宮川小たんてい団

吉善

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塾テスト不正疑惑事件

⑤ 三井先生は疑っている

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 同時刻。
 一般塾。

「あれ、賢からメッセージだ」

 私、朱里は、スマホの着信音で賢からのメッセージに気付いた。

「賢、なんて?」

 私のスマホを覗き込む正義。

「えっと『一般塾に、三井先生という男の先生が行く。三井先生の持っているクリアファイルを手に入れてくれ。僕も行く』だって」

 三井先生? と私と正義が首をかしげていると、陸と葵が『上級塾の先生。勉強にはちょっと厳しい感じの先生』と教えてくれた。
 と、そんなことを話していると、早速、三井先生が一般塾の教室に現れた。

「白屋先生、少々お時間頂きたいのですが……」
「三井先生ですか!」

 大きく腕を広げて、白屋先生の元へ近付こうとする三井先生の行く手を阻みながら声をかけ、注意をそらしたのは正義だった。

「む、見たことない生徒だな、体験入学の生徒かな? 確かに、先生が三井だが……」
「有時賢から聞きました。この前のテストで、不正の疑惑がある生徒がいるとか、いないとか」
「その件で先生は白屋先生に話があるんだ、すまないが後にしてくれ」
「こっちにもその件で話があるんです。なあ、朱里」

 正義の声かけに応えるように、私は後ろから三井先生に飛びついた。
 背中に張り付き、三井先生の両腕を押さえる。

「な、なんだ君達は? 遊びなら生徒同士で外で、ここは教室だぞ!」

 私を振り払おうと体を揺さぶる三井先生。
 その瞬間を見逃さず、正義は三井先生からクリアファイルを取り上げた。
 その中には、二枚の問題用紙。
 氏名記入欄には『鈴井陸』『上町葵』と書かれていた。



 陸と葵のテストを発見した少し後。
 私、正義、合流した賢、三井先生は、一般塾の屋上にいた。
 上級塾にいるはずの三井先生が現れたかと思いきや、朱里が三井先生に飛びつき、さらにはクリアファイルを取り上げると陸と葵の問題用紙が出てくる。
 この一連の流れに教室が騒然としたため、慌てて三井先生は『上で話そう』と、屋上まで移動することとなったのだ。

「これはどういうことですか? あるじゃないですか、陸と葵の問題用紙」

 三井先生を問い詰める賢。

「それは……。なんというか、まだ処分してなかったんだ」
「少し嘘ですね。三井先生、陸と葵が不正をした件、本当なのかどうか疑ってますね? それを確かめたくて、誰にも見せずに取っておいた」

 賢の言葉に、三井先生は眉をひそめた。

「……ああ、そうだ。二人の鞄と机から解答付き問題用紙が出てきた時には、まだ不正を疑っていなかった。だから、一般塾行きになる二人のテストは採点不要と判断し抜いておいて、その他全員のテストだけ谷口塾長に渡していたんだ」
「なるほど。不要な物は渡さない、合理的な三井先生らしいですね」

 褒めているのかそうでもないような言葉に、三井先生は腕を組んだ。

「だが、二人のテストを見て違和感を覚えた。いくつか間違いがあったんだ。気になって採点してみたら、今までのテストと比べて点数があまり変わっていなかったんだ。少し点数は上がっていたが、不正をしているとはとても思えない微差。それに、そもそも、二人が問題用紙を事前に手に入れる方法が無い。上級塾は一階が教室で、二階が講師達用の準備室と塾長の部屋しかない。生徒は二階に上がっただけで気付かれる。解答付き問題用紙を手に入れるのはかなり難しいはずだ」

 賢はうなずく。

「それに加えて、谷口塾長が陸と葵の分以外のテストを処分して、点数だけの発表。さらに、学力が不十分な二人が上級塾入り。調べれば調べるほど違和感があるってことですよね? それで、三井先生も自分なりに調査しようと、手始めに白屋先生に何か知らないか話を聞きに行こうとした、といった感じでしょうか?」

 賢がそう質問すると、三井先生は首を縦に振った。

「分かりました。ところで、三井先生に伝えておきたい点があります。今、一般塾に通っている岸谷君と水町さん。自分のテストの予想点数に比べ、発表された点数が大きく下回っていたそうです」
「岸谷と水町が……?」

 二人の名前に、三井先生は反応した。

「何か、心当たりがあるんですか?」

「心当たりと言えるかは分からないが……。不正疑惑で一般塾に行った鈴井と上町、予想より点数が低かった岸谷と水町、六年生に上がる頃に勉強をサボっていて成績が落ちているはずが上級塾入りを果たした、五木と高橋。この六人、上級塾入りの条件である十位以内の前後にいる生徒達だなど思ってな……」
「そうですね。生徒達の成績を把握できる人間が一般塾と上級塾の特定の生徒を入れ替えることが目的だった可能性があります」
「特定の生徒を入れ替える……?」
「はい。それも、点数操作だけではなく、鞄が机に解答付き問題集を忍ばせるという手間をかけ、リスクを犯してまで」
「にわかには信じがたいな……。中学校の入試ならまだしも、塾のテストでそこまで……」
「あの、三井先生、ちょっといいですか?」

 三井先生と賢の会話に、正義が割って入った。

「俺達の捜査に、協力していただけませんか?」
「協力だと?」
「はい。この前のテストで一般塾送りになった二人には、夢があります。陸は獣医、葵は小児科医です。犯人は、そんな二人の夢への道を邪魔したんです。二人は、これからも賢と一緒に上級塾で勉強を頑張りたい。二人と教室で会えなくて、賢だって寂しがってる」
「おい」

 余計なことを言うな、とでも言いたそうな表情でそう声を上げる賢。

「そのために、二人は不正なんかしてないって証明したいんです。協力してください!」

 三井先生に対して頭を下げる正義に、私も「お願いします」と頭を下げる。
 賢も、私達二人に少し遅れてだが、頭を下げた。

「分かった。先生も塾講師として、疑問が残るテストを放っておくわけにはいかない。谷口塾長の様子は、先生が可能な限り見張っておこう」
「お願いします!」

 まだ春の夕方。
 私達、三人の声が空に響いた。
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