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運命を求めた男(雄大視点)
運命を求めた男27
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俺の想いに応えてくれないカケを、恨んだこともあった。
だけど今は、そんな自分勝手な過去の自分を、ひたすら殴りたい。
俺は……カケが相手なら話は別だけど……好きでも何でもない相手から、抱きたいと思われたら吐き気がする。絶対ご免だと思うくらいには、俺はちゃんとαだ。
カケも、俺と同じような性自認だったとしたら。……脳と体が一致しない状況で、αである俺に並々ならない好意を向けられたカケは、一体どれ程苦しかったか。つらかったか。
「……だけど俺は……すごくすごく、お前を傷つけた」
「俺が勝手に傷つく度、カケだって、同じくらい傷ついてたでしょ? だったら、一緒だよ……」
自分が苦しんでいたことよりも、自分のせいで好きな人を苦しめていたことの方が、こんなにも辛いのだと思い知る。
今までのカケの気持ちを思うと、罪悪感で胸が張り裂けそうだ。
「ごめんね。カケ……それでも俺は、カケのこと離してあげられない」
友達で良いから傍にいて--そう言ったあの時のように、両手でカケの手を握り、祈るように、縋るように、額に当てた。
「運命の番でなくても、カケなら良かった。……でも、カケが運命の番だったら、俺、もう他にこれ以上好きになれる相手、見つけられる自信ないよ。………カケの全てが好きで好きで仕方ないのに、遺伝子レベルで恋しちゃってるんだって知っちゃったら、もうどうしようもない。他なんて、探せないんだ。……ごめんね。カケ、ごめん。……好きになって、ごめん」
ごめん。
ごめん。
俺と出会わなければ……カケがこんなに苦しむことはなかったのに。
俺がカケを好きにさえならなければ……カケはΩとしての自分を、無理やり押しつけられなくても済んだのに。
……何で、俺はカケを傷つけ、苦しめることしかできないんだろう。
カケが望む幸せを、どうやってもあげられないんだろう。
「運命」なのに。
カケにとっても、世界に一人だけしかいない、特別な存在であるはずなのに。
--俺の存在は、カケの人生を狂わせる。
「……雄大………こっち来い」
「え………」
「頼むから、そんな風に泣くな。……泣くなら、俺の胸の中にしろ」
いつの間にか上体を起こしていたカケが、両手を開いて俺を呼ぶ。
その目は。声は。……信じられない程優しくて、温かかった。
カケ………俺を、許してくれるの?
こんなにもカケを傷つけて、苦しめている俺のことを?
少しの躊躇の後、震える手をカケの背中に回して、顔を胸元に押し付けるようにして抱き着く。
「……あーあ、胸に鼻水ついた。あとで、またこの辺拭けよ」
「いくらでもふくよ……ごべん……ごべんね、ガゲ………」
「……鼻水でもう、何言ってんのか聞き取れないくらいだけど、多分謝ってんだよな。頼むから、もう謝るな。雄大。お前が謝ったら、同じだけ、謝る必要が出てくる」
「……でも………ごべん…………」
好きだ。
好きだ。
やっぱり……どうしようもないほど、カケが好き。
ごめん。……どうやっても、俺はカケを諦められない。
傍にいたいと、望まずにはいられない。
「なあ、雄大。謝るくらいなら………今の俺のことを……そして少し前までの俺のことを、忘れないでいてくれ」
引き抜いたティッシュを俺の鼻に押し当てて、カケは言った。
「『Ω性を受け入れられずに苦しむ俺』がいたことを……たとえ、俺が忘れてしまっても、お前だけは覚えててくれ」
カケを傷つけ、苦しめる代償としては--あまりに容易すぎる願いだった。
「--忘れ、ないよ」
涙でぐちゃぐちゃの顔のまま、俺は首を横に振る。
「俺は、カケの全てが好きだから………過去のカケも、今のカケも、未来のカケも、全部引っくるめて好きだから、俺は、忘れないよ。……例えカケが忘れても、絶対に俺だけは覚えているから」
忘れない。……忘れられるはずが、ない。
カケと過ごした日々の、一瞬一瞬が宝物で。
全部全部、大切に俺の胸に閉まってある。
忘れろと言われても、けして俺はこの記憶を手放すことはないだろう。
過去のカケも、今のカケも、未来のカケも--カケの全てが、俺はただただ愛おしくて仕方ないのだから。
「……ねえ、カケ。……お願いだから、傍にいて。俺のこと、愛せないなら、それでもいいから。都合の良い、ヒート処理の道具だと思ってもいいから。……どうか、俺から離れないで。俺、カケの為なら、何でもするから。カケのこと、絶対幸せにするから。……だから、お願い……」
そんな代償で、カケの傍にいられるとは思えなくて、必死に言葉を重ねて、懇願する。
俺がカケに与えられるものなんて……それくらいしかないけど。
「馬ー鹿」
そんな俺の言葉を、カケはあっさり一蹴した。
「愛の形は違ってたかもしれないけど……お前のことなんか、とっくに愛してるに決まってるだろ。馬鹿雄大」
