麗しの暴君サマに愛され過ぎて困っています。

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番外編アツメターノ

空って飛べるの?~圭と魔法の絨毯~③

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 アレクが連れて来てくれたのは、森の中にある湖だった。湖面の色はエメラルドグリーン。アレクの瞳を彷彿とさせる。鬱蒼とした木々に囲まれ、とても静かな場所だった。

「ここは?」
「名などない。もしかしたらあるのかもしれないが、知られてなどいない場所だ」

 湖面の上で絨毯はフワフワと浮いている。絨毯の端まで這って行き、湖面に触れてみた。冷たくて気持ちが良い。

「……………母上と来た場所なんだ」
「お母さんと?」

 アレクが身内の話をするのは2度目だ。アレクは圭の傍まで来ると、湖面を見下ろした。
 揺蕩う水面は穏やかそのもの。しかし、アレクの胸中は如何いかばかりかと測りかねる。

「俺の目と髪は母上譲りでな。同じ色の湖があると従者から聞いて、母上が連れて来てくれた。あの頃は随分遠いと思っていたが、こうして来てみるとあっという間だな」

 アレクも湖面へと手を伸ばす。チャプリと音をさせて水面が揺れた。

「いつ頃……来たの?」
「5つの時だったか。もうあの頃には母上は随分と疲弊していてな。休み休み来たから、それなりに時間がかかったものだ。……よく考えれば、あの時くらいか。母上と一緒に遠出をできたのは」

 懐かしそうにフッと目を細める。家族の話をする時のアレクは本当にツラそうだ。見ている圭の方が胸に痛みを帯びてくる。
 ギュウと再び腕に抱き付いた。
 強く、強く。

「ケイ、どうした」
「なんか、いっぱい〝ありがとう〟って言いたくなった」
「なぜだ?」
「だって、そんな思い出の場所に連れてきてくれたから」

 きっと、ここはアレクにとって大切な場所だろう。誰にも汚すことなど許されない聖域。そこに連れて来てもらえたのだ。こんなに嬉しいことはない。
 しがみついていない方のアレクの腕が圭へと伸びてきた。顎を掬われる。近づく美しい顔。何をされるか分かり瞳を閉じた。
 温かい唇が重なる。チュッと触れ、すぐに離れて再びキス。挿入はいり込んでくるアレクの舌。積極的に絡めにゆく。
 キスをすると、その刺激は下半身にも及ぶ。緩く勃ち上がり始めた股間の息子。気を紛らわすように太もも同士を擦り合わせる。
 しばらく濃厚な口づけを堪能し、ようやく離れた頃にはボンヤリと頭が呆けたようになっていた。そんな圭を見ながらアレクが苦笑する。

 体を倒され、共に絨毯の上へと仰向けで寝転がる。4畳半程ある絨毯はアレクが寝そべってもはみ出す心配はない。
 穏やかな陽光が降り注いでいた。真っ青な空にプカプカ浮かぶ白い雲がのんびりとさせてくれる。

「お母さんと一緒に来た時は何したの?」
「何ということはないさ。まだ俺も幼かったからな。湖の周りではしゃぎ回ったりしていた。行くのは時間がかかったが、帰りのことも考えるとそんな長居はできなかったから、そこまでたくさん何かをしたという記憶はない。だが、穏やかでとても平和な時間だったことは覚えている。息の詰まるような後宮から抜け出して、ひと時ながらも平穏な時を過ごすことができた。……きっと、母上はあのような時間を過ごして生きていたかったのだろうな」

 アレクの方へと顔だけを向ける。浮かない顔をしていた。
 こんなに素敵な場所なのに。こんなに落ち込んだ顔をするのが見ていられなかった。

 自然と体が動いていた。アレクに覆い被さり、キスをする。アレクは圭からの突然のキスに少しばかり驚いた顔をするも、すぐにいつもの不敵な顔に戻る。

「どうした。ケイに襲われるなんて珍しい。いつも俺からばかりだからな。今日はこの後、槍でも降るのか?」
「うっさい」

 再び唇を重ねる。舌を絡ませ、情熱的な時を過ごす。アレクの顔の横についていた手に彼の指が絡んできた。恋人繋ぎになる。肘で体勢を支えながら指同士でも睦み合う。サワサワとアレクの指先が圭の手の甲を撫でる。少しくすぐったく感じて苦笑した。

 あまりにも濃厚なキスをしたせいか、体の奥がムズムズとしてくる。もはや条件反射のようになってしまった体が恥ずかしい。
 アレク以外誰もいないとはいえ、外だというのに。風の音と、わずかな虫の音。それ以外は静寂に包まれた自然の中。そんな場所で淫らに体を火照らせているなんて。
 それでも、一度たぎってしまった体は理性の言うことなんて聞かない。疼く後孔の奥。早くも突かれたくて堪らない。

 夢中になりすぎて互いの唾液でベトベトになった唇を離した。唇が少しヒリつく程キスをしていたというのに、全然物足りない。アレクの肌が恋しくて首筋に唇を寄せた。ハムハムと肌を唇でみながら胴の方へと顔を滑らせていく。モタモタとアレクの服のボタンを外していると、苦笑しながらアレクが自分からボタンを外してくれた。
 現れたしなやかな上半身。胸筋は弾力があり、滑らかで美しい。何度見ても惚れ惚れする。男なら一度は必ず憧れるだろう体躯だ。ボディビルダーのように筋肉ダルマではなく、細身ながらもつくべき筋肉はしっかりとついている。固く締まった筋肉は本当に羨ましい。アレクの長剣は1メートル近くある。その剣を悠々と振れる筋肉を持ち、着痩せして見えるために一見そこまで太くないように思えても、しっかりと胸から二の腕にかけても盛り上がっている。そして、板チョコのように割れた腹筋。もうこれは筋肉の鎧と言っても過言ではないだろう。
 アレクの肌と密着すると、彼の体臭を感じてうっとりする。温かい肌。ぴったりとくっついているのが心地良い。

