131 / 191
アルク・ティムシーというドエム
アルク・ティムシーというドエム4
しおりを挟む
私の言葉にアルクの顔が、一層悲しげに歪む。
イケメンの憂い顔。普通の女性ならば、さぞかし罪悪感をくすぐられることだろう。
だが、しかーし。私はなんせ、悪役令嬢! あーんど、(最近忘れかけてるけど)前世からの生粋のドエス属性……!
私の言葉で、イケメンが傷ついている様子なんて、快感以外の何物でもないんですよ! 無問題! 寧ろ、もっと傷つくがいい、アルク!
……え、さっき一瞬、デイビッドに忘れ去られたアルクに同情しかけてなかったけって?
気のせいですわ。気のせい。悪役令嬢のアタクシが、そんなこと想うわけないでしょう!
……うん、ただのちょっとした気の迷いです。
「さぁ、アルク・ティムシー卿。私の言葉を理解されたなら、さっさと立ち去られたら……」
「――ルクレア先輩」
勝ち誇った笑みを浮かべながら、そのまま叩きつけようとした拒絶の言葉を遮ったのは、他でもないデイビッドであった。
デイビッドは、演技としては完璧だが、本性を知っている身としては薄ら寒くて仕方ない健気な感じの微笑を浮かべながら、困ったように眉を垂らした。
「心配して下さってありがとうございます。ルクレア先輩が私を心配してくれる気持ちは、とても嬉しいです。……ですけど、実のところ、私もアルク先輩と少しお話してみたいと思っているのです。後回しにするようで申し訳ありませんが、少しお時間を頂けますか?」
「……っ!?」
「……エンジェ嬢っ!」
ぱあっと明るくなるアルクの顔と反比例するように、自分の顔が歪むのが分かった。
……守ろうとしていた相手こそが、その実、伏兵だっただと……!?
そして一見、宥めるように肩に置かれたデイビッドの手が、痕をつけんばかりに私の方をぎりぎりと圧迫している。
……これは、お前は下がっていろと、そういうことですね。はい、意図は伝わってますよ。ちゃんと。
……でも、何で!? 私、ちゃんとアルクを嫌がっているデイビッドの意を汲んでいたと思ってたのに、何で!?
「――5分だけよ。エンジェ。そして、貴女をアルクと二人きりにさせるのは心配だけど、私もこのままここにいさせてもらうけれど、それでもいいかしら?」
そんな内心の嘆きを押し殺して、私は不承不承と言う様に嘆息して、デイビッドの真意を探る。
そんな私に、デイビッドはにっこりと微笑んだ。
「ええ、もちろんです。すぐに終わらせます」
……取りあえず、アルクと二人きりで秘密の談義をしたいというわけではなさそうだ。
デイビッドが一体どうしたいのか分からないけれど、今はまず様子を見ることにするか。
私がその場を一歩下がると、バトンでも渡されたかのように、デイビッドがずいと一歩アルクに近づく。
「――で、ダンスの誘いだったか? アルク・ティムシー卿とやら」
発せられたデイビッドの言葉は、ルクレア・ボレアモードを演じている私に対する言葉よりも明らかに一オクターブは低く、面倒臭そうな心境がありありと滲んでいるものであったが、アルクはその扱いの差を別段気にすることなく、その表情を輝かせた。
「はいっ! 俺は貴女に、舞踏会のダンスのパートナーになって欲しいのです! ……あと、今すぐ痛めつけて欲しいです!」
「……ティムシー家の嫡男が、私のような庶民をパートナーなぞ頼んでいいのか? 単なる学園行事の一環とはいえ、舞踏会で誰をパートナーにしたかは、卒業後の評判にも影響すると聞くぞ。庶民をパートナーにしたら、ティムシー家の名を汚すことになりはしないか――しかも、お前は確か3年だろう。最終学年の生徒の舞踏会のパートナーは、ほとんどが当人の婚約者候補で、そういった意味でのお披露目も兼ねていると聞いていたのだが……」
「あぁ、後半部分をあっさり無視する貴方も素敵だ。……ええ、そうです。卒業を控えている三年の生徒は、パートナー選びは婚姻との結びつきが強く、学園に婚姻を意識する相手がいない場合は自粛するのが暗黙の了解になっています」
デイビッドの言葉を肯定しながら、アルクは燃え盛る炎の様に赤く、熱を帯びているその瞳を、真っ直ぐにデイビッドに向けた。
「――だからこそ、俺は貴女にダンスのパートナーを申し込んでいるのです」
僅かに頬を紅潮させて、そう言い放ったアルクの表情は、声は、どこまでも真剣だった。
「貴女に舞踏会で俺のパートナーになって頂き……ひいては、結婚を前提にした交際をと、そう望んでいます」
イケメンの憂い顔。普通の女性ならば、さぞかし罪悪感をくすぐられることだろう。
だが、しかーし。私はなんせ、悪役令嬢! あーんど、(最近忘れかけてるけど)前世からの生粋のドエス属性……!
