とか言ってたけど、その気持ちの少し横のところに本人でも気づかないくらい小さいんだろうけど『二人がいなくて寂しい』って気持ちもあったのかもしれない。
事件が解決したら、聞いてみるか。
……いや、やっぱり止めとこうか。
「吉本正義です! 今日からお世話りなります!」
「正義、うちの道場じゃないんだから。……あー、佐那原朱里です。よろしくお願いします」
朱里から突っ込みを貰いながら、俺、正義は朱里と共に翌日の放課後から一般塾に潜入捜査していた。
入塾の挨拶で悪目立ちしたところで、空いている席に座り、今はおとなしく授業を受ける。
佐那原道場の時と同様、いきなり授業そっちのけで他の生徒に話しかけたりなんかしたら追い出されかねないから、捜査は授業が終わってからだ。
担当の塾講師は白屋笑子(しろや えみこ)先生。
ニコニコしながら、楽しく授業をしてくれる優しい先生だ。
だけど、授業は勉強が苦手な俺でも真面目に受ければなんとかついていけるレベル。
難関中学を受験したい生徒にとっては物足りないのもうなずけた。
賢が必死になるはずだ。
授業終了後。
「正義君と朱里さん?」
授業が終わった後、俺と朱里の元に一人の女子が声をかけてきた。
「ああ。賢の友達の上町葵さんかな?」
「うん。葵でいいよ。こっちは鈴井陸」
人見知り気味なのか、葵の後ろで男子生徒が小さくうなずいた。
「陸。俺、正義。よろしくな」
「う、うん。よろしく……」
自己紹介もそこそこに、俺は早速本題を切り出した。
「賢から聞いた。二人はこの前までは上級塾っていうここよりレベルの高い塾にいて、そこを不正疑惑で一般塾に移ることになったんだって?」
「そうなの。私も陸も不正なんかしてないのに、なんか、追い出される感じで……。賢は私達の事信じてくれてるけど、他の人、先生達は信じてくれなくって……」
葵がそう言って暗い顔をし、それにつられてか陸まで暗い顔をした。
「分かった。俺と朱里が調査するし、上級塾の方では賢が色々調べてるみたい。だからそう落ち込むなって」
「……ねえ、正義。賢が言ってたあれ、二人なら知ってるかも」
暗い顔をする二人を励ましていると、朱里がそう声をかけてきた。
確かに、二人なら何か知っているかもしれない。
「葵、陸。今一般塾にいる人で、予想より点数悪くて上級塾に行けなかった人っていなかったかな? 多分、いつもはテストで良い点出せる人だと思う」
俺のその質問に、葵と陸は顔を見合わせる。
「賢と僕と葵の次に成績の良い人ってことかな……。それだと、岸谷(きしたに)君と水町(みずまち)さんかな。二人とも五年生の時から一緒で、上級塾には入れてないけど成績良い方だよ」
と、陸が頑張っている様子で俺と朱里に伝える。
「その二人は、自分の点数に関して不満は言ってなかった?」
「言ってた。『何であの二人より点数が悪いんだ。採点ミスじゃないか?』って感じで。あ、あの二人っていうのは、谷口塾に俺と葵と入れ替わりで入った二人の事」
「やっぱり、賢の予想通りだな。朱里、メッセージアプリで賢に連絡入れて」
俺と賢と朱里は、捜査の情報共有がしやすいようにメッセージアプリのグループを作っている。
そこに今の話の内容を記入すると、朱里は送信ボタンを押した。
同時刻。
上級塾。
「『賢の予想通り、普段より点数が低くて上級塾に入れなかった人がいた。岸谷君と水町さん』か」
朱里からのメッセージが表示されたスマホの画面をスリープにすると、僕、賢は授業の終わった上級塾での捜査を進めていた。
というより、情報は勝手に入ってきたと言った方が近いかもしれない。
「頼むよ三井先生。俺、こっちの勉強ついてけない。一般塾に戻して欲しいんだ」
「私も。こっちの授業は早すぎるよ。上の人のレベルが高すぎるの」
そう言って三井先生に詰め寄るのは、陸と葵に代わって上級塾に入った生徒。
五木(いつき)という男子と、高橋(たかはし)という女子だ。
昨日、あの二人が初めての授業でうんうん唸っていたのは何となく気付いていたが、まさか自ら一般塾行きを選ぶとは思っていなかった。
「五木、高橋。すまないが、次の定期テストまでは塾の移動は認められない。それにしても、二人は五年生までは成績良かったじゃないか。六年生に上がってからサボり気味で成績が落ちてきたとはいえ、もっと頑張れるはずだ」
三井先生は二人を鼓舞するようにそう言うが、二人は結局嫌そうな顔をして自分の席に戻るだけだった。
教室内に貼られた『定期テストのランキング表』と書かれた紙を見ると、あの二人の定期テストの点数は八十五点と九十点。
実力でこの点数を取れる生徒なら、授業が早すぎるから一般塾送りにして欲しいだなんて言う訳がない。
塾の誰かが陸と葵に代わる成績上位者を選んで上級塾に入れようとしているとしたら、五年生までの成績だけを見て選んでいるのか……?
