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初恋は気づかぬまま散った(10年後。さ何とか君視点)
初恋は気づかぬまま散った11
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馬鹿か、俺は。
あの言い方じゃ、まるでホテルに誘うみたいじゃねぇか……!
Ωというだけで、翔が枕で仕事取っているとかふざけたこと言われてるの聞いたばっかりだってのに、もっとその辺り考えて発言しろよ……っ! 俺!
周りの営業は、完全に勘違いしていた。……もし翔までそう思ってたら、どうしよう。
密かに下心を抱いているから、変な言い方したんだって思われてたら、普通に死ねる。さっき翔の姿に見惚れちまった分、完全に否定できないところが、よけいに死ねる。
一人青ざめ狼狽える俺に、翔は小さく噴き出した。
「心配しないでも、んなこと分かってるよ。俺相手に、変な気ぃ遣うなよ」
くつくつと笑いながら、肩を抱くように背中を押され、その距離の近さに、どきりとする。
昔は、当たり前だった、その距離。
それなのに、自然と顔が熱くなり、口の中が乾いた。
……院内が、セントラルディスタービングシステムが効いていて、良かった。もしここで、翔のΩの匂いを嗅いでいたら、どうにかなっていたかもしれない。
「ほら、会議室行くんだろ? 案内してくれよ。猛。予約の場所はお前しか知らないんだから」
「……ああ」
慌てて足を動かし、牽制の意味で室内の営業の奴らを一睨みしてから、待合室を出る。
「……てか、院内の配置はだいたい把握してるから、会議室名聞いた方が手っとり早いな。どこの部屋予約してんだ?」
「嫌だ。教えない。……俺が、案内する」
「何でだよ。効率悪いだろ」
「何ででも。……いいから、黙って俺に着いて来いよ」
会議室名を教えたら、翔はさっさと先に行くだろう。
こうやって、昔みたいに並んで歩くのは久しぶりなのに、それじゃああっという間に、会議室に到着してしまう。
今はまだ、少しでも長く、こうやって連れだって歩いていたかった。
「相変わらず、変な所で意固地だなあ」
中学時代と変わらない笑みを浮かべながら、翔は俺の少し後ろを歩く。
せっかちな俺が先に歩いて、その後ろを翔が苦笑しながら着いてくる。その少し後ろから清二郎が翔に話しかけ、翔が後ろばかり気にかけるのが気にくわなくて前の俺が足を止めて、気がつけば翔を挟むように三人で横並びになっている。ーーそれが、中学時代の俺達の廊下の歩き方だった。
「……どうした? 猛」
「……いや」
一瞬、昔に戻ったような錯覚に陥って足を止めてしまったが、すぐに首を横に振って再び歩き始めた。
あの頃とは、もう違う。10年以上の歳月が、俺にも翔にも、確かに流れている。
ーー翔の左手の薬指で輝く指輪が、何よりそれを証明していた。
あの言い方じゃ、まるでホテルに誘うみたいじゃねぇか……!
Ωというだけで、翔が枕で仕事取っているとかふざけたこと言われてるの聞いたばっかりだってのに、もっとその辺り考えて発言しろよ……っ! 俺!
周りの営業は、完全に勘違いしていた。……もし翔までそう思ってたら、どうしよう。
密かに下心を抱いているから、変な言い方したんだって思われてたら、普通に死ねる。さっき翔の姿に見惚れちまった分、完全に否定できないところが、よけいに死ねる。
一人青ざめ狼狽える俺に、翔は小さく噴き出した。
「心配しないでも、んなこと分かってるよ。俺相手に、変な気ぃ遣うなよ」
くつくつと笑いながら、肩を抱くように背中を押され、その距離の近さに、どきりとする。
昔は、当たり前だった、その距離。
それなのに、自然と顔が熱くなり、口の中が乾いた。
……院内が、セントラルディスタービングシステムが効いていて、良かった。もしここで、翔のΩの匂いを嗅いでいたら、どうにかなっていたかもしれない。
「ほら、会議室行くんだろ? 案内してくれよ。猛。予約の場所はお前しか知らないんだから」
「……ああ」
慌てて足を動かし、牽制の意味で室内の営業の奴らを一睨みしてから、待合室を出る。
「……てか、院内の配置はだいたい把握してるから、会議室名聞いた方が手っとり早いな。どこの部屋予約してんだ?」
「嫌だ。教えない。……俺が、案内する」
「何でだよ。効率悪いだろ」
「何ででも。……いいから、黙って俺に着いて来いよ」
会議室名を教えたら、翔はさっさと先に行くだろう。
こうやって、昔みたいに並んで歩くのは久しぶりなのに、それじゃああっという間に、会議室に到着してしまう。
今はまだ、少しでも長く、こうやって連れだって歩いていたかった。
「相変わらず、変な所で意固地だなあ」
中学時代と変わらない笑みを浮かべながら、翔は俺の少し後ろを歩く。
せっかちな俺が先に歩いて、その後ろを翔が苦笑しながら着いてくる。その少し後ろから清二郎が翔に話しかけ、翔が後ろばかり気にかけるのが気にくわなくて前の俺が足を止めて、気がつけば翔を挟むように三人で横並びになっている。ーーそれが、中学時代の俺達の廊下の歩き方だった。
「……どうした? 猛」
「……いや」
一瞬、昔に戻ったような錯覚に陥って足を止めてしまったが、すぐに首を横に振って再び歩き始めた。
あの頃とは、もう違う。10年以上の歳月が、俺にも翔にも、確かに流れている。
ーー翔の左手の薬指で輝く指輪が、何よりそれを証明していた。
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