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塾テスト不正疑惑事件
⑪ 頭脳係 有時賢
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翌日の夕方、喫茶店「白ねこ」。
「それでは、鈴井君と上町ちゃんの身の潔白の証明、アンド、日野ちゃんのお友達復帰を祝って……。乾杯!」
俺、正義は少し困惑していた。
美月が朱里の家に一泊した時に、不正に関わったことを白状したところまでは知っているが、その詳細を聞こうというところから店の手伝いやら上級塾だから入れないやらで詳しいことまでは話を聞けていなかった。
朱里も詳しいことは知らず『谷口塾長が犯人の可能性が高く、水曜日のテストでその証拠を押さえる』とだけ聞かされたのだろう。
朱里も、店で一番奥の席の中心で騒ぐ若い女性について知らないということだ。
今、奥の席には女性と、賢、陸、葵、美月がいて、俺と朱里はカウンターで飲み物の準備とその手伝いをしているといった状況だ。
と、そんなことを考えていると、女性は賢を連れて俺と朱里のいるカウンターまでやってきた。
女性は、ニコニコしているのに対し、賢はどこか嫌そうな表情をしていた。
「賢、その人はいったい……」
「塾のエリアマネージャーだよ」
「エリアマネージャー?」
「塾長レベルの人を取りまとめる偉い人。犯人の谷口塾長を取り締まってくれたんだ。谷口塾長って、塾内ではトップの人間。力ずくでもみ消しにかかるかもしれない。朱里が黒帯盗まれたって疑われた時の道場の師範の方みたいに、犯人より上の立場で中立になれる人に、犯人を裁く役を引き受けてもらう必要があったんだ。それで、僕が声をかけて来てもらったんだ」
「そうなのか。エリアさん、ありがとうございます」
エリアって名前じゃないよ、と朱里のツッコミが入る。
「あはは! 面白い子ね。私は葛西。もしかして君が吉本君?」
「はい、そうです」
「やっぱり。活発で店のエプロンつけてるから、そうなんじゃないかって思ったの。そっちは佐那原ちゃん?」
「はい、佐那原朱里です」
「武術道場の娘で、とっても強くて、でも優しいんですって? 賢から聞いたわ」
ここで、俺は、有時君のような苗字に君付けではなく『賢』と下の名前を呼び捨てにするところに違和感を覚えた。
「あの、賢とはどうやって知り合ったんですか? 塾の偉い人と知り合いっては聞いてたんですけど、まさか直接塾に呼べるとは思ってなかったので、驚いてます」と、朱里。
「初めて会ったのは、賢が四年生の時ね」
「塾で会ったとか?」
「賢とそのお父さんの家でよ」
ん? と、俺と朱里は小さく首を傾げた。
「情報を小出しにすると誤解を招くよ……。かあさん」
「母さん!?」
俺と朱里は同時にそう言った。
俺はさらに、カウンターの奥にいる母さんの顔を一瞬見て「若っ!」と言い放つ。
この瞬間、夕飯のおかずが一部消えるのが確定した。
「あ、二十五才です」
『二十五才』。
その数字と同時に、自分達の年齢『十二歳』が頭に浮かんだ。
「あ、朱里、二十五引く十二って……?」
「正義、聞いちゃダメ」
朱里が軽く俺をにらむ。
「今、十二歳の賢が生まれた時、私は十三歳だったわね」
賢が母親の肩を軽く叩く。
「育ての母親だよ。義母(ぎぼ)と書いて、義母(かあ)さん。僕が幼い頃に産みの母親が亡くなって、三年生の頃までは父さんが一人で育ててくれた。四年生に上がった時に、父さんと義母さんが結婚して、育ての母親になったんだよ」
「ああ、そういうこと……」
「あれ、でも、賢は苗字『有時』で、義母さんは『葛西』……」
「父さんと結婚する前から塾に勤めてて、今も旧姓を名乗ってるんだ。二人には言っておくけど、塾のメンバーには言うなよ? 先生達に知られたら気を使われる。『エリアマネージャーの息子』とか『会長の孫』とかじゃなくて、ただの生徒の一人として通いたいんだ」
「分かった。秘密にするよ」
俺は笑顔で賢に対して頷いた。
「あの、葛西さんに聞きたいことが……。先生達、谷口塾長ってあの後どうなったんですか……?」
朱里は葛西さんにそう聞いた。
確かに、今回の事件の犯人がどうなったかは俺も気になる。
