1日7.5時間の魔王!

まめだいふく

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「お断りします!!」

開口一番になんだ?!と思われるだろう。
実は今俺は、ハローワークの入り口前でヘッドハンティングをされている真っ最中なのだ。

しかも、職種 「魔王」。

「条件になにか不都合でも?就業時間8.5時間。うち、休憩1時間。美味しい食事つき!日給は平均3万円ですよ?いい話でしょ?ボーナスだってある。こんないい仕事、他にないでしょう?」

「いや条件の問題じゃなくて。」

「では、職場環境ですか?入社してすぐに管理職確約。でっかくてふかふかの椅子に豪華な部屋もついておりますよ?」

そうじゃなくて。
どう考えても闇バイト。

履歴書不要。経歴不問。入社時に身分証明の提出も必要ない…だなんて、しかも魔王って。

コードネーム魔王→運び屋。って、とこか?

「興味ないですごめんなさい。」

俺は目を合わせないように、その場を立ち去ろうとした。が、無理だった。

「まぁとにかく行ってみましょう。百聞は一見に如かず。と、いうではありませんか。」

俺を引きずってでも連れて行きたいらしい。
腕をがっちり掴んで引っ張る強い力に、精一杯抵抗した。

「待って待って!警察呼びますよ?!第一、なんで俺なんですか?何にも知らないでしょ俺の事。管理職だっていうならそれなりの人を…」

須王 将暉すおう まさき。24歳独身。前職コンビニ店員。度重なる箸入れ忘れのクレームによりクビ。4人家族の長男で妹は16歳高校生…あとは」
「いやいやいや…個人情報ーーーーーーーーーーーーーーーー!」


怖い。コイツ…ストーカー?

「魔王になるには、それなりの悪行の積み重ねが必要です。」

「あ、よかった。俺は善人だ。」

「罪1 妹の大事にしていたプリンを
食べる。」
「罪2 金曜のお弁当箱の存在を忘れて月曜日にカバンから出し、何食わぬ顔でシンクに置く。」

「え…罪…それ?え?」

「罪3 あ、これは酷い。悪の所業ですね。」

「な…なんだよ。」

「罪3 友人とシェアで買ったたこ焼きに断りもなく青のりとマヨネーズをかけた!!!」

「小さーーーーーーい!てか、罪?それ。ねえ。罪?」

「よって、魔王の素質あり!」

そんなんで魔王の素質があると言うのなら、世界中誰でも魔王になれるだろう。

「とにかく!お断りです。」
「側近がボインでも?」
「え?」
「側近がスタイル抜群のボイン。しかも何でも貴方の言うことを聞きますよ?」
「なんでも?」
「なんでも。」
「なんでもってなんでも?」
「なんでもってなんでもです。」

こんなに熱心な勧誘をお断りするのは失礼だろう!

こうして俺は、1日7.5時間(休憩を足せば8.5時間)だけ魔王になることを決めた。



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