隠れΩの俺ですが、執着αに絆されそうです

空飛ぶひよこ

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運命を求めた男(雄大視点)

運命を求めた男2

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『雄大君って……いつも、勉強ばかりしているよね』

『かわいそうだから遊びにさそってやっても、そんなヒマないって断るしよ。なんだ、あいつ』

『親が金持ちだからって、スカしてるよな。放っとけ、あんなガリ勉もやし』

 高校になれば、バース診断次第で家を追い出されることが決まっていた当時の俺は、必死だった。
 空いている時間は、前倒しで学校の勉強を進めながら、宮本の姓を失っても生きることができる術を、ただただ模索し続けていた。
 平凡な公立小学校の周囲の生徒達には、そんな俺の姿は異様な物として写ったらしい。
 当然のように、俺は孤立した。

 小学校5年生の時ようやく、俺はコンピュータを使って起業することを思いついた。
 父親は、まだαか分からない俺の為に投資することを嫌がったが、幸い宮本は電子機器メーカー。倉庫を漁れば、いくらでもコンピュータ関連の機器は手に入った。
 父に土下座をして、ネット環境だけは整えてもらい、コンピュータのプログラミングを勉強した。
 
 試行錯誤の末、アプリ販売を始めたのは、中学一年生の頃。その頃になると、俺は急激に身長が伸び、特別鍛えてもいないのに体は勝手に筋肉質になっていった。
 顕著になって行く俺のα性の特徴に、周囲の目が変わってきたのは、この辺りからだ。

 そして、中学二年の夏。--俺はα性と診断された。

『そうか。αか。--ならば、宮本の姓を名乗ることを許してやろう。その代わり、そのコンピュータ技術を宮本の為に生かし、尽くすように。早速明日から、プロジェクトの一つに関わってもらう』

 αと診断されたことで父から認められても、ちっとも嬉しくなかった。
 むしろ、βと判断されて、宮本から追い出された方がよほど楽だったのに、と落胆した。

『宮本君、αだったんだね! 道理でβの俺達とは違うと思ったよ』

『あの………私、Ωなんだけど……私の香り、どうかな? 宮本君は良い匂いだと思う?』

 俺がαだと判明した途端、媚びを売ってくる周囲の人間が、気持ち悪かった。
 英才教育されていることが多いαの生徒は、平凡な公立中学校にはほとんどいない。同じ学年の中では、俺だけがαだった。
 だからって……手のひら返しにもほどがある。

 αなんて、診断されても何もいいことはなかった。
 深く深く染み込んだ俺の孤独は、いくらちやほやされようが、薄まることはなかったし、大嫌いな「宮本」には、今まで以上に縛られるようになった。
 ただでさえ、俺を嫌っていた継母は、そろそろ殺し屋でも雇うんじゃないかってくらい怒り狂ってるし。周囲の生徒達は、俺の意思とか関係なしに、俺の隣を巡って勝手に争い出した。

 ……ただ、唯一、希望があるとしたら。

『俺がαなら………俺の運命のΩが、どこかに存在するってことだよね』

 運命のΩなら……俺の、この孤独を癒してくれるのだろうか。
 俺を愛して、ずっと、傍にいてくれるのだろうか。
 空っぽな俺に……愛を教えてくれるだろうか。

 苦しいばかりの人生の中で、ただそれだけが、俺の唯一の希望の光だった。
 いつか出会える、『運命の番』と結ばれることだけが、俺の心の支えだった……のに。



 それなのに、君も。俺を、置いて行くのか。
 母さんのように、俺を捨てて行くのか。


「--ここは……」

 運命のΩの香りは、想像していた以上に強いものだった。
 ショックで呆然としながらも、俺は残り香を追って、その豪奢な門まで辿り着いた。

「『全寮制椿山学園』」

 看板に書かれた文字を口に出して読み、乾いた唇を舐める。
 ……椿山学園は、知っている。金持ちの生徒ばかりが通う、中高一貫の全寮制男子校。
 「宮本の息子なら、椿山に行けば良いのに」と、俺を疎む生徒から、よく陰口を叩かれていた。

 この学園に--俺の運命のΩはいる。

「……分かってるよ。きっと君は、戸惑ってただけなんだよね……」

 冷たい金属の門を手のひらで擦りながら、聞こえるはずがない俺の「運命」に向かって囁きかける。

「路上で見知らぬ男に『運命』を感じて……性的興奮を覚えたんだから、戸惑って当然だ。それだけで、恋に落ちろという方がおかしい」

 門の取っ手口の所に、そっと頬を当てた。
 もしかしたら、彼が少し前にここに手を触れたのかも知れない。そう思うだけで、胸が高鳴った。

「だから来年……俺は、君に会いに行くよ」

 今は、ただ戸惑ってるだけかもしれない。
 だけど、俺達は運命の番だから。
 きっと……もう一度会って俺のことを知れば、君だって俺を好きになるはずだ。
 
 俺を愛して、くれるはずだ。

「--待ってて。俺の運命」

 

 そして俺は、翌年。
 必要なお金は全て自分で負担することを条件に、父を説得し、椿山学園に入学した。
 
 


 

 

 
 
 

 
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