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運命を求めた男(雄大視点)
運命を求めた男5
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しかし、こんな優しくて、あったかいカケは、不思議なことに俺以外に特別親しくしている人間がいない。
自己紹介の時点で分かったように、クラスのΩっぽい生徒から人気があるし、別に話しかければ誰に対しても普通に対応しているのだけど、俺がいない時は大抵一人でいる。
カケなら、いくらでも友達になりたい奴いそうなのに……しかもカケは中等部からの持ち上がり組なのに、一体何で?
『……昔は翔は、あんな風じゃなかったんだよ』
そんな俺の疑問に、聞いてもないのにわざわざカケがいない隙を見計らって勝手に答えてくれたのが、……佐藤だっけ? 斎藤だっけ?……まあ、さ何とか君だった。
恐らくαだと思われる、クラスメイトの一人だ。
『俺は翔とは幼稚園からの付き合いなんだけど……中学二年までは、あいつは普通にダチがたくさんいたんだ。ほら、あいつは一見分かりづらいけど、実は面倒見が良くていい奴だろ? 三つ下の弟もいるからか、兄貴肌なんだよな。弟の方は、今は椿山以外の中学行ってるみたいだけど』
………何だか、さり気なくマウンティングされてる気がしたのは、気のせいだろうか。こう、「俺はお前より翔をよく知ってるぜ」的な。
いや……流石に穿ち過ぎかな。俺、カケのことに関しては、ついつい過剰反応しちゃうからなー……と、その時は思った。
今は、絶対あれはマウンティングだったと確信している。
『………それで?』
『ああ、話が逸れたな。悪い。悪い。……だけど、中学二年の秋に、Ωから逆レイプ未遂に遭って、翔は変わっちまったんだ』
……逆レイプ未遂?
物騒な単語に、思わず眉を顰めた。
『ずっと翔のことが好きだった、友達未満くらいの仲なクラスメイトがいて。Ωと診断されて、舞い上がっちまったんだろうな。……ヒート中を狙って、セントラルディスタービングが効きづらい外に翔を呼び出して、そのまま乗っかって来たんだと』
『………どうなったの、それ?』
『どうもこうも……ヒョロい奴だったから、翔は簡単に押し退けられたし、たまたま近くにいた生徒も集まって来たから、既成事実を作る計画はそのままおじゃん。翔は大事にはしたくないって、以降近づかないことを条件に不問にしたけど、そいつは失恋のショックと噂が広まって居づらくなったのとで、結局外国留学って建前で自分から学園を出て行ったとさ。めでたしめでたし……て感じ』
……良かった。逆レイプ未遂に遭ったって言うから心配したけど、大したことはなかったっぽい。
ひとまずほっと安堵の息を吐いたが、さ何とか君の顔は険しかった。
『だから、それでおしまいでいいだろうに。……翔は、それ以降、周囲から距離を置くようになったんだ』
『え? 何で?』
……そのΩの生徒から距離置くのは分かるけど、他の人は関係ないよね?
『知らねぇけど……多分自分のせいで、そいつが学園を出たことに責任感じてるんじゃねぇの? 俺が、そいつを責め立ててた時も、何か庇ってたし。………馬鹿な奴。加害者に同情するとか、どんだけお人好しなんだよ。そんなことを気にして、ダチを切るとかマジ意味分かんねえし』
吐き捨てるように告げられた、さ何とか君の言葉は、何かすごく違和感があった。
確かにカケは優しいけど………そこまで博愛主義者というわけでもない気がするなあ。というか、カケ、多分その辺り優先順位つけれるタイプだよね。割り切るよね。普通に。
え、幼稚園からカケと一緒なのに、君、そんなことも分からないの?
思わず口から出そうになる煽りの言葉を寸でで耐えながら、俺はもう一つの疑問を口にすることにした。
『でも翔君、俺が近づいても、特別拒絶とかしなかったよ? 普通に、俺のこと受け入れてくれてるし』
俺の疑問を、さ何とか君は鼻で笑った。
『それは、宮本が鈍くて空気読めないからだろ』
『……え?』
『翔は馬鹿なお人良しだから、直接拒絶の言葉は口にしないけど、態度見てれば普通分かんだろ。あまり近づいて来て欲しくないんだろうな、って。皆、空気読んで翔の気持ち尊重して、距離置いてんの。宮本ぐらいのもんだぜ、あんなにズカズカ翔に踏み込めんの。αらしくない、羨ましい性格してるよなー。お前』
--あ、こいつ、嫌い。
その瞬間、今までどうでも良かったさ何とか君を、敵として認識した。
自己紹介の時点で分かったように、クラスのΩっぽい生徒から人気があるし、別に話しかければ誰に対しても普通に対応しているのだけど、俺がいない時は大抵一人でいる。
カケなら、いくらでも友達になりたい奴いそうなのに……しかもカケは中等部からの持ち上がり組なのに、一体何で?
