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運命を求めた男(雄大視点)
運命を求めた男26
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「……水、飲む? カケ」
「……うん」
ヒートから解放された俺達に訪れたのは、本能から解放された後の、重苦しく気まずい空気だった。
「……他に何かいる? 取ってくるよ。俺」
少しでも、カケの好感度を回復させたくて、俺は甲斐甲斐しくカケの世話を買って出た。……我に返ったカケと向き合うことを、先延ばしにしたかったというのもある。
「……そこの、棚の中に……」
「うん」
「緊急用アフターピルが入ってるから……持って来てくれ」
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
どう見てもαにしか見えないカケが……そんなものを、わざわざ常備しているということは。
「………………うん」
少しの沈黙の後、水のペットボトルとピルを持って来て、カケに渡した。
「ありがとう……」
「…………」
ペットボトルの水でピルを流し込むカケを、絶望的な気持ちで眺めていた。
「後……悪いけど、体がべたべたで気持ち悪いから、濡れタオル持って来てくれないか」
「……うん」
洗面器にお湯を溜めて、タオルと共に運んだ。
「……俺が拭くよ。カケ」
「ああ……ありがとう」
どろどろに汚れたカケの体を、水気を絞った温かいタオルで拭く。
乾いた精液でかぴかぴに引きつる肌を綺麗にしているうちに、気がつけば目から大粒の涙が流れていた。
「雄大……? お前、何で……」
「……カケ、言いたくないなら、言わなくても良いんだけど……」
……同じ加害者である俺が、泣く権利なんかない。だけど……。
「カケ……昔、さっきのアフターピル使うような目にあったりしたの? そのせいで、男が駄目になってたんなら……俺……俺……」
………もしそうならば、俺は何て酷い行為をカケに強いたんだろう。
どれだけ、カケを傷つけたんだろう。
罪悪感でしゃくりあげて泣く俺に、カケは苦笑を漏らしながら、寝たまま手を伸ばして、慰めるように頭を撫でてくれた。
「……違うよ。馬鹿。あれは、万が一の為に親父が持たせてくれた奴。俺は、正真正銘、お前が初めてだよ」
「じゃあ……何で」
「俺のは、ただの発達性バース適応障害。脳にΩ因子が届かず、自分をΩと認められなかっただけ。……お前に抱かれて、大分治ったけどな」
カケの言葉は、さして俺の罪悪感を軽減させはしなかった。
「………じゃあ、カケは、自分がΩと受け入れられないまま、俺に抱かれてくれたの?」
「……ああ。つまらない理由で、お前を傷つけて、本当に悪いことを……」
「--つまらない理由なんかじゃないよ!」
寝ているカケの腹に、泣きながら縋りついて謝罪する。
「ごめん……ごめんね。カケ。……つらかったでしょう。自分の性を認められないで苦しんでいたのに、俺が執拗に運命のΩを探したせいで、カケをますます苦しませていたんだね。……それなのに、俺はヒート中のカケの元に押しかけて、こんな目に遭わせて……」
「……話を聞いてたか、雄大。俺の障害は、お前に抱かれれば治る程度のものなんだぞ。今はまだ完治はしてないけど、回数を増やせば、そのうちいつか普通のΩに戻れる。それが分かってて、俺はお前から逃げ続けたんだ。恨まれはしても、謝られる覚えはない。……謝るなら、迷惑をかけた管理人さんにしとけ」
「……寮の管理人さんには、後で適当な理由つけて謝罪しとくよ。……それはそれとして。何で、カケが自分が嫌な選択肢を選ばなかったことで、俺が恨む権利があるの? カケのことも、運命のΩのことも、俺が勝手に好きになって、執着しただけだよ。カケが気持ちに応えられなくても、仕方ないことでしょ……」
「……うん」
ヒートから解放された俺達に訪れたのは、本能から解放された後の、重苦しく気まずい空気だった。
「……他に何かいる? 取ってくるよ。俺」
少しでも、カケの好感度を回復させたくて、俺は甲斐甲斐しくカケの世話を買って出た。……我に返ったカケと向き合うことを、先延ばしにしたかったというのもある。
「……そこの、棚の中に……」
「うん」
「緊急用アフターピルが入ってるから……持って来てくれ」
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
どう見てもαにしか見えないカケが……そんなものを、わざわざ常備しているということは。
「………………うん」
少しの沈黙の後、水のペットボトルとピルを持って来て、カケに渡した。
「ありがとう……」
「…………」
ペットボトルの水でピルを流し込むカケを、絶望的な気持ちで眺めていた。
「後……悪いけど、体がべたべたで気持ち悪いから、濡れタオル持って来てくれないか」
「……うん」
洗面器にお湯を溜めて、タオルと共に運んだ。
「……俺が拭くよ。カケ」
「ああ……ありがとう」
どろどろに汚れたカケの体を、水気を絞った温かいタオルで拭く。
乾いた精液でかぴかぴに引きつる肌を綺麗にしているうちに、気がつけば目から大粒の涙が流れていた。
「雄大……? お前、何で……」
「……カケ、言いたくないなら、言わなくても良いんだけど……」
……同じ加害者である俺が、泣く権利なんかない。だけど……。
「カケ……昔、さっきのアフターピル使うような目にあったりしたの? そのせいで、男が駄目になってたんなら……俺……俺……」
………もしそうならば、俺は何て酷い行為をカケに強いたんだろう。
どれだけ、カケを傷つけたんだろう。
罪悪感でしゃくりあげて泣く俺に、カケは苦笑を漏らしながら、寝たまま手を伸ばして、慰めるように頭を撫でてくれた。
「……違うよ。馬鹿。あれは、万が一の為に親父が持たせてくれた奴。俺は、正真正銘、お前が初めてだよ」
「じゃあ……何で」
「俺のは、ただの発達性バース適応障害。脳にΩ因子が届かず、自分をΩと認められなかっただけ。……お前に抱かれて、大分治ったけどな」
カケの言葉は、さして俺の罪悪感を軽減させはしなかった。
「………じゃあ、カケは、自分がΩと受け入れられないまま、俺に抱かれてくれたの?」
「……ああ。つまらない理由で、お前を傷つけて、本当に悪いことを……」
「--つまらない理由なんかじゃないよ!」
寝ているカケの腹に、泣きながら縋りついて謝罪する。
「ごめん……ごめんね。カケ。……つらかったでしょう。自分の性を認められないで苦しんでいたのに、俺が執拗に運命のΩを探したせいで、カケをますます苦しませていたんだね。……それなのに、俺はヒート中のカケの元に押しかけて、こんな目に遭わせて……」
「……話を聞いてたか、雄大。俺の障害は、お前に抱かれれば治る程度のものなんだぞ。今はまだ完治はしてないけど、回数を増やせば、そのうちいつか普通のΩに戻れる。それが分かってて、俺はお前から逃げ続けたんだ。恨まれはしても、謝られる覚えはない。……謝るなら、迷惑をかけた管理人さんにしとけ」
「……寮の管理人さんには、後で適当な理由つけて謝罪しとくよ。……それはそれとして。何で、カケが自分が嫌な選択肢を選ばなかったことで、俺が恨む権利があるの? カケのことも、運命のΩのことも、俺が勝手に好きになって、執着しただけだよ。カケが気持ちに応えられなくても、仕方ないことでしょ……」
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