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ルクレア・ボレアという女

逆ハーエンドは無理そうです2

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「安心しい。ルクレア様。あん時はたまたまうちが通りかかってな。あまりにルカ・ポアネスが可哀想だから、中古の制服融通してやったんや」

 すっかり存在を忘れていたキエラちゃんが、口を挟む。

 ……ああ、よかった! ルカよ。君はパンイチ帰宅は免れたんだね!

「……まあ、当然それなりに、色つけさせてはもらいましたけど」

 ぼそりと告げられた言葉は、敢えて聞こえないふりをする。

 大丈夫。キエラチャンハ優シイ。
 ボッタクッテハ、イナイハズ。

「……ちなみに、アルク・ティムシーには一体どのようなご対応を……」

 取りあえず、哀れなルカのことはこれ以上考えないようにして(よくよく考えれば、そもそもの彼の不幸の原因は私のせいなのだ。罪悪感に苛まれないよう、さっさと頭の隅に追いやるに限る)、私は一人だけ以上に好感度が高くなっていた、アルクに対して尋ねる。
 彼の名前を出す私の心中は、その実、酷く複雑だったりする。

 アルク・ティムシー。
 マッチョな鍛錬ラブな朴念仁。彼は、前世の私のオシメンであった。外見も中身も、一番好みのタイプであった。
 ゲーム中で、恋に慣れない彼が、エンジェの行動に一喜一憂する様に、一体どれだけ萌え滾ったことか。
 エンディングで、普段のドヘタレを返上して男らしく愛を囁く彼に、「あぁ、目が合うだけでダッシュで逃走かました彼が大人になったんだね……成長したねぇ……」といかにしんみりと涙を流したことか。
 アルクは、私にとって一番好きな攻略対象であり、私の嫁であり、成長を見守る息子であった。他のキャラを攻略しようとしている際に、チラリと垣間見るアルクの姿に、胸がぎゅっと罪悪感で締め付けられるくらいには、私はアルクが好きだった。

 けして、その感情は恋ではない。

 所詮二次元だと思っていた相手だ。いくら対等の次元に立とうが、すんなりと恋なぞ出来ない。昔読んだ悪役転生物の小説のように、ヒロインポジ奪取してアルクを私の恋人にするぞ! ……なんて、決意は出来ない。
 元々、私は恋愛全般不得手だ。ヒロインポジ奪取どころか、積極的に彼に近づいたり、話掛けたりすることすら出来なかった。せいぜい遠くから見ていることくらいが関の山だ。
 だから、現時点で、私とアルクの関係は、互いに顔を知っているだけの他人と言ってよい。

 私がアルクに向ける感情はけして恋ではない……だが、確かに私は彼に、憧れていた。
 積極的に関係を構築しようとはしなかったが、もし悪役転生特典かなんかで、攻略キャラの一人とくっつくような補正が貰えるなら、アルクがいいなぁ、とそんなことを心の片隅で思っていたりした。
 アルクがゲーム上でエンジェに向けていた感情が、自分に向けられたら、きっと嬉しいだろうと、そう思っていた。

 しかし、そんな彼が。よりにもよってアルク・ティムシーが、攻略キャラの中でただ一人、エンジェ改めデイビッドに並々ならぬ好感を抱いているらしい。……複雑な気持ちにならない筈がない。


「――あぁ。あのマッチョな」

 デイビッドは、何故か不愉快そうに眉間に皺を寄せて頷いた。

 ちなみにアルクは、私によって転ばされたエンジェを、助けることからイベントが始まる。
 一度起き上がったはいいが、しつこいシルフィの悪戯によって(とてもノリノリでやってくれました……うちの精霊たち、可愛いけれど結構性格悪いよね。愛してるけど)再び転びそうになったエンジェを、アルクが抱きしめるようにして支えるところから、選択肢がでるのだが……

「こけそうになった俺に後ろから抱きつこうとしやがったから、肘鉄食らわしてやったんだ」

 …っまたか!? 悪魔様、あんた、どんだけ後ろに密着されんの嫌なんだよ! 暴力的過ぎるわっ!

「……そしたら、鳩尾抱えながら一人悶えだしやがってよ……『なんて、的確に容赦なく人体の急所を攻撃する人なんだ……イイ』とか、きめぇこと言い出しやがってよ…」

 …………え?

「『貴女こそ、俺が求めていた理想の女王様だ……っ! もっと、もっと俺を痛めつけてくださいっ!』とか迫ってきやがったから、お望み通り脳天に踵落とし食らわして逃げてやった……なんなんだ、あの変態野郎。思い出しただけで鳥肌立ってくんだが」

 心底嫌そうに吐き捨てるデイビッドの言葉に、私の中のアルクの像が、がらがらと音をたてて瞬く間に崩れ去って風化していくのを感じた。

 知りたくなかった。聞きたくなかった。

 初恋じみた憧れを抱いていた相手が、実はドエムの変態だったなんて真実、気付きたくなかったよぉぉっ!!!!
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