「会長である私の父に報告して、処分は任せてあるわ。多分、減給処分と他エリアへの左遷かしらね。そこで下っ端の塾講師からやり直し。よっぽどの成果を上げない限り、塾長クラスには成り上がれないってところかしら」
「そうなんですか……」
「あと、野原塾長には私から厳重注意」
「厳重注意って?」
と俺。
「凄いお叱りを受けたって意味よ。『一位取れたら推薦状が出る』って嘘の噂を流したの、野原塾長だったの。生徒を増やしたくて、ついつい嘘のうわさを流したみたい。谷口塾長にそのことを脅されて、成績が悪い生徒が入る一般塾を押し付けられたみたい」
「これから一般塾と上級塾ってどうなりますか?」
「上級塾の方には、新しい人が塾長として入る予定よ。あと、今後は上級塾は希望制にして、十人以上の希望者が出た場合のみテストをすることにしたわ。今までの決まりだと、テストの点だけで無理やり上級塾入りしたりってのがあったから、頑張りたいって人を上級塾入りさせるって感じにしたの」
「それじゃあ、陸と葵は……」
「二人は上級塾入りを希望しているし、昨日のテストの点数が良ければ上級塾に戻れるわよ」
「よっしゃー! これで依頼完了だ!」
俺は朱里とハイタッチをした。
「それより賢。二人に言う事があるんじゃないの?」
賢の方をじっと見る葛西さん。
そして、なぜか葛西さんは賢の背中をポンと叩いて陸達のいる奥の席へと戻っていった。
カウンターの前には、俺、朱里、賢の三人だけになる。
「……正義、朱里、僕には夢がある。犯罪心理学者だ」
「犯罪心理学者?」
「そうだ。犯罪心理学は、犯罪の原因を研究する学問。犯罪防止といった被害者側はもちろん、加害者の更生や再犯防止にも役立てる学問だ。僕はこれを使って、人の応援に役立てようと考えている」
「応援?」
「一つ目は、犯罪防止。これは言うまでもないけど、犯罪の被害にあいそうな被害者を守り、夢や目標の妨害を防ぐのが目的だ」
「今回で言ったら、陸と葵だね」
陸と葵の夢は一時的にとはいえ、谷口塾長に妨害されていた。
今後はそう言った事が無いようにしたいということか。
「二つ目は、加害者の更生や再犯防止。本人が深く反省し同じような事を起こさないようにすれば、加害者本人が夢や目標を叶えるように動くきっかけになると考えている」
「谷口塾長と野原塾長だね」
確かに、二人が反省してこれからは真面目に次ごとに取り組むようになれば、今の状況を良い方向に向かわせる事が出来るかもしれない。
「……もちろん、殺人のような取り返しのつかない犯罪に対しては難しいと思う。だけど、今回のような、取り帰りが付く可能性のある事に対してなら、いくらか役立てると思う。例えば、更生して講師や塾長のような指導者として成長し、人生を再スタートさせる……とかね」
ここで朱里は軽く拍手をした。
「凄い。賢はそんなことまで考えてたんだ。私、加害者側が立ち直るきっかけを作るっていうのは良いことだと思う。美月が問題用紙を鞄と机の中に入れたこと自白した時、賢と陸と葵にしっかり理解してもらって、これからも仲良くしてほしいって考えてたから、少しだけ、賢の夢が分かるな……」
賢の話を聞き、朱里の反応を見ながらも、俺は腕を組んで上の方を見た。
「俺は……。そうなんだろう。そりゃ、悪い事や人が嫌がる事した人でも、反省していつか良い人生を送ってくれたらそれでいいかなとは思っている」
黒帯盗難事件で、俺に返り討ちに会って謝った山井、犯人をかばっていたことを朱里に謝った友里さん、今回の事件で問題用紙を鞄と机の中に入れた事を自白した美月を思い出す。
「けど、やっぱり、被害にあった人を助けるのが、一番大事だと思う。何も悪いことをしていない人が嫌な目に合うのって、一番駄目だと思う。事件が起こらないのが一番いいとは思うけど、それって難しい。だから、事件を解決するのに力を入れるのが一番良いのかなって俺は思う」
黒帯盗難事件で濡れ衣を着せられた朱里、野原塾送りになった陸と葵を思い出す。
「僕は自分の夢を語っただけだよ。二人が今持ってるそれぞれの『正しさ』を否定するつもりはない。それに、僕らは今、あまりにも経験不足過ぎる。いつか『正しさ』について話し合う事もあるだろうけど、まだまだずっと先の話だろうね」
ん……? 『まだまだずっと先の話』?
