乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

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アルク・ティムシーというドエム

アルク・ティムシーというドエム3

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「……ああ、そうだな。ルクレア嬢には、随分と無礼なことをしてしまった」

 アルクはこちらが拍子抜けするくらいにあっさりと自らの非を認めると、躊躇することなく片膝をついて胸元に手を当てた。

「ご機嫌麗しゅう。ルクレア・ボレア嬢。……どうも俺は、考えるよりも先に行動をしてしまう武骨者故に、しばしばご婦人の気分を害してしまうようだ。周囲が見えないあまり貴女には大変申し訳ないことをした。どうか、この礼で許してはくれないだろうか」

 思いがけないアルクの行動に、ぐっと詰まって何も返せなくなってしまった。

 アルクが今している挨拶の礼は、通常なら下位の身分のものが上位の者に対して行う、儀礼的な礼である。

 ティムシー家はボレア家程の力は持ってはいないとはいえ、上位貴族。しかも、アルクは嫡男である。ボレア家直系とはいえ、まだ正式に後継であるとはされていない私と比較してみた時、その地位は対等か、もしくは上であるといえる。どんなに形式ばった状況でも、本来ならオージンの様に立ったままの礼がせいぜいの相手だ。

 そんなアルクが、敢えて下位の礼をとっているというのは、貴族的観点で言えば最大限の謝罪といえよう。

「……ご機嫌麗しゅう。アルク・ティムシー卿。どうかお立ちになって下さい。何かに夢中になって、他が見えなくなることは誰にでもありうる話ですわ」

 こんな謝罪の仕方をされた以上、許す以外の選択肢があるはずがないだろう。
 引きつった笑みを浮かべながら、私は心にもない言葉を口にする。

 ……くそ、普通の貴族ならプライドが邪魔して出来ない謝罪を、こうもまであっさりと潔くしてのけるとは……。

 もしティムシー家がもっと下位の貴族なら、謝罪を受け取らず突っぱねることも出来ようが、ボレア家とほとんど同等の身分である以上、アルクがしでかした無礼に対して充分見合うどころか、釣りがでるような礼だ。ここで許さなければ、私自身が、狭量だということになってしまう。許さないわけにはいくまい。

 腐ってもアルク・ティムシー。武と礼節を重んじるティムシー家の嫡男だけあって、ただの変態ドエムじゃない。

 その行動の計算がなく清廉潔白に見える分、もしかしたら腹黒よりも性質が悪いのかもしれない。

「――そうか。ボレア嬢。無礼を許して頂けたこと、感謝する」

 そう言ってアルクは、笑みを浮かべながら再び立ち上がる。

「無礼ついでで申し訳ないが、少しエンジェ嬢と話をする時間をいただけないだろうか? ほんの5分だけでいいんだ。……彼女を貸して欲しい」

 正攻法で交渉され、二の句が継げなくなる。

 ……何で、こいつド変態野郎の癖に、こういうとこだけ、めちゃくちゃ常識人なの!?

 てか、デイビッドから視線を外して、私と向き直った途端、何か変態要素が一瞬で吹き飛んで、ちゃんと原作通りのアルク・ティムシーに戻っているんだが、これってどういうこと!? なに、ドエム仕様は対デイビッド限定だということ!?

「――残念ですけど」

 内心では激しく動揺をしながらも、そんな素振りを微塵も見せずに、私は微笑を浮かべて見せた。

「私も今から、エンジェと大事な話がありますの。またの機会にしていただけませんかしら?」

 ここであっさり、「はい、かしこまりました。どーぞ、どーぞ」と、簡単に引くわけにはいかないんだ……私だって!
 だって、デイビッドが、(多分、きっと、絶対に)嫌がっているんだもの……!

 私の言葉に、アルクは訴えるように眉を顰める。

「……そこを何とかならないだろうか。残念ながら俺は、なかなかエンジェ嬢と話す機会を設けられないんだ」

「あら、機会なんて、交渉次第ではいくらでも設けられるものではありません? 機会がないというのは、単に交渉を惜しむ怠慢の結果ですわ」

「聞いていただろう。話しかけようと近づくたびに、その前にいつも彼女がどこかへ行ってしまうんだ。それに、エンジェ嬢は、一般庶民の生徒だ。ティムシー家の俺が、公衆の面前でしつこく言い寄ったりしたら、学園生活に支障が出るかもしれないじゃないか」

「あら、まぁ! それを聞いたら、増々時間を取らせるわけにはいきませんわ! 貴方がエンジェに、良い影響を及ぼすとは到底思えませんもの」

 口元に手を当てて大げさに高い声をあげると、私は扇を突きつけて、キッとアルクを睨み付ける。

「私とエンジェは、かつてはどうであれ、今はとても親しい友人ですの。だから、エンジェに害を与える可能性があるならば、アルク・ティムシー卿。貴方といえども、容赦しませんわ! ボレア家の名に掛けて、全力で排除させて頂きます!」

 そう高らかに言い放ちながら、内心では空想上の中指を立てて、別の言葉を叫んでいた。


 ――おととい来やがれってんだ、ドエム野郎!
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