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聖女の日々48

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 そんなこと……許されるのだろうか。
 信じてないのに、信じてるふりをすることは、相手に対してひどく不誠実な行為ではないだろうか。

 戸惑う私に、マナエさんは例の不器用な笑みを浮かべて微笑んだ。

「聖女様。私が、渡りをつけて差し上げます。……ミーシャ王女にお会いなさい」

「え……」

「あの方なら、きっと貴女に『信じるふり』をすることの大切さを教えて下さるはずです」

「……ミーシャ王女、が?」

 王との密約の日以来、顔を合わせていない白金の髪の少女を脳裏に浮かぶ。
 彼女のことは、聖女として活動するようになってからも、ずっと気に掛かっていた。
 だから、会えるというならば、「信じるふり」云々を置いても、また会いたいとは思う。

 ……だけど。

『そう言った訳ではない。……ミーシャはお前以上に、聖女に深入りさせるわけには行かぬのだ』

『あれは民が聖女の不在を憂う気持ちを軽減させる為に、前代聖女を模倣して育てた。清く、正しく、ただひたすら心優しく……人の悪意から遠ざけ、歪なまでに純粋で素直であるように、教育した。その結果、あれは【災厄の魔女】から目をつけられ、病に臥したのだ』

『生まれて初めての悪意に晒され、激しい苦痛と絶望の末に死にかけたミーシャの精神は、非情に危うい状態にある。全てを知れば、聖女を憎み、余を憎み、民を呪う可能性も無きにしもあらず。故に、あれは治癒に専念させるという名目で、聖女から引き離すべきなのだ』

「……きっと王が、私とミーシャ王女が接触することを許してくれませんよ」

ーー【災厄の魔女の呪い】が消滅した今、私の存在は、ミーシャ王女をただ傷つけるだけだから。

 そう続けると、マナエさんはどこか呆れたような表情で深々とため息を吐いた。

「……王はご慧眼をお持ちだと思っていましたが、相手が自分の娘となると、その視界も曇るようですね」

「…………」

「私は、【災厄の魔女の呪い】に侵されたミーシャ王女を、ずっと看て来たから分かります。……あの方は、お強い方ですよ。ライオネル王が思っているよりも、ずっと」


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