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第十一話 相棒
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「・・・諒さん?どうかしたんですか?」
「ちょっと話したいことがある。ケーキでも食いながらどうだ?」
「・・・わかりました」
れんも諒同様、冒険者用の住居区に住んでいる。Eランクなので資金的にもあまり大層な場所にも住めないが、大の大人1人が住むのを想定している中でれんが1人で住んでいるせいか実際より広く見えた。
れんはちょっと片付けてきますと言って少し姿を消す。意外と散らかり気味だったのか、次に彼女が扉を開けたのは数分後だった。
れんに連れられて居間に入り、諒は持ってきた箱をテーブルに置く。
「持ってきてからいうのもあれだが、ケーキは食べるか?」
「あまり食べる機会はありませんけど、大好きです」
「そうか、それならいっぱい食べればいい。最近頑張ってるご褒美とでも思えばいい」
「・・・こんなにですか?」
「店員の好意だから気にするな」
れんはケーキに顔を綻ばせるが、箱に詰められた明らかに二人で食べるにしても多すぎる量のケーキを見て今度は目を丸くしてしまった。
至極まっとうな反応だろう。れんがどれだけ食べるのかはわからないが、常人なら確実に食べきれないくらいの量だ。
それは食べる前からわかったので、あらかじめ小さめに切り分けて少しずつ色々な種類のケーキを食べることにした。
ケーキの甘くおいしそうな匂いは中々の誘惑だったが一端二人はもくもくと準備を続けた。
「あの、本当にいいんですか?」
「いいから食え。もったいないと思うなら尚更な」
お皿に並べられたより取り見取りのケーキを見てれんは不安そうにもう一度諒を見る。
諒は「中々こんな機会ないぞ」と食べるよう促す。
れんの視線は諒とケーキの間を何度も往復していたが、甘い匂いの誘惑に負けたか最後に頷きフォークを手に取る。
「・・・いただきます」
れんはチョコのケーキを最初に選び、ゆっくりと口に運んだ。
彼女より先に食べるなとくぎを刺されていた諒はその様子を眺めていたが、もうその視線にも気づいていないようだ。
ケーキを口に入れた瞬間れんの目がわずかに見開かれる。言葉も見つからないようで夢中で咀嚼していた。
「どうだ?」
「おいしいです!」
れんのこんなに大きな声久しぶりに聞いた。
よほど美味しかったようだ。れんは嬉しそうに残りのケーキも夢中で食べ進める。
店員があれだけ自信満々に言っていたあの言葉に偽りはなかったらしい。
れんは諒の存在も忘れたようにケーキだけに集中しているようで、あっという間に皿の上のケーキを全て片付けてしまった。
「・・・まだ食べるか?」
れんは自分の皿を片付けた後も余ったケーキたちとにらめっこしていた。
まだ食べたそうだというのは伝わってきたが、諒の言葉にはなぜか微妙な反応を示す。
「・・・もうお腹いっぱいで・・・」
れんは申し訳なさそうにそう告げる。
まだほとんど食べていない。量で言うなら一個分食べたか食べてないかくらいだ。
予想以上に、というか桁外れに小食だ。余ったら諒にも食っていいと言われていたがさすがにこの量を食べる気にはならなかった。ケーキをしまい、ゆっくりと食べるよう伝えた。ちゃんと保管していれば明日までは普通に食べられるだろう。
れんは名残惜しそうに箱を見ていたが、何か思い出したかのように視線を諒に戻す。
「そういえば、話があるっていってませんでしたか?」
「ん?ああ、そうだったな」
食べながらでもと言ったが結局食後になってしまった。
だがあれだけ幸せそうに食べていたわけだし、そんな中でこんな話題を持ってくるのは躊躇われるし、結果としては良いのかもしれない。
咳払いして諒は改めて話題を切り出した。
「れん、最近何か悩んでないか?」
「・・・!」
諒の言葉にれんはびくっと体を震わせる。もうそこには先ほどまでの笑顔は無く、怯えた小動物のように丸くなり諒とは目をあわせようともしなかった。
「何かあるなら話してくれないか?最近のお前を見てれば何となくわかる」
「・・・」
諒の声はいたって真剣だ。それをれんも感じたのだろう。
