乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
143 / 191
アルク・ティムシーというドエム

アルク・ティムシーというドエム16

しおりを挟む
「ショムテ様の、独自の力。私は伝聞で把握しているだけですけど、あのような構想を思いつくのは、なかなか得難い才能だと私は思いますわ。また、決断力の早さと、行動力もショムテ様は群を抜いているように思います。少々考えなしで、また、自身の本音を隠すのが苦手だという欠点はありますが、周囲の人間次第ではショムテ様は偉大な王になる可能性を秘めていると、私は考えておりますわ」

「……ずいぶん、叔父上を持ち上げるね。ルクレア嬢。君は私より、叔父上の方が相応しいとそう言いたいのかな? 叔父上を、擁護すると」

「まさか。私はオージン殿下の優秀さも知っておりますし、別にショムテ様側につきたいと思ってもおりません」

 明らかにこわばった表情を浮かべるオージンに、私はにっこりとほほ笑みかける。

「私が求めているものは『平穏』……そうおっしゃったのは、殿下でしょう? 私は、王位争いに首を突っ込む気なぞさらさらありませんわ。私は、否、ボレア家は中立の立場でいたいのですもの。オージン殿下、もしくはショムテ様が、何らかの形でボレア家の逆鱗に触れない限り、ボレア家がお二人のどちらかに肩入れすることはありませんわ」

 私の言葉に、オージンは僅かに安堵を滲ませる。

「……ただ」

 だがオージンよ、安心するには早ーい。

「ただ、私が中立の立場だからといって、この先ショムテ様と交流を持つ可能性は十分ありますわ。だって、今、私はこんなにもオージン殿下と交流しているのだもの。ショムテ様とも交流の機会を設けなければ、中立とは言えません」

 私の言葉に、オージンは再び硬直する。
 ああ、この表情の変化が、実に愉しい。

 思わず、ぺろりと自身の唇を舐める。さて、どう料理してやろうか。

「――メトオグ家にとって、『天使』の存在は特別。それは、何もオージン殿下だけではなく、ショムテ様にも当てはまることですわよね?」

「……っ!」

「あまりにオージン殿下の振る舞いにうんざりしてしまったら、ついついショムテ様に愚痴を漏らしてしまうかもしれませんわねぇ。……『オージン殿下は【天使】と称する想い人がいるのに、私を婚約者にしようとしてくる』と、そう……きゃっ!」

 私の言葉に、ついにオージンの猫が完全に脱げた。
 演技も冷静さも金繰り捨てた憤怒に満ちた表情で、私の肩を乱暴に掴み迫ってくる。

「……本気で、本気でそんなことをする気なのか!?ルクレア嬢!」

 怒鳴る様に振り絞られた声には、一切の余裕がない。

「彼女を、エンジェを、叔父上に目をつけさせるなどと、貴女は本気で……っ!」

 全てをむき出しにした、オージンの様に思わず口元が緩む。

 ああ、これだよ。これ。この表情が見たかったんだよ。この演技がない、素の表情が。

 ぞくぞくすんね。とても愉快だ。

「――ええ、勿論」

 だが、私はそんな内心の喜悦を抑えて、敢えて低い冷めた視線と声を、オージンに投げかけた。

「勿論、本気なわけないでしょう。貴方、馬鹿ですの?」

「……え?」

 …ぶはははは! 間抜け、その顔、超間抜けっ!
 うははは、超すっきりする!

「…痛いですわ。離してくださる?」

「あ、あぁ」

「女性に対する扱いがなっておりませんわね、全く」

 内心で大爆笑しながらも、顔は酷く冷めた表情のまま、扇で肩に置かれた手を叩くと、オージンはあっさりと私から手を離した。
 そんなオージンを鼻で笑うと、片眉を上げて顔を顰めてみせる。

「エンジェは、私の大切な友人、デイジーの姉ですわ。彼女がショムテ様に目をつけられれば、結果的に妹のデイジーにも火の粉が飛ぶことになります。オージン殿下の振る舞いに腹を立てたからといって、そんな事態を引き起こすわけがないでしょう」

 ……そんなことしたら、デイジーこと、デイビッドに殺されるからな。

 てか、つまらんことで第三者巻き込んだりするか。この私が。仕返しは直接本人にする主義です。正々堂々。

「……じゃあ、何で、そんなこと」

「私がそういった行動をする可能性を、オージン殿下は微塵も考えていらっしゃらないから、忠告したまでのことですわ」

 オージンは、人並み外れた観察眼を持っており、人の本質を見抜く稀有な洞察力を持っている。だが、だからこそ、その才に溺れがちだ。

「オージン殿下の慧眼は、素晴らしいと思いますわ。でもだからこそ、それに頼って殿下は他の可能性に目を向けようとしない。……それが命取りになることを、私は先日言外に伝えたつもりだったのですが、お忘れかしら?」

「……っ」

「人は本質以外にも、いくつもの側面を持っているものですわ。それは時と状況に寄って、劇的に変化することだってあります。……あまり自分を過信すると、いつか痛い目に遭いますわよ?」

 オージンの顔に、屈辱や憎悪、憤怒といった様々な負の感情が過ぎる。
 だがオージンはそんな感情全てを飲みこんで、再び分厚い猫を被りなおして、作り笑いを浮かべた。

「――ああ。肝に銘じておくよ、ルクレア嬢」

 完全に打ちのめされたらしいオージンの様に、すっかり溜飲が下りた。

 オージン程度に、私を完全に御すことなんか出来ない。そんなことは、許さない。

 だって私は、ルクレア・ボレアだから。

 人から利用され、転がされるような人間ではなく、人を動かし支配する側の人間なのだから。


 ――私が私を御すことを、良いように動かすことを認めているのは、今のところこの世にただ一人だけなのだから。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

処理中です...