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ルカ・ポアネスという不良
ルカ・ポアネスという不良35
しおりを挟む「――それでは、只今より決勝戦を開始する!」
私がどんなに決勝戦が始まらなければいいと願っても、時は待ってくれない。
宣誓と共に始まる、ルカとデイビッドの試合。
歓声をあげていた生徒たちは、次の瞬間ざわめいた。
「ルカ・ポアネスが獣化しているだと!?」
「あいつ……本気であの女を潰す気だ……」
「女相手に何もそこまで……とはいえないな。あそこまでの力の持ち主だと」
スクリーンに映し出されたルカの姿は、一瞬にして銀毛の狼に変じていた。
四足を地につけて、体勢を低くし、デイビッドの隙を伺う姿はまさに獣。
筋力もスピードも、最大限に飛躍する獣形態は、狼獣人にとっては、最大の戦闘形態だ。
どこの誰と戦闘しようとも、今までついぞ獣の姿をとろうとすることは無かったルカの本気に、生徒達は動揺を隠せなかった。
一瞬の隙を見つけて、ルカはデイビッドに飛び掛かる。
速い。
紙一重でデイビッドは避けたものの、地面に着地した途端再び飛び掛かってくる。
今の状態のルカの強さは、先日デイビッドと闘った時の状況とは桁違いだ。舌打ちしたデイビッドの顔に、先日のような余裕はない。
だが、デイビッドとて負けていなかった。
「……なんだ!? 今、ルカが弾き飛ばされたぞ!?」
「あの女の手の動き……あれは、式を紡いでいるのか?」
今まで体術にしか頼らなかったデイビッドが、ここで魔法を行使しはじめた。
だが、これだけ大衆がいる前で、自身の正体がばれるリスクが高いフェロモン魔法は使えない。
気付いている人は少ないようだが、私にはデイビッドが何をしているのか瞬時に分かった。
デイビッドが展開したのは、簡易結界魔法だ。数秒で消え去るくらいの簡易な結界を、ルカの進行方向に向かって断続的に展開しているのだ。
……なんつー男だ。
思わず舌を巻いた。
結界魔法に必要な式は、ほとんどが複雑で展開に時間を要するものばかりだ。
それを簡易的なものとはいえ、これだけの数をこれだけのスピードで展開することが出来るなんて、とても信じられない。
凄まじいスピードで交わされる戦闘。
戦闘形勢は、一進一退。
力量でいったら、五分五分と行ったところだろうか。……いや、どちらかと言えばデイビッドが押しているかもしれない。
ルカは獣化で、戦闘能力を向上させてはいるものの、動き方自体は僅かに隙がある様にも見える。
【銀狼の再来】と評されるのが嫌いなルカは、普段から獣姿を好んだ銀狼を彷彿されないように、獣化という行為そのものを忌避していたところがある。恐らくは獣化状態で戦闘した経験は殆どないのだろう。……そこに、デイビッドが付け込む余地がある。
「……っ」
デイビッドの繰り出した足が、ルカの鼻を思い切り蹴り飛ばした。
ルカは一度地面に転がりそうになってから、慌てて体勢を立て直すものの、次の瞬間にはデイビッドの振りかざした拳が迫っていた。
ルカが、負ける。
そう確信した瞬間、胸が鷲掴みにされたように苦しくなった。
嫌だ。
嫌だ。嫌だ。
勝たないで。
勝って、【銀狼の再来】の主になんて、ならないで。
そうなったら。そうなったら、私は……。
「――ジャア、邪魔スレバイイジャナイ」
次の瞬間、競技場に、一陣の強風が吹いた。
突如デイビッドを押し返すように流れた風に、デイビットは目を見開く。
迫る拳のスピードが風の抵抗でほんの一瞬弱まり、その隙にルカは跳躍した。
追い風の勢いを借りたルカの体は、真っ直ぐにデイビッドの体にぶつかり、そのままデイビッドを押し倒した。
ルカの牙が、デイビッドにぴたりと押し当てられる。
「――勝者、ルカ・ポアネス!」
苛烈な戦闘の末に決定した優勝者の名前に生徒達は大きな歓声をあげて、戦闘を讃える。
だけど、そんな生徒達の熱狂とは裏腹に、私は全身から血の気が引いて震えていた。
「……なんで……」
発する言葉が、掠れた。
「……なんで、風魔法を使ったりなんかしたのっ!? シルフィ……っ!」
私の目の前には、魔法を展開したばかりのシルフィが、得意げに胸を張って浮遊していた。
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