「ところで、二人は僕の勧誘、どうする気?」
「諦めてない。この前も今回も、賢がいなかったら事件を解決できなかったと思う。だから、力を貸して欲しいんだ」
「……そうか。……さっき日野と少し話をしたんだけど、今まで付きっきりで見ていた陸と葵の勉強を、日野が手伝ってくれるそうだ」
「そうなんだ。上級塾の一位と二位が見てくれるなら心強いね」
「ああ。それで、今後は多少なら時間を作りやすくなった。今までは探偵団に時間を割いた分、二人の勉強を見る時間が削られやすくなる状況だったんだけど、ある程度は問題なくなったんだ。……それに」
それに? と、俺と朱里は聞く。
「道場に弟子入りしてまで情報を手に入れた正義。日野を父親から守り、自発的に自白させた朱里。二人は、応援のし甲斐がありそうだ」
そこまで言うと、賢は「ちょっと、待っててくれ」と言い、葛西さん、陸、葵、美月がおしゃべりしながらくつろいでいる一番奥の席に向かった。
そして、メニュー表と一緒に置かれているノートを手に取り戻ると、カウンターの上に置いた。
表紙には俺の書いた『宮川小たんてい団』の文字。
表紙をめくると、一ページ目には『メンバー一覧』と書かれていて、その下には『団長 吉本正義』『武術係 佐那原朱里』と書かれていた。
賢は鞄から取り出した筆記用具入れからシャーペンを取り出し、さらにその下にペン先を置く。
「朱里は武術係か……。それなら、僕は頭脳係なんてどうだろう?」
賢は『頭脳係 有時賢』と記入した。
「いやったーっ!」
「いえーい!」
俺と朱里は飛び上がるかのような勢いで喜んだ。
「言っておくけど、これは僕の夢を叶えるためでもあるんだ。悪い事をする人をこの目で見て、将来学問に役立てるためだ」
「これで三人集まった! 俺達は、宮川小たんてい団だーっ!」
「聞いちゃいないよ」
はぁ……、ため息をつくが、賢の顔は笑っていた。
「それでは、鈴井君と上町ちゃんの身の潔白の証明、アンド、日野ちゃんのお友達復帰を祝って……。乾杯!」
俺、正義は少し困惑していた。
美月が朱里の家に一泊した時に、不正に関わったことを白状したところまでは知っているが、その詳細を聞こうというところから店の手伝いやら上級塾だから入れないやらで詳しいことまでは話を聞けていなかった。
朱里も詳しいことは知らず『谷口塾長が犯人の可能性が高く、水曜日のテストでその証拠を押さえる』とだけ聞かされたのだろう。
朱里も、店で一番奥の席の中心で騒ぐ若い女性について知らないということだ。
今、奥の席には女性と、賢、陸、葵、美月がいて、俺と朱里はカウンターで飲み物の準備とその手伝いをしているといった状況だ。
と、そんなことを考えていると、女性は賢を連れて俺と朱里のいるカウンターまでやってきた。
女性は、ニコニコしているのに対し、賢はどこか嫌そうな表情をしていた。
「賢、その人はいったい……」
「塾のエリアマネージャーだよ」
「エリアマネージャー?」
「塾長レベルの人を取りまとめる偉い人。犯人の谷口塾長を取り締まってくれたんだ。谷口塾長って、塾内ではトップの人間。力ずくでもみ消しにかかるかもしれない。朱里が黒帯盗まれたって疑われた時の道場の師範の方みたいに、犯人より上の立場で中立になれる人に、犯人を裁く役を引き受けてもらう必要があったんだ。それで、僕が声をかけて来てもらったんだ」
「そうなのか。エリアさん、ありがとうございます」
エリアって名前じゃないよ、と朱里のツッコミが入る。
「あはは! 面白い子ね。私は葛西。もしかして君が吉本君?」
「はい、そうです」
「やっぱり。活発で店のエプロンつけてるから、そうなんじゃないかって思ったの。そっちは佐那原ちゃん?」
「はい、佐那原朱里です」
「武術道場の娘で、とっても強くて、でも優しいんですって? 賢から聞いたわ」
ここで、俺は、有時君のような苗字に君付けではなく『賢』と下の名前を呼び捨てにするところに違和感を覚えた。
「あの、賢とはどうやって知り合ったんですか? 塾の偉い人と知り合いっては聞いてたんですけど、まさか直接塾に呼べるとは思ってなかったので、驚いてます」と、朱里。
