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連載2
決戦の時32
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シャルル王子の問いかけに、兄様は振り返ることなく黙り込んだ。
ややあって、私やシャルル王子に背を向けて、表情が見えないまま口を開く。
「……別に構わない」
「え?」
「ディアナの言うとおり、セーヌヴェットの民はすでに自らの愚かさの罰を受けている。俺自身は好んで救おうとは思わないが、ディアナが余力で救おうとするのならそれはそれで構わない。見捨てた場合のディアナの心理的負担の方が心配だからな」
そう言うと兄様は腰につけていた【黎明】を鞘ごと外して、手綱を操ったまま片腕に抱き込んだ。
「しょせん、ルイス王とユーリアの流言に踊らされただけの連中だ。そんな不特定多数の相手を、全て恨んでいたら俺自身の精神が持たない。あくまで真の敵は【災厄の魔女】ユーリアであり、ルイス王だ」
だが。
そう言って兄様は一度言葉を止めた。
【黎明】を一層強く抱き込んだ兄様の肩は震えていた。
「たとえ私怨だと言われようが、【エイドリー・ノットン】ーーアルバート父さんとアシュリナを殺したそいつだけは、俺は絶対に許さない」
「兄様……」
「エイドリーはーー必ず俺がこの手で殺す」
私はアシュリナの地獄は記憶として知っているけど、幼い兄様が味わった地獄は母様の話でしか知らない。
だから、今兄様がどんな気持ちで【黎明】を抱えているかは、想像することしかできない。
けれど、【黎明】を抱いて宙を睨みつける兄様の姿が、同じ馬車に一緒に乗っているのにまるで一人ぼっちでいるように見えたから。
私は黙って後ろから、兄様の体を抱きしめたのだった。
「ーー偽聖女を、生け捕りに?」
「はい。ルイス陛下からのご命令です。『偽聖女には利用価値がある。必ず生きて捕らえるように』と」
「……仰せのままにと、陛下に伝えてくれ」
去って行く使者の背中を、射殺すばかりに睨みつける。
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。
偽聖女を生かす、だと?
「聖女はこの世でただ一人、ユーリア様以外あり得ない! 偽聖女など、即刻葬り去るべきだ!」
湧き上がる苛立ちのままに、手に持っていたガラス製のグラスを握り潰す。
割れたグラスが手の皮膚を裂き、あふれた血が中に入っていた酒と共にしたたったが、そんなことはどうでもよかった。
ルイス陛下の為に生きてきた。
ルイス陛下の命令はいつだって絶対で、その命令を遂行する為にありとあらゆるものを切り捨ててきた。
それでも、今回ばかりは従えない。
「偽聖女はーー必ず俺がこの手で殺す」
ややあって、私やシャルル王子に背を向けて、表情が見えないまま口を開く。
「……別に構わない」
「え?」
「ディアナの言うとおり、セーヌヴェットの民はすでに自らの愚かさの罰を受けている。俺自身は好んで救おうとは思わないが、ディアナが余力で救おうとするのならそれはそれで構わない。見捨てた場合のディアナの心理的負担の方が心配だからな」
そう言うと兄様は腰につけていた【黎明】を鞘ごと外して、手綱を操ったまま片腕に抱き込んだ。
「しょせん、ルイス王とユーリアの流言に踊らされただけの連中だ。そんな不特定多数の相手を、全て恨んでいたら俺自身の精神が持たない。あくまで真の敵は【災厄の魔女】ユーリアであり、ルイス王だ」
だが。
そう言って兄様は一度言葉を止めた。
【黎明】を一層強く抱き込んだ兄様の肩は震えていた。
「たとえ私怨だと言われようが、【エイドリー・ノットン】ーーアルバート父さんとアシュリナを殺したそいつだけは、俺は絶対に許さない」
「兄様……」
「エイドリーはーー必ず俺がこの手で殺す」
私はアシュリナの地獄は記憶として知っているけど、幼い兄様が味わった地獄は母様の話でしか知らない。
だから、今兄様がどんな気持ちで【黎明】を抱えているかは、想像することしかできない。
けれど、【黎明】を抱いて宙を睨みつける兄様の姿が、同じ馬車に一緒に乗っているのにまるで一人ぼっちでいるように見えたから。
私は黙って後ろから、兄様の体を抱きしめたのだった。
「ーー偽聖女を、生け捕りに?」
「はい。ルイス陛下からのご命令です。『偽聖女には利用価値がある。必ず生きて捕らえるように』と」
「……仰せのままにと、陛下に伝えてくれ」
去って行く使者の背中を、射殺すばかりに睨みつける。
ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな。
偽聖女を生かす、だと?
「聖女はこの世でただ一人、ユーリア様以外あり得ない! 偽聖女など、即刻葬り去るべきだ!」
湧き上がる苛立ちのままに、手に持っていたガラス製のグラスを握り潰す。
割れたグラスが手の皮膚を裂き、あふれた血が中に入っていた酒と共にしたたったが、そんなことはどうでもよかった。
ルイス陛下の為に生きてきた。
ルイス陛下の命令はいつだって絶対で、その命令を遂行する為にありとあらゆるものを切り捨ててきた。
それでも、今回ばかりは従えない。
「偽聖女はーー必ず俺がこの手で殺す」
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