下手に逃げるのは許されないということを。
黙って考え込んでいたが、やがて小さく首を横に振る。
「ごめんなさい。これは、私の問題なんです」
「・・・そうか」
いざれんの事を見て諒は理解した。
彼女はどこか士と似ている。彼のパーティーはAランクの中では非常に小規模な部類に入る。当然周りのパーティーは自分たちよりはるかに規模の大きい、ある種組織とでも言っていい集団を形成している。
周囲の状況を見て士はいつも迷っていた。今のやり方でいいのか、他のパーティーを見習うべきなのか。だが、その悩みに答えられる人間はいなかった。
その悩みを自分の力で解決するしかなかった。そして士はやり方を変える道を選び、結果として諒はパーティーを離れることになった。
れんもそれに少し状況は似ている。周りの冒険者が皆諒を求めている。それをライバルのように思ってしまったのだろう。自分が気を抜いていたら取られてしまうと。
周りと比べてしまって自分の道を悩む二人、それに対して諒がかける言葉に困るのは当然だった。
諒は士から逃げてしまったのだから。
だが、今は逃げるわけにはいかない。それは逃げたことへの後悔からか、リーダーとして芽生えた責任感か、とにかく諒は必死に言葉を探した。
「お前がそれでいいなら、俺は下手に口出しはしない。ただ、これだけは言っておくぞ」
「・・・はい」
「お前が目指すものがあるとするなら、それは強さじゃない」
「・・・え?」
「お前が俺とパーティーを組みたいと思った理由はなんだ?それをよく思い出してみろ」
「・・・」
「俺より良い奴はいくらでもいるし、お前より強いやつなんて星の数ほどいる。それでも俺達はパーティーを組んだ。そこにあったものをもう一度思い出してみろ。この繋がりが切れない限り、俺達はずっと仲間だ。俺はお前を置いてどこかに行くことは絶対にない。それだけだ」
言いたいことは言った。これ以上考えても言葉は出てこなかっただろう。
れんは静かにうつむいていた。彼女も言葉を探しているようだった。
思えば諒はれんの心の内をほとんど知らなかった。今回も推測こそすれ彼女の口からはまだその言葉を聞いていない。
この言葉が本当に的を射ているのか、沈黙が諒をどんどん不安にさせていくがやがてれんは顔を上げて笑顔を見せる。その目には少し涙が浮かんでいるように見えた。
「ありがとうございます、諒さん。もう一度、よく考えてみます。どうすればいいのか」
「ああ、それでいい」
話はそこで終わった。
諒は立ち上がって最後にれんの頭を撫でる。
彼女は1人で抱え込みすぎる。きっとこれからも悩みを抱え込むだろうし、無茶もするだろう。
それはれんを成長させるだろうし、同時に心配でもあった。
諒は改めてれんと向き合おうと心に誓った。
「ちょっと話したいことがある。ケーキでも食いながらどうだ?」
「・・・わかりました」
れんも諒同様、冒険者用の住居区に住んでいる。Eランクなので資金的にもあまり大層な場所にも住めないが、大の大人1人が住むのを想定している中でれんが1人で住んでいるせいか実際より広く見えた。
れんはちょっと片付けてきますと言って少し姿を消す。意外と散らかり気味だったのか、次に彼女が扉を開けたのは数分後だった。
れんに連れられて居間に入り、諒は持ってきた箱をテーブルに置く。
「持ってきてからいうのもあれだが、ケーキは食べるか?」
「あまり食べる機会はありませんけど、大好きです」
「そうか、それならいっぱい食べればいい。最近頑張ってるご褒美とでも思えばいい」
「・・・こんなにですか?」
「店員の好意だから気にするな」
れんはケーキに顔を綻ばせるが、箱に詰められた明らかに二人で食べるにしても多すぎる量のケーキを見て今度は目を丸くしてしまった。
至極まっとうな反応だろう。れんがどれだけ食べるのかはわからないが、常人なら確実に食べきれないくらいの量だ。
それは食べる前からわかったので、あらかじめ小さめに切り分けて少しずつ色々な種類のケーキを食べることにした。
ケーキの甘くおいしそうな匂いは中々の誘惑だったが一端二人はもくもくと準備を続けた。
「あの、本当にいいんですか?」
「いいから食え。もったいないと思うなら尚更な」
お皿に並べられたより取り見取りのケーキを見てれんは不安そうにもう一度諒を見る。