「初めて会ったのは、賢が四年生の時ね」
「塾で会ったとか?」
「賢とそのお父さんの家でよ」
ん? と、俺と朱里は小さく首を傾げた。
「情報を小出しにすると誤解を招くよ……。かあさん」
「母さん!?」
俺と朱里は同時にそう言った。
俺はさらに、カウンターの奥にいる母さんの顔を一瞬見て「若っ!」と言い放つ。
この瞬間、夕飯のおかずが一部消えるのが確定した。
「あ、二十五才です」
『二十五才』。
その数字と同時に、自分達の年齢『十二歳』が頭に浮かんだ。
「あ、朱里、二十五引く十二って……?」
「正義、聞いちゃダメ」
朱里が軽く俺をにらむ。
「今、十二歳の賢が生まれた時、私は十三歳だったわね」
賢が母親の肩を軽く叩く。
「育ての母親だよ。義母(ぎぼ)と書いて、義母(かあ)さん。僕が幼い頃に産みの母親が亡くなって、三年生の頃までは父さんが一人で育ててくれた。四年生に上がった時に、父さんと義母さんが結婚して、育ての母親になったんだよ」
「ああ、そういうこと……」
「あれ、でも、賢は苗字『有時』で、義母さんは『葛西』……」
「父さんと結婚する前から塾に勤めてて、今も旧姓を名乗ってるんだ。二人には言っておくけど、塾のメンバーには言うなよ? 先生達に知られたら気を使われる。『エリアマネージャーの息子』とか『会長の孫』とかじゃなくて、ただの生徒の一人として通いたいんだ」
「分かった。秘密にするよ」
俺は笑顔で賢に対して頷いた。
「あの、葛西さんに聞きたいことが……。先生達、谷口塾長ってあの後どうなったんですか……?」
朱里は葛西さんにそう聞いた。
確かに、今回の事件の犯人がどうなったかは俺も気になる。
「会長である私の父に報告して、処分は任せてあるわ。多分、減給処分と他エリアへの左遷かしらね。そこで下っ端の塾講師からやり直し。よっぽどの成果を上げない限り、塾長クラスには成り上がれないってところかしら」
「そうなんですか……」
「あと、野原塾長には私から厳重注意」
「厳重注意って?」
と俺。
「凄いお叱りを受けたって意味よ。『一位取れたら推薦状が出る』って嘘の噂を流したの、野原塾長だったの。生徒を増やしたくて、ついつい嘘のうわさを流したみたい。谷口塾長にそのことを脅されて、成績が悪い生徒が入る一般塾を押し付けられたみたい」
「これから一般塾と上級塾ってどうなりますか?」
「上級塾の方には、新しい人が塾長として入る予定よ。あと、今後は上級塾は希望制にして、十人以上の希望者が出た場合のみテストをすることにしたわ。今までの決まりだと、テストの点だけで無理やり上級塾入りしたりってのがあったから、頑張りたいって人を上級塾入りさせるって感じにしたの」
「それじゃあ、陸と葵は……」
「二人は上級塾入りを希望しているし、昨日のテストの点数が良ければ上級塾に戻れるわよ」
「よっしゃー! これで依頼完了だ!」
俺は朱里とハイタッチをした。
「それより賢。二人に言う事があるんじゃないの?」
賢の方をじっと見る葛西さん。
そして、なぜか葛西さんは賢の背中をポンと叩いて陸達のいる奥の席へと戻っていった。
カウンターの前には、俺、朱里、賢の三人だけになる。
「……正義、朱里、僕には夢がある。犯罪心理学者だ」
「犯罪心理学者?」
「そうだ。犯罪心理学は、犯罪の原因を研究する学問。犯罪防止といった被害者側はもちろん、加害者の更生や再犯防止にも役立てる学問だ。僕はこれを使って、人の応援に役立てようと考えている」
「応援?」
「一つ目は、犯罪防止。これは言うまでもないけど、犯罪の被害にあいそうな被害者を守り、夢や目標の妨害を防ぐのが目的だ」
「今回で言ったら、陸と葵だね」
陸と葵の夢は一時的にとはいえ、谷口塾長に妨害されていた。
今後はそう言った事が無いようにしたいということか。
「二つ目は、加害者の更生や再犯防止。本人が深く反省し同じような事を起こさないようにすれば、加害者本人が夢や目標を叶えるように動くきっかけになると考えている」
