乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

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ルカ・ポアネスという不良

ルカ・ポアネスという不良2

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「有言実行とか、ホント男前。超絶イケメン。とってもかっくいい。よ。痺れるね! ヒューヒュー!」

「……」

「っいはひ、いはひ!」

 せっかくだから、もっとおだててやろうと思って発した誉め言葉の返答は、無言のほっぺひっぱりの刑だった。
 デイビッドのこめかみにはうっすら青筋が浮いている。

 ちゃんと褒めた筈なのに、何故!?

「……はぁ……いや、お前にまともな反応を期待した俺がそもそも馬鹿だったな」

 私の柔肌ほっぺをさんざん蹂躙したデイビッドは、そう溜息を吐いて手を離す。

 私の好意を踏みにじる、暴力行為に加えて、この暴言……!
 何という、酷い男だ……デイビッド。やっぱりお前は悪魔だ!

 唇をとがらせて、この理不尽としか表現が出来ない行為に対して正当な抗議を発しようとした私の声は、だがしかし、後ろから聞こえて来た大声にかき消された。

「――やっとみつけたぜ……っ! 糞アマ!」

 そして全身に殺気を纏って、ギラギラと目に獰猛な光を宿してどこからか出現した、狼耳のワイルド美形…こと、ルカ・ポアネス。

 ルカは私の存在など目もくれず、デイビッドに向かって、跳躍しながら叫んだ。

「糞アマ! ……勝負だっ!」

 そして前述のごときバトルが始まったわけだが。

 ……わけだが。


 …おかしいな。状況整理の為の回想のはずなのに、思い返してもさっぱり状況分からんぞ。
 展開が唐突過ぎる。

 一体なんなんだ。この状況。

「……てめぇ、前回俺に勝ったと思って調子に乗ってんじゃねぇぞ、ごらぁ! ……不意討ちがたまたま決まったぐらいでよぉ!」

「……無意識のうちに繰り出した蹴りごときで、調子に乗れるわけないだろう。あんな大したことが無い一撃くらいで……あぁ、悪い。お前にとっては大したことがあったな。なんせ、あれしきの攻撃で、気絶してみっともなくひっくり返ってたものな。……悪い、悪い。謙遜は時に、弱者を傷つけるということまで、頭が回らなかった」

「っ……てめぇ! 女と思って俺が手加減してやれば……殺す殺す殺すぶっ殺す!!!!」


 ……あぁ、ルカ、あかん。
 それ、悪魔様の手だ。わざとルカを怒らせる発言をしている。
 挑発乗って冷静さ欠いたら、絶対付け込まれるよ……。

 怒りのあまり、戦闘知識の薄い私が見ても明らかに大降りになったルカの拳を、デイビッドは僅かな跳躍で避ける。
 怒りで我を失った人間の攻撃は、どうしたって単調になりがちだ。
 身体能力が並の人間より遥かに上回っている獣人ならなおのこと。
 突出した才能の持ち手は、単なる力押しでも勝ててしまうが故に、テクニックを磨くことを忘れ、慢心しがちだ。結果、漬け込む隙を敵に与えてしまう。
 ルカがデイビッドを女だと思い込んでいることも、その慢心を増長させる。

 だが、デイビッドは男だ。
 しかも、不意打ちであるとはいえ、ルカを一発で気絶させる脚力を持っている。
 油断してもいい相手では、けして無い。


 デイビッドの体が、まるで羽根が生えているかの如く、宙を舞った。
 再び繰り出されたルカの拳を空中で避け、ルカの肩に手を置いてくるりとそのまま前転する。

 
 一瞬目の前に、天使の羽が舞っているような錯覚に陥った。


 幻想の白い羽が舞う中、デイビッドがニイと口端を吊り上げるのが見えた。

「――このエンジェ・ルーチェ様に勝つだなんて、百年早いぞ、犬っころが!」

 くるりと回転したデイビッドは、その勢いのまま、思い切りルカの背中を蹴り飛ばした。

「……ぐうぅっ!」

 蹴りをまともに喰らったルカは、そのまま地面に打ち付けられ、突っ伏す。

 ……可哀想に。一応攻略キャラの一人であるのに、まるで雑魚キャラのようなやられ方であった。


 K.O 

 地面に上手く着地し、そのまま握った拳を掲げるデイビッドのバックに、そんな文字が見えた気がした。
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