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連載2

対決2

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 それぞれ言い訳を口にする時間もないままに、いきなりはじまった剣戟に唖然とする。
 
 離宮はもう目の前だ。ここでエイドリーと戦って、私達が庭にいることに気づかれたら、ユーリアから逃げられてしまう。
 あの女だけは、何としてでも今回の訪問で封じなければいけないのに。

 ……何とかして、二人を止めないと。

「け、剣をおろしてください! エイドリー様
、兄様! きっと私達には何か誤解があるのです。まずは話し合いましょう!」

 咄嗟にそう叫んだけれど、剣を打ち合う二人の動きは止まらない。

「話し合う必要はない。偽聖女。お前が何を口にしようが、俺がお前を殺す未来は変わらないのだから」

 首を狙って繰り出された兄様の【黎明】を、自らの大太刀で叩き落としながら、エイドリーが淡々と言葉を返した。

「お前の精神が邪悪だとは思わない。だが、いかにお前が善良であっても、関係ない。お前は偽聖女として生まれてきた時点で、この世にあってはならない存在なのだから」

「っ……偽聖、女は……ユーリアの方……だろうがああああ!」

 高く跳躍した兄様が、エイドリーの脳天に【黎明】を叩き込もうとした。
 けれど、エイドリーの一振りで兄様の体は紙くずのように吹き飛ばされ、そのまま音を立てて地面に叩きつけられる。

「兄様!」

「……お前も、この世にあってはならない存在だな。アルバート・キートラントの息子」

 痛みに呻きながら立ち上がる兄様に大太刀を突きつけながら、エイドリーは吐き捨てるかのように言い放った。

「主を守るどころか、逃がすこともできない役立たずの弱い護衛騎士など、この世に存在すべきじゃない。確かにお前は、お前の父親にそっくりだよ。虫唾が走るほどにな」

「っ俺の父親を愚弄するなあああ!!!」

 再び跳躍して繰り出された兄様の攻撃は、簡単にエイドリーに封じられてしまった。

 兄様は、父様を認めた剣の達人だ。
 それなのに、エイドリー相手だと、まるで剣を習いたての子どもみたいになってしまっている。
 腕力はエイドリーの方が強くても、剣を繰り出す速さは兄様の方が速い。実力だけなら、そう変わらないはずなのに。
 
 エイドリーと兄様じゃ、実践経験が違い過ぎる。
 兄様は怒りに突き動かされている一方で、エイドリーはどこまでも冷静だ。その違いが、兄様の状況を不利にしている。

 このままじゃ、兄様の剣はエイドリーにはけして届かない。

「兄様が死んじゃう……!」


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