私の言葉で、イケメンが傷ついている様子なんて、快感以外の何物でもないんですよ! 無問題! 寧ろ、もっと傷つくがいい、アルク!
……え、さっき一瞬、デイビッドに忘れ去られたアルクに同情しかけてなかったけって?
気のせいですわ。気のせい。悪役令嬢のアタクシが、そんなこと想うわけないでしょう!
……うん、ただのちょっとした気の迷いです。
「さぁ、アルク・ティムシー卿。私の言葉を理解されたなら、さっさと立ち去られたら……」
「――ルクレア先輩」
勝ち誇った笑みを浮かべながら、そのまま叩きつけようとした拒絶の言葉を遮ったのは、他でもないデイビッドであった。
デイビッドは、演技としては完璧だが、本性を知っている身としては薄ら寒くて仕方ない健気な感じの微笑を浮かべながら、困ったように眉を垂らした。
「心配して下さってありがとうございます。ルクレア先輩が私を心配してくれる気持ちは、とても嬉しいです。……ですけど、実のところ、私もアルク先輩と少しお話してみたいと思っているのです。後回しにするようで申し訳ありませんが、少しお時間を頂けますか?」
「……っ!?」
「……エンジェ嬢っ!」
ぱあっと明るくなるアルクの顔と反比例するように、自分の顔が歪むのが分かった。
……守ろうとしていた相手こそが、その実、伏兵だっただと……!?
そして一見、宥めるように肩に置かれたデイビッドの手が、痕をつけんばかりに私の方をぎりぎりと圧迫している。
……これは、お前は下がっていろと、そういうことですね。はい、意図は伝わってますよ。ちゃんと。
……でも、何で!? 私、ちゃんとアルクを嫌がっているデイビッドの意を汲んでいたと思ってたのに、何で!?
「――5分だけよ。エンジェ。そして、貴女をアルクと二人きりにさせるのは心配だけど、私もこのままここにいさせてもらうけれど、それでもいいかしら?」
そんな内心の嘆きを押し殺して、私は不承不承と言う様に嘆息して、デイビッドの真意を探る。
そんな私に、デイビッドはにっこりと微笑んだ。
「ええ、もちろんです。すぐに終わらせます」
……取りあえず、アルクと二人きりで秘密の談義をしたいというわけではなさそうだ。
デイビッドが一体どうしたいのか分からないけれど、今はまず様子を見ることにするか。
私がその場を一歩下がると、バトンでも渡されたかのように、デイビッドがずいと一歩アルクに近づく。
「――で、ダンスの誘いだったか? アルク・ティムシー卿とやら」
発せられたデイビッドの言葉は、ルクレア・ボレアモードを演じている私に対する言葉よりも明らかに一オクターブは低く、面倒臭そうな心境がありありと滲んでいるものであったが、アルクはその扱いの差を別段気にすることなく、その表情を輝かせた。
「はいっ! 俺は貴女に、舞踏会のダンスのパートナーになって欲しいのです! ……あと、今すぐ痛めつけて欲しいです!」
「……ティムシー家の嫡男が、私のような庶民をパートナーなぞ頼んでいいのか? 単なる学園行事の一環とはいえ、舞踏会で誰をパートナーにしたかは、卒業後の評判にも影響すると聞くぞ。庶民をパートナーにしたら、ティムシー家の名を汚すことになりはしないか――しかも、お前は確か3年だろう。最終学年の生徒の舞踏会のパートナーは、ほとんどが当人の婚約者候補で、そういった意味でのお披露目も兼ねていると聞いていたのだが……」
「あぁ、後半部分をあっさり無視する貴方も素敵だ。……ええ、そうです。卒業を控えている三年の生徒は、パートナー選びは婚姻との結びつきが強く、学園に婚姻を意識する相手がいない場合は自粛するのが暗黙の了解になっています」
デイビッドの言葉を肯定しながら、アルクは燃え盛る炎の様に赤く、熱を帯びているその瞳を、真っ直ぐにデイビッドに向けた。
「――だからこそ、俺は貴女にダンスのパートナーを申し込んでいるのです」
僅かに頬を紅潮させて、そう言い放ったアルクの表情は、声は、どこまでも真剣だった。
「貴女に舞踏会で俺のパートナーになって頂き……ひいては、結婚を前提にした交際をと、そう望んでいます」
0
あなたにおすすめの小説
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~
詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?
小説家になろう様でも投稿させていただいております
8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位
8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位
8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位
に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m
何やってんのヒロイン
ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。
自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。
始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・
それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。
そんな中とうとうヒロインが入学する年に。
・・・え、ヒロイン何してくれてんの?
※本編・番外編完結。小話待ち。
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる