宮川小たんてい団

吉善

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塾テスト不正疑惑事件

⑩ 反撃開始

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 水曜日。
 上級塾の塾長室前。

「谷口塾長。今回も、解答付き問題用紙を私に渡してください。元野原塾生の有時賢を一般塾送りにしたいんです」

 私、谷口塾長は、生徒の一人である日野美月にそう声をかけた。
 私は驚いて辺りを見回し、周囲に二人しかいないことを確認する。

「な、何の話だ……」
「しらばっくれても無駄ですよ。元野原塾生を上級塾から追い出して、元谷口塾生を中心に難関中学への合格者を多く出そうとしている事は分かっています」
「な、何を根拠に……」
「先週のテストで私を脅した時の紙、今は私の自宅で保管してあります。これが、今後塾に通うであろう子供達やその保護者達の間で出回ったらどうなるでしょう? 私は、半分は脅されたのですし、それにたかが塾のテスト、大した目には合いません。ですが、塾長であるあなたはただでは済まない。自分の出世のために不正をでっちあげたんですから……ね?」
「わ、分かった。今回も、一枚解答付き問題用紙を出そう」

 私は慌てて塾長室に入り、前もって印刷しておいた解答付き問題用紙を一枚持ってきて日野に渡した。

「ありがとうございます。では」

 軽くお辞儀をすると、日野は塾長室を後にした。



 くそっ……!
 まさか生徒に脅されるとは、どうにか手を打たねば……!

「谷口塾長。今回の分の問題用紙を頂けませんか? そろそろテストが始まる時間なので」

 塾長室に入ってきたのは、塾講師の谷口先生だ。

「あ、ああ……」

 私は予め印刷しておいた問題用紙を人数分三井先生に渡す。

「今回も、テストが終わったら不正が無いかのチェックを行うぞ。またどうやってか解答付き問題用紙を盗む生徒がいてはかなわないからな」
「分かりました。では、前回と同様にテスト終了後に鞄や机をチェックするということで」

 三井先生は塾長室を出て、教室のある一階へと向かった。



 テストが終わった頃。
 私は一階の教室へと向かう。
 今頃、日野が有時の鞄か机にでも解答付き問題用紙を忍ばせているだろう。
 今回は大人しめに上級塾内のランキングを少しいじる程度にするつもりだったが、今回はやむを得ない。
 教室に入ると、生徒達や三井先生がこちらを向く。

「えー、前回同様、不正のチェックを行う。全員鞄と机の中身を出すように」

 私の言葉に「またか」と呟く生徒は何人かいたが、結局全員が従った。
 有時の席に目線を移す。
 隣には日野がいて、隣に座って有時の鞄かどこかに問題用紙を入れたことが分かった。

「あれ、何だこれ?」

 有時が鞄の中身を出しながらそう呟いたところを見逃さなかった。
 有時が鞄から一枚の紙を出す。
 その瞬間、私はその紙を取り上げた。

「有時! お前も不正を働いていたか!」

 その時だった。
 三井先生が、紙を取り上げた私の手を掴んだ。

「谷口塾長、不正とは何の話でしょうか?」
「な、何って、有時が不正に手に入れた解答付き問題用紙がここに……!」

 私の手から紙を取り上げ、三井先生はその表の面をこちらに向ける。
 紙には大きな文字で『ハズレ』と書かれていた。

「は、ハズレだとー!?」
「引っかかりましたね、谷口塾長。本物の解答付き問題用紙は、三井先生に預けていました」
「な、三井先生にだと……」
「はい、こちらに」

 三井先生は手にクリアファイルを持っていて、その中から解答付き問題用紙を取り出した。

「あなたは自分の出世のため、元谷口塾生を上級塾に通わせ学力向上させる必要があった。そのため、テストの点数操作と、不正のでっち上げによる元野原塾生の陸と葵を一般塾送りにした」
「ち、違う……」
「それも、日野を脅して利用して。日野が今回のテストの問題用紙をあなたから手に入れた時の会話、録音済みですよ」

 三井先生はボイスレコーダーを懐から取り出してこちらに向ける。

「これであなたは終わりです」
「お、終わってない! 私を誰だと思っている。上級塾の塾長だぞ! 誰も私に逆らえん! 三井、お前は解雇だ! 有時! 日野! お前らもこの私に逆らった! 二度と谷口塾の敷居はまたげないと思え!」
「何を訳の分からない事を言ってるんですか、谷口塾長」

 聞き覚えのある声だった。
 確か、上級塾を任される少し前、経営統合の申し出に行った時に聞いた覚えがある、その声は……!
 廊下から、一人の女性が教室に入ってくる。
 その女性は、野原塾と谷口塾を含む塾グループの会長の娘であり、宮川町エリアを統括するエリアマネージャー、葛西美由子(かさい みゆこ)だった。

「話は聞かせてもらいました。講師の指導力もなく昨年度まで谷口塾で中々低い評価を叩き出し、経営統合後は不正のでっち上げ。今日は不正の件について聞き取り調査をしたく伺ったのですが……。調べるまでもないようですね」
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