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運命を求めた男(雄大視点)
運命を求めた男6
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そして恐らく、敵だと思っているのは、さ何とか君も同じらしい。
『……まあ、せいぜいその空気の読めなさ発揮して、翔を一人にしないでやってくれよ。自分で望んだことだとしても、あいつを一人のままでいさせんのは俺も心配なんだよ。幼なじみとしてさ』
激励するように俺の肩を叩き、明るく笑って去って行った、さ何とか君。
……本人は誤魔化したつもりかも知れないが、その目には確かに、カケの隣にいる俺への「嫉妬」の色が滲んでいた。
『……ばっかじゃないのかな。あいつ』
去って行く背中を見送りながら、一人呟く。
カケが優しいから、空気読まずにズカズカ踏み込んでいけば受け入れてくれるって分かってる癖に、なんでそうしないのか、理解に苦しむな。本当はカケに未練たらたらな癖に。……まあ、何でなんて、分かりきってるけど。
世間一般的なαというのは無駄にエリート意識が強くて、プライドが高い。俺の父親が、その典型だ。
嫌がられてるのが分かっていて、空気読まないで近づいていくなんてみっともない真似をすることは、自尊心が許さないのだろう。
自尊心なんて高くなりようがない環境で育った俺からすれば、ばっかじゃないの?って感じ。
欲しい物を手に入れる為なら、俺はプライド何かいくらでも捨てるけどな。大切な物を諦めてまで、守りたい面子ってどんだけって思うし。
「……雄大。また、パン食う口止まってっけど、どうした? 何か嫌いな物でも入ってたか?」
「ううんー。何でもないよ。カケ。ちょっと昨日あったこと思い出してただけー」
……まあ、そのお陰で、俺がカケを独り占めできてるから、むしろありがたいけどね。
さ何とか君が、空気読める子で良かったわー。
その日は、午後からも何だか夢見ごちでずっとふわふわしていた。
カケとの距離が、ぐっと縮まったのが嬉しくて仕方なかった。
放課後も、浮き足だったまま、寮の自室へと戻った。
そして、部屋に入った途端ふわりと広がった甘い甘い香りと、途端に硬く昂ぶった性器に、眉を顰めた。
「……あー。やっぱり今日も、どっかでニアミスしていたか」
セントラルディスタービングシステムを切ってある自室に戻ると、いつも制服から漂う移り香で、この学園のどこかに俺の運命のΩがいることを、改めて実感させられる。
残り香が容易に辿れるくらいに運命の番の香りは強いから、どこで匂いをもらってるのか推測するのは難しいけど、こうも毎日匂いが残ってると、恐らく一日一回はニアミスしているくらいの近い距離にいるんじゃないかなあとは思ってる。
入学したばかりの頃は、それでも名乗り出てくれない運命のΩに苛立ちながら、必死に残り香を嗅いで自慰に耽ったりもしてたけど……。
「………今日はセントラルディスタービングシステム入れとこっと」
指紋認証でシステムをオンにすると、残り香は瞬く間に消え去り、性器もすぐに萎えた。
そのことに満足しながら、ベッドに身を投げ出し、ごろごろ転がって身悶えた。
「……カケが俺のこと、『雄大』って呼び捨てで、呼んでくれたぁ……」
ゆるゆるで締まらない笑みが、自然に浮かんできた。
名前なんて、今まではただの個体判別記号でしかなかったのに、カケの口から紡がれた途端、すごく特別なものに思えるから不思議だ。
「今日は、本当良い日だったなぁ……。カケって渾名で呼ぶの許してくれたし。……あ、そういえば、『友達みたい』って言っても、カケ否定しなかったっけ。昼ごはん一緒に食べる許可くれて、パンも半分交換してくれたし……これ、もうカケも、俺のこと友達だと思ってるってことで間違いないよね? 俺達両思いだよね? --やったぁ……さ何とか君。ざまあみろ」
ふつふつと胸に湧き上がり続ける喜びを、この温かさを、本能的な肉欲なんかに邪魔されたくなかった。
