声が出せない彼女と、私が友達になるまでの話

ポメ子

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妬ましかったあの子

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 体育館に並ぶ新入生たち。私も指定された席に座りながら、周りをきょろきょろと見回した。みんな緊張した顔をしている。同じような気持ちなんだろうな。
 やがて入学式が始まり、校長先生が壇上に立った。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。本校は伝統ある……」
 長い、長い挨拶が始まった。
 話の内容は正直、頭に入ってこない。それよりも今の私には、もっと重要なことがある。
(友達、作れるかな)
 同じ中学から進学したのは私だけ。みんな違う高校に行ってしまった。つまり、今日からまた一からのスタート。友達作りも、人間関係も、全部ゼロから始めなければならない。
(ぼっちは絶対に嫌だ)
 中学時代、一時期友人関係がこじれて一人でお弁当を食べていた時期がある。あの時の惨めさを思い出すだけで胃が痛くなる。
 体育館の中をそっと見回す。どの子も真面目に校長先生の話を聞いている。この中の誰かと仲良くなれるだろうか。お昼を一緒に食べる友達はできるかな。放課後、一緒に帰る子は?
 隣に座っている女の子は、ショートカットで明るそうな顔をしている。話しかけやすそうだな。前の席の子は、ちょっと大人っぽい雰囲気。どちらも素敵だけれど、私なんかが友達になってもらえるかな。
(大丈夫、大丈夫。頑張れば絶対に友達はできる)
 自分に言い聞かせながら、校長先生の長い話に耳を傾けた。

 ようやく入学式が終わり、クラス別に移動する時間になった。
「1年3組の皆さんは、こちらです」
 先生の声に従って、ぞろぞろと移動する。新しい校舎、新しい教室。全てが輝いて見える。
 1年3組。私のクラスだ。
 教室の前に貼られた座席表を確認しようと近づいて、一つひとつ名前を探していく。高村優実……あった。廊下側から二番目、後ろから三番目の席らしい。
 座席表を見ながら自分の席を確認していると、ふと見覚えのある名前が目に飛び込んできた。
「え……まさか」
 山田あかり。その名前の席を探して視線を向けると、窓際の一番後ろの席に座っている女の子が目に入った。
 長い少し癖のある黒髪を肩に流して、膝の上に何かの本を置いている。うつむき加減で、周りの騒がしさなんて気にしていないみたい。その横顔を見た瞬間、記憶が一気に蘇った。
「嘘でしょ……」
 間違いない。小学校の同級生だった、山田あかりだ。

 小学6年生の教室。先生の質問に手を挙げる子たちの中で、いつもうつむいたまま座っている女の子がいた。名前を呼ばれても何も答えない。みんなで音読をする時間も、その子だけ口を動かさない。
 最初は「変わった子だな」くらいにしか思っていなかった。でも、だんだんその子への周りの扱いが特別なものになっていくのがわかった。
 先生はその子を当てることがない。授業中に発言を求められることもない。グループ活動の時は、先生が「一緒にやってくれる人いるかな?」と呼びかけて、誰かが手を挙げるまで待ってくれる。
 修学旅行の部屋決めの時も、その子だけは先生が適当なグループに入れてくれた。自分で希望を言わなくても、自動的に居場所が用意される。
(ずるい)
 その頃の私は、そう思っていた。
 私だって人見知りだし、手を挙げて発言するのは緊張する。でも頑張って手を挙げるし、友達を作る努力もしている。休み時間は一人になりたくなくて、必死に誰かと一緒にいようとしていた。給食の時間も、お弁当の時間も、放課後も。いつもアンテナを張って、ぼっちにならないように気を配っていた。
 それなのに、あかりは何もしなくても先生が配慮してくれる。努力しなくても居場所が用意される。話さなくても、友達がいなくても、誰も責めない。
(私だって、本当はあんな風に特別扱いされたい)
 でも、そんなことを口に出すわけにはいかない。だから心の中で、ずっとあかりのことを妬ましく思っていた。

「おはよう」
 自分の席に荷物を置きながら、前の席に座った女の子に声をかけられて、私は現実に戻った。
「あ、おはよう」
 慌てて挨拶を返す。この子が最初の友達になるかもしれない。頑張らなくちゃ。
 でも、視線は自然とあかりの方に向いてしまう。相変わらず本を読んでいて、周りの生徒たちが挨拶を交わしているのなんて気にしていないみたい。
(あかりは今回も、きっと私みたいな不安なんて感じてないんだろうな)
 そう思うと、また昔の感情が蘇ってくる。
 あかりがこの高校にいるなんて思ってもみなかった。中学進学の時、確か引っ越していったはずだった。それなのに、どうしてまた同じクラスに?
 運命って言うのかな、それとも偶然?
 どちらにしても、複雑な気持ちだった。
 クラスメートたちが少しずつ打ち解け始める中、私も何人かの子と話をすることができた。同じ不安を抱えた新入生同士、すぐに親しくなれそうな予感がする。
「明日からよろしくね」
「こちらこそ!」
 ああ、良かった。友達ができそうだ。
 でも、ちらりとあかりの方を見ると、相変わらず一人で本を読んでいる。誰にも話しかけない。話しかけられることもない。
(きっと今回も、グループ活動の時は先生が配慮してくれるんだろうな)
 昔と同じように、あかりだけは努力しなくても居場所が保証される。私みたいに必死に友達を作ろうとしなくても、誰かが気にかけてくれる。
 そんなことを考えていると、胸の奥がもやもやしてくる。
(やっぱり、私はあかりのことが……)
「また明日ね」
 新しくできた友達に手を振りながら、私は複雑な気持ちを抱えて教室を後にした。
 明るく振る舞いながら、私は心の奥で複雑な感情と向き合っていた。小学校の時から変わらない、あかりへの気持ち。羨ましさと、申し訳なさと、そして理解できない苛立ち。
 新しい高校生活が始まったばかりなのに、過去の感情に引きずられている自分が情けなかった。でも、どうしても割り切れない。
 帰り道、桜並木を歩きながら、私はあかりの横顔を思い浮かべていた。明日からの授業が始まったら、どんな風になるのだろう。今度こそ、違う関係を築けるだろうか。
 でも同時に、心の奥では昔と同じ感情がくすぶっているのも確かだった。
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