10年目の混浴

辰巳京介

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10年目の混浴

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     10年目の混浴


登場人物

私(40)
専業主婦。夫とはセックスレス。夫が会社からもらったクーポン券で旅行に出る。

夫(42)
桃源物産株式会社社員。仕事が忙しく妻とはセックスレス。

娘(8)
小学3年生。


1.
私たちの車は、湘南の海を眺めながら国道134号線を西へ向かった。
江の島を過ぎ、大磯、二宮と来て、車は小田原市内に入った。
「ねえ、お昼ごはん、どこで食べるの?」
お腹を空かした娘が私に聞いた。
「ここはどお?」
私はスマホの画面を娘に見せた。
「わあ、おいしそうなおさしみ。パパ、見て」
夫はちらっと画面に目をやり、また正面を向いた。

夫の会社では、結婚10年目の夫婦に一泊旅行がプレゼントされる。
今日は、その旅行に家族3人でやってきた。
夫はそのクーポンを私に見せながら、誰か行きたい人がいたら一緒に行ってこいよと言った。
疲れているから、家で休んでいたいというのだ。
「そんなこと言わないで、一緒に行きましょうよ」
しぶる夫を私は説得した。
夫は仕事が忙しく、いつも帰ってくるとぐったりした顔をしている。
そんなだから、当然のことながら、私を抱くこともない。

2.
彫刻の森美術館を見学して、ロープウェイで大涌谷まで行き、黒い卵を食べてから、私たちは強羅の旅館に入った。
旅館では茅葺(かやぶき)の門が和風の雰囲気を醸し出していた。
全ての客室には檜の露天風呂が付いていたが、私はもっと広い湯船に浸かりたかった。
「ねえ、この旅館には貸し切りにできる露天風呂があるんだって、3人で入りましょうよ」
「そうだな、たまにはいいな」
露天風呂を見て少し元気になった夫はそう言い、私たちは流木をあしらった露天風呂に入ることにした。

娘はまだ8歳で、お父さんと一緒にお風呂に入ることに抵抗はなく、今でも二人はよく一緒に入っている。
夫にしてみれば、数少ないリラックスなのかもしれない。
でも、あと数年ではずかしいと言い出す。

「ああ、気持ちいい」
夫が湯船に浸かり目を閉じた。
「久しぶりに疲れが取れる思いだ。君が無理に誘ってくれなかったら、今頃、家の狭い風呂の中だ」
夫はそう言いながら、私と娘の肩を抱いた。
遠くの山の稜線が夕日で赤く染まっていった。

3.
その日の夕食はおいしかった。
夫も、珍しく箸を進めていた。
「おいしいね、ママ」
「そうね」
私たちは幸せだった。

疲れていたのか、食事を終えると娘は早々に寝てしまった。
「静かだな」
「そうね」
「優子、今日まで10年間ありとう、それからこれからもよろしく」
夫はそう言うと私にキスをした。
気が付くと、私は久しぶりに夫に抱かれていた。

10年目の混浴 終わり
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