18 / 59
運命を求めた男(雄大視点)
運命を求めた男2
しおりを挟む『雄大君って……いつも、勉強ばかりしているよね』
『かわいそうだから遊びにさそってやっても、そんなヒマないって断るしよ。なんだ、あいつ』
『親が金持ちだからって、スカしてるよな。放っとけ、あんなガリ勉もやし』
高校になれば、バース診断次第で家を追い出されることが決まっていた当時の俺は、必死だった。
空いている時間は、前倒しで学校の勉強を進めながら、宮本の姓を失っても生きることができる術を、ただただ模索し続けていた。
平凡な公立小学校の周囲の生徒達には、そんな俺の姿は異様な物として写ったらしい。
当然のように、俺は孤立した。
小学校5年生の時ようやく、俺はコンピュータを使って起業することを思いついた。
父親は、まだαか分からない俺の為に投資することを嫌がったが、幸い宮本は電子機器メーカー。倉庫を漁れば、いくらでもコンピュータ関連の機器は手に入った。
父に土下座をして、ネット環境だけは整えてもらい、コンピュータのプログラミングを勉強した。
試行錯誤の末、アプリ販売を始めたのは、中学一年生の頃。その頃になると、俺は急激に身長が伸び、特別鍛えてもいないのに体は勝手に筋肉質になっていった。
顕著になって行く俺のα性の特徴に、周囲の目が変わってきたのは、この辺りからだ。
そして、中学二年の夏。--俺はα性と診断された。
『そうか。αか。--ならば、宮本の姓を名乗ることを許してやろう。その代わり、そのコンピュータ技術を宮本の為に生かし、尽くすように。早速明日から、プロジェクトの一つに関わってもらう』
αと診断されたことで父から認められても、ちっとも嬉しくなかった。
むしろ、βと判断されて、宮本から追い出された方がよほど楽だったのに、と落胆した。
『宮本君、αだったんだね! 道理でβの俺達とは違うと思ったよ』
『あの………私、Ωなんだけど……私の香り、どうかな? 宮本君は良い匂いだと思う?』
俺がαだと判明した途端、媚びを売ってくる周囲の人間が、気持ち悪かった。
英才教育されていることが多いαの生徒は、平凡な公立中学校にはほとんどいない。同じ学年の中では、俺だけがαだった。
だからって……手のひら返しにもほどがある。
αなんて、診断されても何もいいことはなかった。
深く深く染み込んだ俺の孤独は、いくらちやほやされようが、薄まることはなかったし、大嫌いな「宮本」には、今まで以上に縛られるようになった。
ただでさえ、俺を嫌っていた継母は、そろそろ殺し屋でも雇うんじゃないかってくらい怒り狂ってるし。周囲の生徒達は、俺の意思とか関係なしに、俺の隣を巡って勝手に争い出した。
……ただ、唯一、希望があるとしたら。
『俺がαなら………俺の運命のΩが、どこかに存在するってことだよね』
運命のΩなら……俺の、この孤独を癒してくれるのだろうか。
俺を愛して、ずっと、傍にいてくれるのだろうか。
空っぽな俺に……愛を教えてくれるだろうか。
苦しいばかりの人生の中で、ただそれだけが、俺の唯一の希望の光だった。
いつか出会える、『運命の番』と結ばれることだけが、俺の心の支えだった……のに。
それなのに、君も。俺を、置いて行くのか。
母さんのように、俺を捨てて行くのか。
「--ここは……」
運命のΩの香りは、想像していた以上に強いものだった。
ショックで呆然としながらも、俺は残り香を追って、その豪奢な門まで辿り着いた。
「『全寮制椿山学園』」
看板に書かれた文字を口に出して読み、乾いた唇を舐める。
……椿山学園は、知っている。金持ちの生徒ばかりが通う、中高一貫の全寮制男子校。
「宮本の息子なら、椿山に行けば良いのに」と、俺を疎む生徒から、よく陰口を叩かれていた。
この学園に--俺の運命のΩはいる。
「……分かってるよ。きっと君は、戸惑ってただけなんだよね……」
冷たい金属の門を手のひらで擦りながら、聞こえるはずがない俺の「運命」に向かって囁きかける。
「路上で見知らぬ男に『運命』を感じて……性的興奮を覚えたんだから、戸惑って当然だ。それだけで、恋に落ちろという方がおかしい」
門の取っ手口の所に、そっと頬を当てた。
もしかしたら、彼が少し前にここに手を触れたのかも知れない。そう思うだけで、胸が高鳴った。
「だから来年……俺は、君に会いに行くよ」
今は、ただ戸惑ってるだけかもしれない。
だけど、俺達は運命の番だから。
きっと……もう一度会って俺のことを知れば、君だって俺を好きになるはずだ。
俺を愛して、くれるはずだ。
「--待ってて。俺の運命」
そして俺は、翌年。
必要なお金は全て自分で負担することを条件に、父を説得し、椿山学園に入学した。
72
あなたにおすすめの小説
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした
水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」
公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。
婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。
しかし、それは新たな人生の始まりだった。
前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。
そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。
共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。
だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。
彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。
一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。
これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。
痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。