乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
142 / 191
アルク・ティムシーというドエム

アルク・ティムシーというドエム15

しおりを挟む
 ……おお、なんか怒りを通り越して、だんだん笑えてきたぞ。どこまで私を舐めているのかな? オージン。

 そりゃあオージンが舐めているのは私自身で、ボレア家そのものは尊重しているから私の逆鱗に触れることはないけど、それにしてもちょっと調子乗り過ぎじゃない?

 ここらでいっちょ締めとかにゃあ。

「――ええ、勿論。それがボレア家の利益になるというのなら、婚約破棄くらい大したことではないですわ。婚約者を取られた悲しき令嬢の立場を、甘んじて受け入れましょう」

「なら……」

「ただし、『殿下がちゃんとした利益をボレア家に齎すことが出来るなら』の話ですけど」

 手首を優雅に捻らせて懐からマイ扇を取り出すと、私は半開きにしたそれを口元に当てながら嘲笑を浮かべる。

「残念ながら、私はそこまでオージン殿下を買っておりませんの。仮面婚約者の立場を承諾したとして、殿下がちゃんと王位を継いで、私に利益を還元できる保証がどこにあるのかしら? 利益どころか、殿下が王位継承争いに負けた場合、そんな殿下の婚約者になった私の名まで汚れることになりますわ。……私が見たところ、王としての才は、殿下もショムテ様も大差ありません。寧ろ所によってはショムテ様の方が優れていますわ。数年後にショムテ様が殿下を押しのけて王位を継承しても驚きはしません」

「……言うね、ルクレア嬢」

 私の言葉に、オージンの口端が小さく引きつったのが見えた。顔は笑っているがその眼は笑っておらず、握った拳が僅かに震えているのが見える。

 その姿に思わず扇で隠した口角がにぃっとあがる。……ふはは、気持ちいいわ。これ。やっぱり私ドエスかも。

 巷では、王弟ショムテは自らの野心故に10近くも年下のオージンに冷たく当たる冷血漢であり、オージンはそんな叔父の仕打ちに耐えながらも、それでも叔父を慕っている健気な甥のように噂されることが多い。実際公衆の面前で、ショムテはオージンに対する負の感情を隠そうとはしない一方で、オージンはショムテに対して最大限の敬意を払って接しており、オージンがショムテに向ける視線は尊敬さえ滲んだ好意的なもののように見える。

 だけど、私には、分かる。

 ――オージン・メトオグ。こいつ本当は滅茶苦茶ショムテが嫌いだ。

 そしてその理由も、ショムテが自分を嫌っているからだとか、そんな可愛らしい理由からではない。
 ショムテが自分の皇太子という地位を脅かす存在であり、なおかつそれが実現できる能力を持った人物だとオージンは知っているからだ。

 ショムテが求める改革は、急進的で荒削りなもの。だが、そこにはショムテだからこそ思いつくような、独創的で思い切った案がいくつも含まれている。
 普段の粗野で乱暴な態度から見失いがちだが、ショムテはやり方さえ間違えなければ、オージン以上の賢王になる素質を持っているのだ。それは生まれ備わった、ショムテの才能だといってもいい。

 私でも気付くその事実に、観察眼が人一倍鋭いオージンが気づかない筈がない。

 オージンは柔らかい物腰と、ふざけた態度に誤魔化されがちだが、その内面は野心的な自信家だ。そんな彼が、自分より優れた能力を持っている可能性がある叔父を、本気で慕う筈がない。
 恐らく噂の発生源は九割九分、オージンの息がかかっているのだろう。……情報操作は随分お得意なようだし。

 裏でひっそり情報操作をして、ショムテの悪評を意図的にばらまくという根暗な行為をしちゃうくらい、オージンはショムテが、嫌いなのだ。……自分が持っていない才を持つ叔父を、オージンは密かに妬んでいる。

 そう、オージンは、ショムテに胸の奥ではコンプレックスを抱いているのだ。話題に出されれば、思わず被っている分厚い猫が剥がれそうになるくらいに。
 もしかしたら程度の仮説だったけど、今のオージンの反応を見て、仮説が確信に変わった。

 ……いやぁ~、ならばこのコンプレックス、突かないわけにはいかないでしょう。この状況的に。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

処理中です...