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アルク・ティムシーというドエム
アルク・ティムシーというドエム6
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「ティムシー家の嫡男っつー肩書は、下僕として従えるにはなかなか魅力的な肩書だからな。ここで突き放して、意図せずして降って湧いた好意を無駄にするのも勿体ねぇ。取りあえず、生かさず殺さずでキープすることにした……っていっても、当日捕まってやる気なんかさらさらねぇけどな」
……まぁ、確かに。ティムシー家は大貴族だし、アルク自身も、ドエムな変態っていう要素除けば、なかなかない優秀な逸材だと思うよ。成り上がりを目指すデイビッドには、もしかしたらルカ以上に有用かもしれない。
そんな人物が、向こうからアプローチかけて来ているという願ってもない機会を無駄にするのは、って私だって思うよ。
……だけど、なんだかそれがとっても面白くない。
「――だったら、キープなんて言わずに、さっさと下僕にしちゃえばいいのに。多分、今のアルクならもう主従契約も出来るくらいにデイビッドに心酔してるんじゃないの?」
駄々下がりのテンションをひた隠しににして、敢えて何でもないことの様に肩を竦めて提案してみる。
……自分からこんなことを言っている癖に、肯定されることを内心恐れている私は、本当馬鹿なんじゃないかと思う。馬鹿だと思いつつも、それでもそんな気持ち正直に表に出せずに、ツンとすまし顔を浮かべることやめられない。
ちらりと横目で伺うと、デイビッドは難しい顔で、腕を組んでいた。
「――それが一番いいっつーのは分かってんだけどな」
ぼやくように言われた言葉に、思わず跳ねそうになる体を抑え込む。
デイビッドはそんな私の変化に気付かないまま、深い溜息と共にどこか遠くを眺めた。
「それが最善だって、分かってんだけど、あいつを今すぐ下僕にすんのは生理的に受付ねぇんだよなぁ……」
渋い顔でそう言い放ったデイビッドは、悪寒に耐えるがごとく、自身を抱きかかえるようにして肩の辺りを摩った。
「嫌がる奴を苛め抜くのは好きなんだが、虐めて喜ぶ奴を相手にしてもつまんねぇんだよ。しかも、相手が筋肉隆々の野郎ときたら気色悪ぃ以外の何もんでもねぇだろ。……俺の正体が男だって知って、色々目ぇ醒まして絶望しやがったら面白ぇけど、万が一それでもなお、あの反応続けてきたらと思ったら、想像しただけで悍ましい。……取りあえず、保留だ、保留」
そう言って、心底嫌そうに顔を顰めるデイビッドの首元には、しっかり鳥肌が浮いていた。……どうやら、本気でアルクを苦手としているようだ。
思わずホッと、安堵の溜め息を吐く。……いや別にさ、アルクがデイビッドの下僕になったところで、私には関係ないんだけどさ。
そんな私の姿は、デイビッドにばっちり見られてしまったらしい。
再び視線をデイビッドに戻すと、さっきまで不愉快そうだったデイビッドの顔が、愉しげなものに変わっていた。
「……それに、駄犬と約束したしな。『暫くはお前だけのご主人様でいてやる』って」
目を細めたデイビッドにくしゃりと頭を撫でられ、カッと顔が熱くなる。
「い、いや私は別に……アルクが下僕に加わったところで……」
「ルカに対して嫉妬した奴が、何を今さら。心配すんな、ルクレア。あいつを下僕にすんのは勿論、ダンスのパートナーにだって、なりはしねぇさ。絶対捕まったりなんかしねえから安心しろ」
「っ、だから私は別に……っ!」
口では必死に否定しながらも、口元が勝手に緩んでいくのを感じていた。
デイビッドがアルクを、今のところ下僕にする気がないことがどうしようもなく嬉しい自分がいるのを否定できなかった。
じわりと胸の奥に温かいものが広がっていく。
そ猫や犬をかわいがるがごとく、そのまま撫で続けるデイビッドに、諦めたかのようにわざとらしい溜め息を吐いてみせてから、そっと目を閉じた。
頭上を行き交う掌の熱が心地よい。
なんだかとてもふわふわした、幸せな気分だった。
「―――……」
だけど、高揚していく心の片隅に、未だ冷たいしこりのようなものが残っていることもまた、気付いていた。
気付いてしまったそのしこりを、そっとなかったことにする。
それはきっと、贅沢で、そして恐らくは、叶わないであろう願いだから。
だって、この世界の元となっている乙女ゲーム「君の背中に翼に見える」は、最終的なエンディングこそ滅茶苦茶なものは多かったけど、そこに至るまでのイベントは結構まともで正統派な設定がされてるんだ。乙女ゲームらしく、ちゃんとプレーヤーの胸をときめかせてくれるような、そんなオーソドックスなイベント設定が。……だからこそ、余計唐突なネタエンドに度肝を抜かされたのだけど。