「谷口塾長と野原塾長だね」
確かに、二人が反省してこれからは真面目に次ごとに取り組むようになれば、今の状況を良い方向に向かわせる事が出来るかもしれない。
「……もちろん、殺人のような取り返しのつかない犯罪に対しては難しいと思う。だけど、今回のような、取り帰りが付く可能性のある事に対してなら、いくらか役立てると思う。例えば、更生して講師や塾長のような指導者として成長し、人生を再スタートさせる……とかね」
ここで朱里は軽く拍手をした。
「凄い。賢はそんなことまで考えてたんだ。私、加害者側が立ち直るきっかけを作るっていうのは良いことだと思う。美月が問題用紙を鞄と机の中に入れたこと自白した時、賢と陸と葵にしっかり理解してもらって、これからも仲良くしてほしいって考えてたから、少しだけ、賢の夢が分かるな……」
賢の話を聞き、朱里の反応を見ながらも、俺は腕を組んで上の方を見た。
「俺は……。そうなんだろう。そりゃ、悪い事や人が嫌がる事した人でも、反省していつか良い人生を送ってくれたらそれでいいかなとは思っている」
黒帯盗難事件で、俺に返り討ちに会って謝った山井、犯人をかばっていたことを朱里に謝った友里さん、今回の事件で問題用紙を鞄と机の中に入れた事を自白した美月を思い出す。
「けど、やっぱり、被害にあった人を助けるのが、一番大事だと思う。何も悪いことをしていない人が嫌な目に合うのって、一番駄目だと思う。事件が起こらないのが一番いいとは思うけど、それって難しい。だから、事件を解決するのに力を入れるのが一番良いのかなって俺は思う」
黒帯盗難事件で濡れ衣を着せられた朱里、野原塾送りになった陸と葵を思い出す。
「僕は自分の夢を語っただけだよ。二人が今持ってるそれぞれの『正しさ』を否定するつもりはない。それに、僕らは今、あまりにも経験不足過ぎる。いつか『正しさ』について話し合う事もあるだろうけど、まだまだずっと先の話だろうね」
ん……? 『まだまだずっと先の話』?
「ところで、二人は僕の勧誘、どうする気?」
「諦めてない。この前も今回も、賢がいなかったら事件を解決できなかったと思う。だから、力を貸して欲しいんだ」
「……そうか。……さっき日野と少し話をしたんだけど、今まで付きっきりで見ていた陸と葵の勉強を、日野が手伝ってくれるそうだ」
「そうなんだ。上級塾の一位と二位が見てくれるなら心強いね」
「ああ。それで、今後は多少なら時間を作りやすくなった。今までは探偵団に時間を割いた分、二人の勉強を見る時間が削られやすくなる状況だったんだけど、ある程度は問題なくなったんだ。……それに」
それに? と、俺と朱里は聞く。
「道場に弟子入りしてまで情報を手に入れた正義。日野を父親から守り、自発的に自白させた朱里。二人は、応援のし甲斐がありそうだ」
そこまで言うと、賢は「ちょっと、待っててくれ」と言い、葛西さん、陸、葵、美月がおしゃべりしながらくつろいでいる一番奥の席に向かった。
そして、メニュー表と一緒に置かれているノートを手に取り戻ると、カウンターの上に置いた。
表紙には俺の書いた『宮川小たんてい団』の文字。
表紙をめくると、一ページ目には『メンバー一覧』と書かれていて、その下には『団長 吉本正義』『武術係 佐那原朱里』と書かれていた。
賢は鞄から取り出した筆記用具入れからシャーペンを取り出し、さらにその下にペン先を置く。
「朱里は武術係か……。それなら、僕は頭脳係なんてどうだろう?」
賢は『頭脳係 有時賢』と記入した。
「いやったーっ!」
「いえーい!」
俺と朱里は飛び上がるかのような勢いで喜んだ。
「言っておくけど、これは僕の夢を叶えるためでもあるんだ。悪い事をする人をこの目で見て、将来学問に役立てるためだ」
「これで三人集まった! 俺達は、宮川小たんてい団だーっ!」
「聞いちゃいないよ」
はぁ……、ため息をつくが、賢の顔は笑っていた。
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