25 / 28
選定前夜を星は見守る
しおりを挟む夜の帳が降りるのは早かった。王宮の庭園も灯火のもとに沈み、白亜の壁は月光を鈍く反射している。
アヴェリンは一人、自室のバルコニーに立っていた。薄いガウンを羽織ってもなお風は冷たく、頬をかすめるたびに心がざわつく。
(また、誰かを――選ばなければならない)
選定は明日。
アヴェリンの審神の眼によって選ばれた者は、“女神の加護に最もふさわしい者”として生き残り、他の王子たちはその瞬間から「死刑を前提とした裁定」に晒される。
それは、女神代行者であるアヴェリンに課された絶対の義務だった。
けれど。
胸の奥は、そんな使命だけでは測れぬ私情で満ちていた。
レオポルドからこれまで受けた仕打ちと謝罪、ケイランは自らの罪を語り、弱さを曝け出し、ジュリアンはいつも優しく、そして命を賭して救ってくれた。マウロには代行者という価値がつく前に命を救われている。
彼ら一人一人の顔が、心に浮かんでは消える。まるで小さな灯火が胸の中にともっていくように。
「……選べるわけ、ないじゃないですか」
そう呟いた声は風にかき消された。
だがその声は、確かにアヴェリンの喉を震わせた。
誰かの命を救うということは、誰かの命を見捨てるということ。
選ぶということは、裁くということ。
愛するということは、他を否定すること――。
彼女が愛されれば愛されるほど、彼らの目がまっすぐであればあるほど、その重みは心の奥で澱のように沈んでいく。
「女神なんて、ならなければよかった」
そんな弱音を吐ける場所は、もうどこにもなかった。
あの日、玉座の前で告げられた「祝福」は、彼女の人生を終わらせた。そして始まったこの命を削るような選定の日々は、未だ終わる気配を見せない。
バルコニーから空を仰ぐ。星々は、誰の味方でもないように静かに瞬いていた。
そのとき。
背後で、小さな音がした。
アヴェリンははっとして振り返る。だが、誰もいない。風で扉がわずかに揺れただけのようだった。
(誰か、来てほしいと思っているのかもしれない)
そう思った自分が、少し情けなくなった。結局、自分は強くなんかない。誰かの言葉一つで迷い、揺れ、また涙する――ただの、娘だ。
それでも。
(選ばなければ、誰も救えない)
震える指で胸元を押さえる。鼓動は早く、痛いほどに脈打っていた。
「……レオポルド様。ケイラン様。ジュリアン様。マウロ様」
名を、静かに並べる。まるで祈るように。
(私は……この中の、誰かを――)
瞼を閉じた先に浮かぶのは、誰だっただろうか。
決められないまま、決めなければならないまま、夜は更けてゆく。
ただ一人の少女に、4人の王の命を委ねて――。
0
あなたにおすすめの小説
高飛車な侯爵令嬢と不器用な騎士団長
ヴァンドール
恋愛
高飛車な侯爵令嬢は、平民ながらも戦果を挙げ、陛下より爵位と領地を賜った、国の英雄である王宮騎士団長に、自分が好きならと課題を与える。そんな二人の物語。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました
蒼黒せい
恋愛
侯爵令嬢ミリアはその性格の悪さと家の権威散らし、散財から学園内では大層嫌われていた。しかし、突如不治の病にかかった彼女は5年という長い年月苦しみ続け、そして治療の甲斐もなく亡くなってしまう。しかし、直後に彼女は息を吹き返す。病を克服して。
だが、その中身は全くの別人であった。かつて『日本人』として生きていた女性は、異世界という新たな世界で二度目の生を謳歌する… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています
公爵家の養女
透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア
彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。
見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。
彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。
そんな彼女ももう時期、結婚をする。
数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。
美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。
国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。
リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。
そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。
愛に憎悪、帝国の闇
回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった――
※月曜にから毎週、月、水曜日の朝8:10、金曜日の夜22:00投稿です。
小説家になろう様でも掲載しております。
愛とオルゴール
夜宮
恋愛
ジェシカは怒っていた。
父親が、同腹の弟ではなく妾の子を跡継ぎにしようとしていることを知ったからだ。
それに、ジェシカの恋人に横恋慕する伯爵令嬢が現れて……。
絡み合った過去と現在。
ジェシカは無事、弟を跡継ぎの座につけ、愛する人との未来を手にすることができるのだろうか。
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
大迷惑です!勝手に巻き戻さないで!?
ハートリオ
恋愛
イブはメイド。
ある日主人であるブルーベル様の記憶が2つある事に気付き、時間が巻き戻されていると確信する。
しかも巻き戻り前は美しく優秀だったブルーベル様。
今はオジサン体型でぐうたらで。
もうすぐ16才になろうというのに婚約者が見つからない!
巻き戻された副作用か何か?
何にしろ大迷惑!
とは言え巻き戻り前は勉強に鍛錬に厳しい生活をしていた彼。
今回の方が幸せ?
そして自分の彼への気持ちは恋?
カップルは男性が年上が当たり前の世界で7才も年上の自分は恋愛対象外…
あれこれ悩む間もなくイブはメイドをクビになってしまい…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる