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アルク・ティムシーというドエム
アルク・ティムシーというドエム16
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「ショムテ様の、独自の力。私は伝聞で把握しているだけですけど、あのような構想を思いつくのは、なかなか得難い才能だと私は思いますわ。また、決断力の早さと、行動力もショムテ様は群を抜いているように思います。少々考えなしで、また、自身の本音を隠すのが苦手だという欠点はありますが、周囲の人間次第ではショムテ様は偉大な王になる可能性を秘めていると、私は考えておりますわ」
「……ずいぶん、叔父上を持ち上げるね。ルクレア嬢。君は私より、叔父上の方が相応しいとそう言いたいのかな? 叔父上を、擁護すると」
「まさか。私はオージン殿下の優秀さも知っておりますし、別にショムテ様側につきたいと思ってもおりません」
明らかにこわばった表情を浮かべるオージンに、私はにっこりとほほ笑みかける。
「私が求めているものは『平穏』……そうおっしゃったのは、殿下でしょう? 私は、王位争いに首を突っ込む気なぞさらさらありませんわ。私は、否、ボレア家は中立の立場でいたいのですもの。オージン殿下、もしくはショムテ様が、何らかの形でボレア家の逆鱗に触れない限り、ボレア家がお二人のどちらかに肩入れすることはありませんわ」
私の言葉に、オージンは僅かに安堵を滲ませる。
「……ただ」
だがオージンよ、安心するには早ーい。
「ただ、私が中立の立場だからといって、この先ショムテ様と交流を持つ可能性は十分ありますわ。だって、今、私はこんなにもオージン殿下と交流しているのだもの。ショムテ様とも交流の機会を設けなければ、中立とは言えません」
私の言葉に、オージンは再び硬直する。
ああ、この表情の変化が、実に愉しい。
思わず、ぺろりと自身の唇を舐める。さて、どう料理してやろうか。
「――メトオグ家にとって、『天使』の存在は特別。それは、何もオージン殿下だけではなく、ショムテ様にも当てはまることですわよね?」
「……っ!」
「あまりにオージン殿下の振る舞いにうんざりしてしまったら、ついついショムテ様に愚痴を漏らしてしまうかもしれませんわねぇ。……『オージン殿下は【天使】と称する想い人がいるのに、私を婚約者にしようとしてくる』と、そう……きゃっ!」
私の言葉に、ついにオージンの猫が完全に脱げた。
演技も冷静さも金繰り捨てた憤怒に満ちた表情で、私の肩を乱暴に掴み迫ってくる。
「……本気で、本気でそんなことをする気なのか!?ルクレア嬢!」
怒鳴る様に振り絞られた声には、一切の余裕がない。
「彼女を、エンジェを、叔父上に目をつけさせるなどと、貴女は本気で……っ!」
全てをむき出しにした、オージンの様に思わず口元が緩む。
ああ、これだよ。これ。この表情が見たかったんだよ。この演技がない、素の表情が。
ぞくぞくすんね。とても愉快だ。
「――ええ、勿論」
だが、私はそんな内心の喜悦を抑えて、敢えて低い冷めた視線と声を、オージンに投げかけた。
「勿論、本気なわけないでしょう。貴方、馬鹿ですの?」
「……え?」
…ぶはははは! 間抜け、その顔、超間抜けっ!
うははは、超すっきりする!
「…痛いですわ。離してくださる?」
「あ、あぁ」
「女性に対する扱いがなっておりませんわね、全く」
内心で大爆笑しながらも、顔は酷く冷めた表情のまま、扇で肩に置かれた手を叩くと、オージンはあっさりと私から手を離した。
そんなオージンを鼻で笑うと、片眉を上げて顔を顰めてみせる。
「エンジェは、私の大切な友人、デイジーの姉ですわ。彼女がショムテ様に目をつけられれば、結果的に妹のデイジーにも火の粉が飛ぶことになります。オージン殿下の振る舞いに腹を立てたからといって、そんな事態を引き起こすわけがないでしょう」
……そんなことしたら、デイジーこと、デイビッドに殺されるからな。
てか、つまらんことで第三者巻き込んだりするか。この私が。仕返しは直接本人にする主義です。正々堂々。
「……じゃあ、何で、そんなこと」
「私がそういった行動をする可能性を、オージン殿下は微塵も考えていらっしゃらないから、忠告したまでのことですわ」
オージンは、人並み外れた観察眼を持っており、人の本質を見抜く稀有な洞察力を持っている。だが、だからこそ、その才に溺れがちだ。
「オージン殿下の慧眼は、素晴らしいと思いますわ。でもだからこそ、それに頼って殿下は他の可能性に目を向けようとしない。……それが命取りになることを、私は先日言外に伝えたつもりだったのですが、お忘れかしら?」
「……っ」
「人は本質以外にも、いくつもの側面を持っているものですわ。それは時と状況に寄って、劇的に変化することだってあります。……あまり自分を過信すると、いつか痛い目に遭いますわよ?」
オージンの顔に、屈辱や憎悪、憤怒といった様々な負の感情が過ぎる。
だがオージンはそんな感情全てを飲みこんで、再び分厚い猫を被りなおして、作り笑いを浮かべた。
「――ああ。肝に銘じておくよ、ルクレア嬢」
完全に打ちのめされたらしいオージンの様に、すっかり溜飲が下りた。
オージン程度に、私を完全に御すことなんか出来ない。そんなことは、許さない。
だって私は、ルクレア・ボレアだから。
人から利用され、転がされるような人間ではなく、人を動かし支配する側の人間なのだから。
――私が私を御すことを、良いように動かすことを認めているのは、今のところこの世にただ一人だけなのだから。
「……ずいぶん、叔父上を持ち上げるね。ルクレア嬢。君は私より、叔父上の方が相応しいとそう言いたいのかな? 叔父上を、擁護すると」
「まさか。私はオージン殿下の優秀さも知っておりますし、別にショムテ様側につきたいと思ってもおりません」
明らかにこわばった表情を浮かべるオージンに、私はにっこりとほほ笑みかける。
「私が求めているものは『平穏』……そうおっしゃったのは、殿下でしょう? 私は、王位争いに首を突っ込む気なぞさらさらありませんわ。私は、否、ボレア家は中立の立場でいたいのですもの。オージン殿下、もしくはショムテ様が、何らかの形でボレア家の逆鱗に触れない限り、ボレア家がお二人のどちらかに肩入れすることはありませんわ」
私の言葉に、オージンは僅かに安堵を滲ませる。
「……ただ」
だがオージンよ、安心するには早ーい。
「ただ、私が中立の立場だからといって、この先ショムテ様と交流を持つ可能性は十分ありますわ。だって、今、私はこんなにもオージン殿下と交流しているのだもの。ショムテ様とも交流の機会を設けなければ、中立とは言えません」
私の言葉に、オージンは再び硬直する。
ああ、この表情の変化が、実に愉しい。
思わず、ぺろりと自身の唇を舐める。さて、どう料理してやろうか。
「――メトオグ家にとって、『天使』の存在は特別。それは、何もオージン殿下だけではなく、ショムテ様にも当てはまることですわよね?」
「……っ!」
「あまりにオージン殿下の振る舞いにうんざりしてしまったら、ついついショムテ様に愚痴を漏らしてしまうかもしれませんわねぇ。……『オージン殿下は【天使】と称する想い人がいるのに、私を婚約者にしようとしてくる』と、そう……きゃっ!」
私の言葉に、ついにオージンの猫が完全に脱げた。
演技も冷静さも金繰り捨てた憤怒に満ちた表情で、私の肩を乱暴に掴み迫ってくる。
「……本気で、本気でそんなことをする気なのか!?ルクレア嬢!」
怒鳴る様に振り絞られた声には、一切の余裕がない。
「彼女を、エンジェを、叔父上に目をつけさせるなどと、貴女は本気で……っ!」
全てをむき出しにした、オージンの様に思わず口元が緩む。
ああ、これだよ。これ。この表情が見たかったんだよ。この演技がない、素の表情が。
ぞくぞくすんね。とても愉快だ。
「――ええ、勿論」
だが、私はそんな内心の喜悦を抑えて、敢えて低い冷めた視線と声を、オージンに投げかけた。
「勿論、本気なわけないでしょう。貴方、馬鹿ですの?」
「……え?」
…ぶはははは! 間抜け、その顔、超間抜けっ!
うははは、超すっきりする!
「…痛いですわ。離してくださる?」
「あ、あぁ」
「女性に対する扱いがなっておりませんわね、全く」
内心で大爆笑しながらも、顔は酷く冷めた表情のまま、扇で肩に置かれた手を叩くと、オージンはあっさりと私から手を離した。
そんなオージンを鼻で笑うと、片眉を上げて顔を顰めてみせる。
「エンジェは、私の大切な友人、デイジーの姉ですわ。彼女がショムテ様に目をつけられれば、結果的に妹のデイジーにも火の粉が飛ぶことになります。オージン殿下の振る舞いに腹を立てたからといって、そんな事態を引き起こすわけがないでしょう」
……そんなことしたら、デイジーこと、デイビッドに殺されるからな。
てか、つまらんことで第三者巻き込んだりするか。この私が。仕返しは直接本人にする主義です。正々堂々。
「……じゃあ、何で、そんなこと」
「私がそういった行動をする可能性を、オージン殿下は微塵も考えていらっしゃらないから、忠告したまでのことですわ」
オージンは、人並み外れた観察眼を持っており、人の本質を見抜く稀有な洞察力を持っている。だが、だからこそ、その才に溺れがちだ。
「オージン殿下の慧眼は、素晴らしいと思いますわ。でもだからこそ、それに頼って殿下は他の可能性に目を向けようとしない。……それが命取りになることを、私は先日言外に伝えたつもりだったのですが、お忘れかしら?」
「……っ」
「人は本質以外にも、いくつもの側面を持っているものですわ。それは時と状況に寄って、劇的に変化することだってあります。……あまり自分を過信すると、いつか痛い目に遭いますわよ?」
オージンの顔に、屈辱や憎悪、憤怒といった様々な負の感情が過ぎる。
だがオージンはそんな感情全てを飲みこんで、再び分厚い猫を被りなおして、作り笑いを浮かべた。
「――ああ。肝に銘じておくよ、ルクレア嬢」
完全に打ちのめされたらしいオージンの様に、すっかり溜飲が下りた。
オージン程度に、私を完全に御すことなんか出来ない。そんなことは、許さない。
だって私は、ルクレア・ボレアだから。
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