 舌を出しながら頬をアレクの肌にピタリと付ける。そのまま胸筋へと向けて顔を動かしていく。
 しっかりと浮いた鎖骨を通り過ぎて、辿り着いた先は薄い茶色の尖り。アレクに弄られ過ぎた圭とは違い、突起はささやかだ。自分の胸の淫らに主張する乳頭との対比は歴然である。アレクはそれが良いと言うのだが。
 少し羨ましくなり、チロチロと先端を舐める。ピクリとアレクの体が反応する。嬉しくなって圭は口内へとアレクの乳首を含んだ。アレクにいつもされているようにチロチロと舌の先端で上下させる。少し硬くなった気がしてニンマリとんだ。

「こんな場所で乳首硬くしてるなんて、アレクのエッチ」
「ほう?」

 乳首から唇を離し、指先でもてあそびながら視線を上げる。アレクの形の良い眉がピクリと動き、半眼で圭の方を見下ろしていた。
 しまった、調子に乗りすぎたかと焦った時には後の祭り。絨毯が一気に上昇する。

「うわわわわわっ!」

 突然動き出したことに驚き、アレクの上半身にしがみついた。
 絨毯の動きが止まったのを察して恐る恐る目を開いた。先程まで湖面の30センチ上辺りで静止していた絨毯が、今は随分と上まで浮かんでいる。湖周辺の背の高い木々すらずっと下にあり、濃い緑色の絨毯が敷き詰められているようだった。

「ケイ、俺はこないだ心配になったことがあるんだが聞いてくれるか?」
「べ、別に良いけど、今ここで?」

 アレクがとても良い笑顔で圭を見ながらゆっくりと頷いた。この顔だけ見ていればとても麗しく、誰もが見惚れる美しい笑みだろう。
 しかし、圭は知っている。この状況下で、こういう顔をアレクがする時にはろくなことがないことを。伊達に何か月も一緒にいない。

 圭のことを愛しく、おもんぱかってくれる時に見せるとろけた表情ではないのだから。

「世の中には〝マンネリ〟というものがあるらしい。同じことの繰り返しばかりでは飽きてしまって、更なる刺激を求めて浮気をしてしまう……なんてことがあるらしい。なんとも嘆かわしいことだろう?」

 アレクが盛大に溜め息を吐き出した。眉間には深い皺が刻まれている。小さく左右に首を振り、残念がっていた。

 ゾクゾクと悪寒に襲われる。圭の額に冷や汗が浮き、ツゥと一筋流れ落ちた。心臓が早鐘を打ち始める。
 嫌な予感しかしない。これまでの数々の経験が物語っていた。

「いや~、それなら、俺たちにはまっっっっっっっっっったく関係ないことだな!! 俺とアレク、超ラブラブだしぃ? もう、満足オブ満足っていうかぁ?」

 手でハートマークを作った。ウルウルと目を輝かせる。「男を落とす10の方法」と題した動画を見ながら姉と一緒に試してみた時の再現だ。
 アレクはそんな圭を微笑ほほえましそうに見ていた。少し穏やかな雰囲気になったことでホッとする。

「だが、俺はいつでもケイを満足させていたいし、俺以外、眼中にも入れさせたくない。ケイは俺よりも若いから、好奇心も旺盛だろう? 俺はいつでも心配なんだ。ケイが俺よりも好きな男ができるんじゃないかってな。だから、俺はどんな時でもケイの一番であり続けられるよう、精進しなければならない」

 アレクの言っていることははたから聞けば惚気のようにしか聞こえないだろう。
 しかし、今の圭にとっては真逆だ。滔々とうとうと連ねられる甘言染みた言葉たち。その全てがこの後に降りかかってくる行動への恐ろしい前置きでしかない。

 じりじりとアレクから距離を取る。しかし、その分だけアレクも圭へと近づいてくる。圭の顔が強張っていく。目をまん丸に見開いたまま張り付けたように口角を上げた口元でアレクを見つめていた。

「うわっ!!」

 いつの間にか絨毯の端まで来てしまっていたらしい。後ろについていた手が絨毯からずり落ちる。体のバランスが崩れ、落下するかと危惧した瞬間、アレクが圭の腕を取った。盛大に安堵する。

「あ、ありがとう、アレク……」

 まだカタカタと体が小刻みに震えている。こんな高さから落ちれば生きてなんていられるはずもない。この世界に来る前に落下した屋上よりも何倍も高いのだ。
 アレクの胸に体を寄せた。まだ心臓はドキドキと跳ねていた。ギュッと抱き締めてくれたアレクの逞しい腕にホッとしながら頬を胸筋へと摺り寄せた。

「だからな? ケイ」
「ふえ?」

 落下の恐怖ですっかり忘れていたが、そう言えばアレクとの話はまだ終わっていなかった。
 それよりも、こんな目に遭った原因はそもそもアレクであったと思い出す。

「俺はいつでもケイに新たな刺激と体験をさせて、マンネリなんてものとは無縁の生活を送っていきたい」

 決意表明のように語るアレクは良い笑顔だ。一方、圭の方は顔面蒼白でブンブンと大きく首を横に振っている。
 対照的な2人の温度差。しかし、置かれている状況で圭に優位となる要素など何一つなかった。
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