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連載2

幸せの条件5

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 経験はなくても、アシュリナは政略結婚に備えて閨の知識は学ばされていたし、ディアナとしても母様からちゃんと性教育を受けている。兄様が思うほど、無知じゃない。

「全部わかっているけど、それでも兄様ならいいの。前にも言ったでしょう。私は兄様からなら、何をされてもいいって」

「…………」

 兄様は頬を染めて黙り込んだ後、視線を逸らしたまま再び私は向き直った。

「…………お前は、全然わかっていない」 

「何をわかってないっていうの?」

「異性として俺に向き合うことの危険性を、だ」

「危険性?」

「ああ……俺は、お前が思っている以上に心が狭い男だぞ。一度そういう関係になれば、もう二度とお前を離せない」

「離せなくていいよ。私、兄様と離れたくないから」

「そ、それに俺は一度タカが外れたら、きっと暴走するぞ! きっとお前は俺に幻滅するはずだ」

「幻滅なんかするはずないよ。情けなかろうが、格好悪かろうが、どんな兄様だって私は大好きなんだから」

「そ、そ、それに、えと、俺は地位も財産も持っては……」

「ーーねえ、兄様。そんなに私とそういう関係になりたくないの?」

 ああいえばこう言う兄様に、何だかちょっと腹が立ってきた。……結構勇気をふりしぼったのに、その返事がこれなんてあんまりだ。

「っそんなわけあるか! お前は一体俺が何年我慢して……」

「じゃあ、なんでさっきから無理な理由ばかり探してるの? やっぱり私を妹としてしか見れないなら、早くそう言って。下手に誤魔化される方が辛いから」  

「…………」

 兄様はしばらくあちこちに視線をさまよわせて黙り込んだ後、苦々しげな表情で俯いた。

「……ディアナ。お前は知らないだろうが、俺は今まで恋愛経験が皆無というわけじゃない」

「………え?」
 
「短い期間ではあるが、お前の知らないところで、告白された町の女の子と恋人関係になったことはあった」

 頭をガンと、殴られたような衝撃だった。

 ……そんな素振り、ちっとも見せなかったのにいつの間に?

 どうして今まで、私に教えてくれなかったの。

 血の繋がった兄妹だと思っていた時なら祝福できたのに、何で今さらそんなことを言うの。

 言いたいことは山ほどあるのに、唇が震えて言葉にならなくて。
 目からは自然と涙がにじんできた。

 私より、兄様の近い所にいた女の人が存在していたことが、ただただショックだった。

「ディアナ。俺は……お前を諦めたかった」
 
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