いや、まだ情報が足りない。
これじゃあ考察ではなく予想だ。
なにか、手に入れられる情報はないだろうか。
僕がそう考えていると、三井先生は講師用の教科書等をまとめて教室を出ようとしていた。
「三井先生!」
「……ん。有時か、どうした?」
「今後に活かしたいから採点済みの問題用紙が欲しいです。やっぱり、理由も無しに諦めてくれと言われても納得できません。僕は陸と葵の友人です。今回は不正が起きましたが、今後反省して自力で巻き返すために、問題用紙が必要なんです」
そうだ、問題用紙だ。
あれを見て、実際の点数と教室に張り出されているランキング表の点数に違いがあれば、それが証拠になる。
そう考えての行動だった。
だが……。
「あー、その事なんだが、問題用紙は紛失してしまったんだ。谷口塾長が採点した後にな。幸い、点数は谷口塾長がメモしてあったから、ランキング表は作成できたんだがな……」
「谷口塾長が採点?」
「ああ。普段はやらないんだが、野原塾と谷口塾の体制から、一般塾と上級塾へ体制が変わって今までと勝手が違うだろうから、講師陣の負担を減らすために、と。次回からはこういったことが無いよう、スキャンしてデータ化し、紛失を防止するという講師達のルールを設けるよう提案する。今回はもう諦めてくれ。……さあ、話は終わりだ、先生は今から一般塾の白屋先生に用があって忙しいんだ」
そう言うと、先生はクリアファイルに紙を何枚か入れて、教科書などの他の物と一緒に持って教室を出ていった。
クリアファイルに何が入っていたのか、僕は見逃さなかった。
塾に通っていない俺、正義には塾仲間のことが分からないから、代わりに学校のクラスで想像してみた。
転校みたいな、連絡を取り合うのも難しいって程ではないが、やっぱりいつもそばにいて当たり前の人がいなくなるのは寂しいと思う。
賢は『応援したい』とか言ってたけど、その気持ちの少し横のところに本人でも気づかないくらい小さいんだろうけど『二人がいなくて寂しい』って気持ちもあったのかもしれない。
事件が解決したら、聞いてみるか。
……いや、やっぱり止めとこうか。
「吉本正義です! 今日からお世話りなります!」
「正義、うちの道場じゃないんだから。……あー、佐那原朱里です。よろしくお願いします」
朱里から突っ込みを貰いながら、俺、正義は朱里と共に翌日の放課後から一般塾に潜入捜査していた。
入塾の挨拶で悪目立ちしたところで、空いている席に座り、今はおとなしく授業を受ける。
佐那原道場の時と同様、いきなり授業そっちのけで他の生徒に話しかけたりなんかしたら追い出されかねないから、捜査は授業が終わってからだ。
担当の塾講師は白屋笑子(しろや えみこ)先生。
ニコニコしながら、楽しく授業をしてくれる優しい先生だ。
だけど、授業は勉強が苦手な俺でも真面目に受ければなんとかついていけるレベル。
難関中学を受験したい生徒にとっては物足りないのもうなずけた。
賢が必死になるはずだ。
授業終了後。
「正義君と朱里さん?」
授業が終わった後、俺と朱里の元に一人の女子が声をかけてきた。
「ああ。賢の友達の上町葵さんかな?」
「うん。葵でいいよ。こっちは鈴井陸」
人見知り気味なのか、葵の後ろで男子生徒が小さくうなずいた。
「陸。俺、正義。よろしくな」
「う、うん。よろしく……」
自己紹介もそこそこに、俺は早速本題を切り出した。
「賢から聞いた。二人はこの前までは上級塾っていうここよりレベルの高い塾にいて、そこを不正疑惑で一般塾に移ることになったんだって?」
「そうなの。私も陸も不正なんかしてないのに、なんか、追い出される感じで……。賢は私達の事信じてくれてるけど、他の人、先生達は信じてくれなくって……」
葵がそう言って暗い顔をし、それにつられてか陸まで暗い顔をした。
「分かった。俺と朱里が調査するし、上級塾の方では賢が色々調べてるみたい。だからそう落ち込むなって」
「……ねえ、正義。賢が言ってたあれ、二人なら知ってるかも」
暗い顔をする二人を励ましていると、朱里がそう声をかけてきた。
確かに、二人なら何か知っているかもしれない。