『……昔は翔は、あんな風じゃなかったんだよ』
そんな俺の疑問に、聞いてもないのにわざわざカケがいない隙を見計らって勝手に答えてくれたのが、……佐藤だっけ? 斎藤だっけ?……まあ、さ何とか君だった。
恐らくαだと思われる、クラスメイトの一人だ。
『俺は翔とは幼稚園からの付き合いなんだけど……中学二年までは、あいつは普通にダチがたくさんいたんだ。ほら、あいつは一見分かりづらいけど、実は面倒見が良くていい奴だろ? 三つ下の弟もいるからか、兄貴肌なんだよな。弟の方は、今は椿山以外の中学行ってるみたいだけど』
………何だか、さり気なくマウンティングされてる気がしたのは、気のせいだろうか。こう、「俺はお前より翔をよく知ってるぜ」的な。
いや……流石に穿ち過ぎかな。俺、カケのことに関しては、ついつい過剰反応しちゃうからなー……と、その時は思った。
今は、絶対あれはマウンティングだったと確信している。
『………それで?』
『ああ、話が逸れたな。悪い。悪い。……だけど、中学二年の秋に、Ωから逆レイプ未遂に遭って、翔は変わっちまったんだ』
……逆レイプ未遂?
物騒な単語に、思わず眉を顰めた。
『ずっと翔のことが好きだった、友達未満くらいの仲なクラスメイトがいて。Ωと診断されて、舞い上がっちまったんだろうな。……ヒート中を狙って、セントラルディスタービングが効きづらい外に翔を呼び出して、そのまま乗っかって来たんだと』
『………どうなったの、それ?』
『どうもこうも……ヒョロい奴だったから、翔は簡単に押し退けられたし、たまたま近くにいた生徒も集まって来たから、既成事実を作る計画はそのままおじゃん。翔は大事にはしたくないって、以降近づかないことを条件に不問にしたけど、そいつは失恋のショックと噂が広まって居づらくなったのとで、結局外国留学って建前で自分から学園を出て行ったとさ。めでたしめでたし……て感じ』
……良かった。逆レイプ未遂に遭ったって言うから心配したけど、大したことはなかったっぽい。
ひとまずほっと安堵の息を吐いたが、さ何とか君の顔は険しかった。
『だから、それでおしまいでいいだろうに。……翔は、それ以降、周囲から距離を置くようになったんだ』
『え? 何で?』
……そのΩの生徒から距離置くのは分かるけど、他の人は関係ないよね?
『知らねぇけど……多分自分のせいで、そいつが学園を出たことに責任感じてるんじゃねぇの? 俺が、そいつを責め立ててた時も、何か庇ってたし。………馬鹿な奴。加害者に同情するとか、どんだけお人好しなんだよ。そんなことを気にして、ダチを切るとかマジ意味分かんねえし』
吐き捨てるように告げられた、さ何とか君の言葉は、何かすごく違和感があった。
確かにカケは優しいけど………そこまで博愛主義者というわけでもない気がするなあ。というか、カケ、多分その辺り優先順位つけれるタイプだよね。割り切るよね。普通に。
え、幼稚園からカケと一緒なのに、君、そんなことも分からないの?
思わず口から出そうになる煽りの言葉を寸でで耐えながら、俺はもう一つの疑問を口にすることにした。
『でも翔君、俺が近づいても、特別拒絶とかしなかったよ? 普通に、俺のこと受け入れてくれてるし』
俺の疑問を、さ何とか君は鼻で笑った。
『それは、宮本が鈍くて空気読めないからだろ』
『……え?』
『翔は馬鹿なお人良しだから、直接拒絶の言葉は口にしないけど、態度見てれば普通分かんだろ。あまり近づいて来て欲しくないんだろうな、って。皆、空気読んで翔の気持ち尊重して、距離置いてんの。宮本ぐらいのもんだぜ、あんなにズカズカ翔に踏み込めんの。αらしくない、羨ましい性格してるよなー。お前』
--あ、こいつ、嫌い。
その瞬間、今までどうでも良かったさ何とか君を、敵として認識した。
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