だからきっと、私が発見できていないだけじゃなくて、ゲームの中に元々そんなルート自体存在してないんじゃないかと思う。だったら、もしかしたらと期待するだけ無駄だろう。
――『悪役令嬢が、舞踏会でヒロインと一緒に踊る』
そんなルートがあるかも、なんてさ。
……まぁ、確かに。ティムシー家は大貴族だし、アルク自身も、ドエムな変態っていう要素除けば、なかなかない優秀な逸材だと思うよ。成り上がりを目指すデイビッドには、もしかしたらルカ以上に有用かもしれない。
そんな人物が、向こうからアプローチかけて来ているという願ってもない機会を無駄にするのは、って私だって思うよ。
……だけど、なんだかそれがとっても面白くない。
「――だったら、キープなんて言わずに、さっさと下僕にしちゃえばいいのに。多分、今のアルクならもう主従契約も出来るくらいにデイビッドに心酔してるんじゃないの?」
駄々下がりのテンションをひた隠しににして、敢えて何でもないことの様に肩を竦めて提案してみる。
……自分からこんなことを言っている癖に、肯定されることを内心恐れている私は、本当馬鹿なんじゃないかと思う。馬鹿だと思いつつも、それでもそんな気持ち正直に表に出せずに、ツンとすまし顔を浮かべることやめられない。
ちらりと横目で伺うと、デイビッドは難しい顔で、腕を組んでいた。
「――それが一番いいっつーのは分かってんだけどな」
ぼやくように言われた言葉に、思わず跳ねそうになる体を抑え込む。
デイビッドはそんな私の変化に気付かないまま、深い溜息と共にどこか遠くを眺めた。
「それが最善だって、分かってんだけど、あいつを今すぐ下僕にすんのは生理的に受付ねぇんだよなぁ……」
渋い顔でそう言い放ったデイビッドは、悪寒に耐えるがごとく、自身を抱きかかえるようにして肩の辺りを摩った。
「嫌がる奴を苛め抜くのは好きなんだが、虐めて喜ぶ奴を相手にしてもつまんねぇんだよ。しかも、相手が筋肉隆々の野郎ときたら気色悪ぃ以外の何もんでもねぇだろ。……俺の正体が男だって知って、色々目ぇ醒まして絶望しやがったら面白ぇけど、万が一それでもなお、あの反応続けてきたらと思ったら、想像しただけで悍ましい。……取りあえず、保留だ、保留」
そう言って、心底嫌そうに顔を顰めるデイビッドの首元には、しっかり鳥肌が浮いていた。……どうやら、本気でアルクを苦手としているようだ。
思わずホッと、安堵の溜め息を吐く。……いや別にさ、アルクがデイビッドの下僕になったところで、私には関係ないんだけどさ。
そんな私の姿は、デイビッドにばっちり見られてしまったらしい。
再び視線をデイビッドに戻すと、さっきまで不愉快そうだったデイビッドの顔が、愉しげなものに変わっていた。
「……それに、駄犬と約束したしな。『暫くはお前だけのご主人様でいてやる』って」
目を細めたデイビッドにくしゃりと頭を撫でられ、カッと顔が熱くなる。
「い、いや私は別に……アルクが下僕に加わったところで……」
「ルカに対して嫉妬した奴が、何を今さら。心配すんな、ルクレア。あいつを下僕にすんのは勿論、ダンスのパートナーにだって、なりはしねぇさ。絶対捕まったりなんかしねえから安心しろ」
「っ、だから私は別に……っ!」
口では必死に否定しながらも、口元が勝手に緩んでいくのを感じていた。
デイビッドがアルクを、今のところ下僕にする気がないことがどうしようもなく嬉しい自分がいるのを否定できなかった。
じわりと胸の奥に温かいものが広がっていく。
そ猫や犬をかわいがるがごとく、そのまま撫で続けるデイビッドに、諦めたかのようにわざとらしい溜め息を吐いてみせてから、そっと目を閉じた。
頭上を行き交う掌の熱が心地よい。
なんだかとてもふわふわした、幸せな気分だった。
「―――……」
だけど、高揚していく心の片隅に、未だ冷たいしこりのようなものが残っていることもまた、気付いていた。
気付いてしまったそのしこりを、そっとなかったことにする。
それはきっと、贅沢で、そして恐らくは、叶わないであろう願いだから。
だって、この世界の元となっている乙女ゲーム「君の背中に翼に見える」は、最終的なエンディングこそ滅茶苦茶なものは多かったけど、そこに至るまでのイベントは結構まともで正統派な設定がされてるんだ。乙女ゲームらしく、ちゃんとプレーヤーの胸をときめかせてくれるような、そんなオーソドックスなイベント設定が。……だからこそ、余計唐突なネタエンドに度肝を抜かされたのだけど。
だからきっと、私が発見できていないだけじゃなくて、ゲームの中に元々そんなルート自体存在してないんじゃないかと思う。だったら、もしかしたらと期待するだけ無駄だろう。
――『悪役令嬢が、舞踏会でヒロインと一緒に踊る』
そんなルートがあるかも、なんてさ。
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