「葵、陸。今一般塾にいる人で、予想より点数悪くて上級塾に行けなかった人っていなかったかな? 多分、いつもはテストで良い点出せる人だと思う」
俺のその質問に、葵と陸は顔を見合わせる。
「賢と僕と葵の次に成績の良い人ってことかな……。それだと、岸谷(きしたに)君と水町(みずまち)さんかな。二人とも五年生の時から一緒で、上級塾には入れてないけど成績良い方だよ」
と、陸が頑張っている様子で俺と朱里に伝える。
「その二人は、自分の点数に関して不満は言ってなかった?」
「言ってた。『何であの二人より点数が悪いんだ。採点ミスじゃないか?』って感じで。あ、あの二人っていうのは、谷口塾に俺と葵と入れ替わりで入った二人の事」
「やっぱり、賢の予想通りだな。朱里、メッセージアプリで賢に連絡入れて」
俺と賢と朱里は、捜査の情報共有がしやすいようにメッセージアプリのグループを作っている。
そこに今の話の内容を記入すると、朱里は送信ボタンを押した。
同時刻。
上級塾。
「『賢の予想通り、普段より点数が低くて上級塾に入れなかった人がいた。岸谷君と水町さん』か」
朱里からのメッセージが表示されたスマホの画面をスリープにすると、僕、賢は授業の終わった上級塾での捜査を進めていた。
というより、情報は勝手に入ってきたと言った方が近いかもしれない。
「頼むよ三井先生。俺、こっちの勉強ついてけない。一般塾に戻して欲しいんだ」
「私も。こっちの授業は早すぎるよ。上の人のレベルが高すぎるの」
そう言って三井先生に詰め寄るのは、陸と葵に代わって上級塾に入った生徒。
五木(いつき)という男子と、高橋(たかはし)という女子だ。
昨日、あの二人が初めての授業でうんうん唸っていたのは何となく気付いていたが、まさか自ら一般塾行きを選ぶとは思っていなかった。
「五木、高橋。すまないが、次の定期テストまでは塾の移動は認められない。それにしても、二人は五年生までは成績良かったじゃないか。六年生に上がってからサボり気味で成績が落ちてきたとはいえ、もっと頑張れるはずだ」
三井先生は二人を鼓舞するようにそう言うが、二人は結局嫌そうな顔をして自分の席に戻るだけだった。
教室内に貼られた『定期テストのランキング表』と書かれた紙を見ると、あの二人の定期テストの点数は八十五点と九十点。
実力でこの点数を取れる生徒なら、授業が早すぎるから一般塾送りにして欲しいだなんて言う訳がない。
塾の誰かが陸と葵に代わる成績上位者を選んで上級塾に入れようとしているとしたら、五年生までの成績だけを見て選んでいるのか……?
いや、まだ情報が足りない。
これじゃあ考察ではなく予想だ。
なにか、手に入れられる情報はないだろうか。
僕がそう考えていると、三井先生は講師用の教科書等をまとめて教室を出ようとしていた。
「三井先生!」
「……ん。有時か、どうした?」
「今後に活かしたいから採点済みの問題用紙が欲しいです。やっぱり、理由も無しに諦めてくれと言われても納得できません。僕は陸と葵の友人です。今回は不正が起きましたが、今後反省して自力で巻き返すために、問題用紙が必要なんです」
そうだ、問題用紙だ。
あれを見て、実際の点数と教室に張り出されているランキング表の点数に違いがあれば、それが証拠になる。
そう考えての行動だった。
だが……。
「あー、その事なんだが、問題用紙は紛失してしまったんだ。谷口塾長が採点した後にな。幸い、点数は谷口塾長がメモしてあったから、ランキング表は作成できたんだがな……」
「谷口塾長が採点?」
「ああ。普段はやらないんだが、野原塾と谷口塾の体制から、一般塾と上級塾へ体制が変わって今までと勝手が違うだろうから、講師陣の負担を減らすために、と。次回からはこういったことが無いよう、スキャンしてデータ化し、紛失を防止するという講師達のルールを設けるよう提案する。今回はもう諦めてくれ。……さあ、話は終わりだ、先生は今から一般塾の白屋先生に用があって忙しいんだ」
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