--そうやって優しく微笑むカケに、俺は何度目か分からない恋に落ちた。
だけど今は、そんな自分勝手な過去の自分を、ひたすら殴りたい。
俺は……カケが相手なら話は別だけど……好きでも何でもない相手から、抱きたいと思われたら吐き気がする。絶対ご免だと思うくらいには、俺はちゃんとαだ。
カケも、俺と同じような性自認だったとしたら。……脳と体が一致しない状況で、αである俺に並々ならない好意を向けられたカケは、一体どれ程苦しかったか。つらかったか。
「……だけど俺は……すごくすごく、お前を傷つけた」
「俺が勝手に傷つく度、カケだって、同じくらい傷ついてたでしょ? だったら、一緒だよ……」
自分が苦しんでいたことよりも、自分のせいで好きな人を苦しめていたことの方が、こんなにも辛いのだと思い知る。
今までのカケの気持ちを思うと、罪悪感で胸が張り裂けそうだ。
「ごめんね。カケ……それでも俺は、カケのこと離してあげられない」
友達で良いから傍にいて--そう言ったあの時のように、両手でカケの手を握り、祈るように、縋るように、額に当てた。
「運命の番でなくても、カケなら良かった。……でも、カケが運命の番だったら、俺、もう他にこれ以上好きになれる相手、見つけられる自信ないよ。………カケの全てが好きで好きで仕方ないのに、遺伝子レベルで恋しちゃってるんだって知っちゃったら、もうどうしようもない。他なんて、探せないんだ。……ごめんね。カケ、ごめん。……好きになって、ごめん」
ごめん。
ごめん。
俺と出会わなければ……カケがこんなに苦しむことはなかったのに。
俺がカケを好きにさえならなければ……カケはΩとしての自分を、無理やり押しつけられなくても済んだのに。
……何で、俺はカケを傷つけ、苦しめることしかできないんだろう。
カケが望む幸せを、どうやってもあげられないんだろう。
「運命」なのに。
カケにとっても、世界に一人だけしかいない、特別な存在であるはずなのに。
--俺の存在は、カケの人生を狂わせる。
「……雄大………こっち来い」
「え………」
「頼むから、そんな風に泣くな。……泣くなら、俺の胸の中にしろ」
いつの間にか上体を起こしていたカケが、両手を開いて俺を呼ぶ。
その目は。声は。……信じられない程優しくて、温かかった。
カケ………俺を、許してくれるの?
こんなにもカケを傷つけて、苦しめている俺のことを?
少しの躊躇の後、震える手をカケの背中に回して、顔を胸元に押し付けるようにして抱き着く。
「……あーあ、胸に鼻水ついた。あとで、またこの辺拭けよ」
「いくらでもふくよ……ごべん……ごべんね、ガゲ………」
「……鼻水でもう、何言ってんのか聞き取れないくらいだけど、多分謝ってんだよな。頼むから、もう謝るな。雄大。お前が謝ったら、同じだけ、謝る必要が出てくる」
「……でも………ごべん…………」
好きだ。
好きだ。
やっぱり……どうしようもないほど、カケが好き。
ごめん。……どうやっても、俺はカケを諦められない。
傍にいたいと、望まずにはいられない。
「なあ、雄大。謝るくらいなら………今の俺のことを……そして少し前までの俺のことを、忘れないでいてくれ」
引き抜いたティッシュを俺の鼻に押し当てて、カケは言った。
「『Ω性を受け入れられずに苦しむ俺』がいたことを……たとえ、俺が忘れてしまっても、お前だけは覚えててくれ」
カケを傷つけ、苦しめる代償としては--あまりに容易すぎる願いだった。
「--忘れ、ないよ」
涙でぐちゃぐちゃの顔のまま、俺は首を横に振る。
「俺は、カケの全てが好きだから………過去のカケも、今のカケも、未来のカケも、全部引っくるめて好きだから、俺は、忘れないよ。……例えカケが忘れても、絶対に俺だけは覚えているから」
忘れない。……忘れられるはずが、ない。
カケと過ごした日々の、一瞬一瞬が宝物で。
全部全部、大切に俺の胸に閉まってある。
忘れろと言われても、けして俺はこの記憶を手放すことはないだろう。
過去のカケも、今のカケも、未来のカケも--カケの全てが、俺はただただ愛おしくて仕方ないのだから。
「……ねえ、カケ。……お願いだから、傍にいて。俺のこと、愛せないなら、それでもいいから。都合の良い、ヒート処理の道具だと思ってもいいから。……どうか、俺から離れないで。俺、カケの為なら、何でもするから。カケのこと、絶対幸せにするから。……だから、お願い……」
そんな代償で、カケの傍にいられるとは思えなくて、必死に言葉を重ねて、懇願する。
俺がカケに与えられるものなんて……それくらいしかないけど。
「馬ー鹿」
そんな俺の言葉を、カケはあっさり一蹴した。
「愛の形は違ってたかもしれないけど……お前のことなんか、とっくに愛してるに決まってるだろ。馬鹿雄大」
--そうやって優しく微笑むカケに、俺は何度目か分からない恋に落ちた。
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