「俺………カケが傍にいてくれたら、運命のΩなんて要らないかも」
『……まあ、せいぜいその空気の読めなさ発揮して、翔を一人にしないでやってくれよ。自分で望んだことだとしても、あいつを一人のままでいさせんのは俺も心配なんだよ。幼なじみとしてさ』
激励するように俺の肩を叩き、明るく笑って去って行った、さ何とか君。
……本人は誤魔化したつもりかも知れないが、その目には確かに、カケの隣にいる俺への「嫉妬」の色が滲んでいた。
『……ばっかじゃないのかな。あいつ』
去って行く背中を見送りながら、一人呟く。
カケが優しいから、空気読まずにズカズカ踏み込んでいけば受け入れてくれるって分かってる癖に、なんでそうしないのか、理解に苦しむな。本当はカケに未練たらたらな癖に。……まあ、何でなんて、分かりきってるけど。
世間一般的なαというのは無駄にエリート意識が強くて、プライドが高い。俺の父親が、その典型だ。
嫌がられてるのが分かっていて、空気読まないで近づいていくなんてみっともない真似をすることは、自尊心が許さないのだろう。
自尊心なんて高くなりようがない環境で育った俺からすれば、ばっかじゃないの?って感じ。
欲しい物を手に入れる為なら、俺はプライド何かいくらでも捨てるけどな。大切な物を諦めてまで、守りたい面子ってどんだけって思うし。
「……雄大。また、パン食う口止まってっけど、どうした? 何か嫌いな物でも入ってたか?」
「ううんー。何でもないよ。カケ。ちょっと昨日あったこと思い出してただけー」
……まあ、そのお陰で、俺がカケを独り占めできてるから、むしろありがたいけどね。
さ何とか君が、空気読める子で良かったわー。
その日は、午後からも何だか夢見ごちでずっとふわふわしていた。
カケとの距離が、ぐっと縮まったのが嬉しくて仕方なかった。
放課後も、浮き足だったまま、寮の自室へと戻った。
そして、部屋に入った途端ふわりと広がった甘い甘い香りと、途端に硬く昂ぶった性器に、眉を顰めた。
「……あー。やっぱり今日も、どっかでニアミスしていたか」
セントラルディスタービングシステムを切ってある自室に戻ると、いつも制服から漂う移り香で、この学園のどこかに俺の運命のΩがいることを、改めて実感させられる。
残り香が容易に辿れるくらいに運命の番の香りは強いから、どこで匂いをもらってるのか推測するのは難しいけど、こうも毎日匂いが残ってると、恐らく一日一回はニアミスしているくらいの近い距離にいるんじゃないかなあとは思ってる。
入学したばかりの頃は、それでも名乗り出てくれない運命のΩに苛立ちながら、必死に残り香を嗅いで自慰に耽ったりもしてたけど……。
「………今日はセントラルディスタービングシステム入れとこっと」
指紋認証でシステムをオンにすると、残り香は瞬く間に消え去り、性器もすぐに萎えた。
そのことに満足しながら、ベッドに身を投げ出し、ごろごろ転がって身悶えた。
「……カケが俺のこと、『雄大』って呼び捨てで、呼んでくれたぁ……」
ゆるゆるで締まらない笑みが、自然に浮かんできた。
名前なんて、今まではただの個体判別記号でしかなかったのに、カケの口から紡がれた途端、すごく特別なものに思えるから不思議だ。
「今日は、本当良い日だったなぁ……。カケって渾名で呼ぶの許してくれたし。……あ、そういえば、『友達みたい』って言っても、カケ否定しなかったっけ。昼ごはん一緒に食べる許可くれて、パンも半分交換してくれたし……これ、もうカケも、俺のこと友達だと思ってるってことで間違いないよね? 俺達両思いだよね? --やったぁ……さ何とか君。ざまあみろ」
ふつふつと胸に湧き上がり続ける喜びを、この温かさを、本能的な肉欲なんかに邪魔されたくなかった。
「俺………カケが傍にいてくれたら、運命のΩなんて要らないかも」
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