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連載2

決戦の時29

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 掌を返したように「私」を責めたてた彼を恨まなかったと言えば嘘になる。
 でもそれ以上にただ悲しくて……どうしようもないくらいオーネさんが痛々しかった。
 降ってわいたような天災で、たった一人の家族を亡くした彼は、自らの身に降りかかった不幸の理由づけをしようと必死だった。そうじゃなければ、悲しみに押しつぶされてしまっていただろう。
 「私」をーーううん、アシュリナを憎むことこそが、当時の彼が生きる唯一の理由であり、変な言い方をすれば希望だった。
 ディアナである私はそれを間違っているとは思うけど、彼を責めたてる気にはなれない。
 家族に恵まれなかったアシュリナと違って、私は大切な家族を失う怖さを理解できるから。

「……あなた、は……」

「……兄様。シャルル様」

 突然の私の呼びかけにシャルル王子はきょとんとしていたが、兄様は視線だけで理解したらしい。

「……あと一日馬車を走らせれば王都に着く。長期保管できないものなら構わない。シャルルも、いいだろう?」

「え? え?」

「……馬車に積んでる食糧の話だよ」

「あ、このご老人に食糧を分け与えるという話ですか! 私としては、お二人に異論がないなら別に構いません」

「……ありがとう」

 困惑している老人を置いて、一人馬車に戻るとそれほど日持ちしない食糧を予備の鞄に詰める。
 日持ちしないと言っても、非常食。最初からすぐ悪くなる生鮮品なんて積んでない。月単位の保管がきかないというだけで、あと一週間くらいなら問題なく食べれるものばかりだ。
 これだけあれば一週間くらいは食いつなぐことができるだろう。
 食べ物を詰め終わると、母様からもらったペンを手に取り、二枚の護符を書き上げる。

「……お待たせしました」

「あ……その……」

「これは当面の食糧と……貴方だけに効果を発揮するように指定した、獣除けの護符と盗賊除けの護符です。盗賊除けの護符はどこか別の村に到着するまで……獣除けの護符はマーナアルハの森を抜けるまで、効果が維持されるようにしました」 

 私の言葉にオーネさんは目を見開いた。

「弱った老人の足でも、これだけあればマーナアルハの森を抜けられるはず。獣に襲われさえしなければ、森の中は水も食糧も豊富で、補充は難しくありません。オーネさん。貴方が生きたいと望むのならーーこれを使って、ルシトリアに亡命してください」




 
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