諒は「中々こんな機会ないぞ」と食べるよう促す。
れんの視線は諒とケーキの間を何度も往復していたが、甘い匂いの誘惑に負けたか最後に頷きフォークを手に取る。
「・・・いただきます」
れんはチョコのケーキを最初に選び、ゆっくりと口に運んだ。
彼女より先に食べるなとくぎを刺されていた諒はその様子を眺めていたが、もうその視線にも気づいていないようだ。
ケーキを口に入れた瞬間れんの目がわずかに見開かれる。言葉も見つからないようで夢中で咀嚼していた。
「どうだ?」
「おいしいです!」
れんのこんなに大きな声久しぶりに聞いた。
よほど美味しかったようだ。れんは嬉しそうに残りのケーキも夢中で食べ進める。
店員があれだけ自信満々に言っていたあの言葉に偽りはなかったらしい。
れんは諒の存在も忘れたようにケーキだけに集中しているようで、あっという間に皿の上のケーキを全て片付けてしまった。
「・・・まだ食べるか?」
れんは自分の皿を片付けた後も余ったケーキたちとにらめっこしていた。
まだ食べたそうだというのは伝わってきたが、諒の言葉にはなぜか微妙な反応を示す。
「・・・もうお腹いっぱいで・・・」
れんは申し訳なさそうにそう告げる。
まだほとんど食べていない。量で言うなら一個分食べたか食べてないかくらいだ。
予想以上に、というか桁外れに小食だ。余ったら諒にも食っていいと言われていたがさすがにこの量を食べる気にはならなかった。ケーキをしまい、ゆっくりと食べるよう伝えた。ちゃんと保管していれば明日までは普通に食べられるだろう。
れんは名残惜しそうに箱を見ていたが、何か思い出したかのように視線を諒に戻す。
「そういえば、話があるっていってませんでしたか?」
「ん?ああ、そうだったな」
食べながらでもと言ったが結局食後になってしまった。
だがあれだけ幸せそうに食べていたわけだし、そんな中でこんな話題を持ってくるのは躊躇われるし、結果としては良いのかもしれない。
咳払いして諒は改めて話題を切り出した。
「れん、最近何か悩んでないか?」
「・・・!」
諒の言葉にれんはびくっと体を震わせる。もうそこには先ほどまでの笑顔は無く、怯えた小動物のように丸くなり諒とは目をあわせようともしなかった。
「何かあるなら話してくれないか?最近のお前を見てれば何となくわかる」
「・・・」
諒の声はいたって真剣だ。それをれんも感じたのだろう。
下手に逃げるのは許されないということを。
黙って考え込んでいたが、やがて小さく首を横に振る。
「ごめんなさい。これは、私の問題なんです」
「・・・そうか」
いざれんの事を見て諒は理解した。
彼女はどこか士と似ている。彼のパーティーはAランクの中では非常に小規模な部類に入る。当然周りのパーティーは自分たちよりはるかに規模の大きい、ある種組織とでも言っていい集団を形成している。
周囲の状況を見て士はいつも迷っていた。今のやり方でいいのか、他のパーティーを見習うべきなのか。だが、その悩みに答えられる人間はいなかった。
その悩みを自分の力で解決するしかなかった。そして士はやり方を変える道を選び、結果として諒はパーティーを離れることになった。
れんもそれに少し状況は似ている。周りの冒険者が皆諒を求めている。それをライバルのように思ってしまったのだろう。自分が気を抜いていたら取られてしまうと。
周りと比べてしまって自分の道を悩む二人、それに対して諒がかける言葉に困るのは当然だった。
諒は士から逃げてしまったのだから。
だが、今は逃げるわけにはいかない。それは逃げたことへの後悔からか、リーダーとして芽生えた責任感か、とにかく諒は必死に言葉を探した。
「お前がそれでいいなら、俺は下手に口出しはしない。ただ、これだけは言っておくぞ」
「・・・はい」
「お前が目指すものがあるとするなら、それは強さじゃない」
「・・・え?」
「お前が俺とパーティーを組みたいと思った理由はなんだ?それをよく思い出してみろ」
「・・・」
「俺より良い奴はいくらでもいるし、お前より強いやつなんて星の数ほどいる。それでも俺達はパーティーを組んだ。そこにあったものをもう一度思い出してみろ。この繋がりが切れない限り、俺達はずっと仲間だ。俺はお前を置いてどこかに行くことは絶対にない。それだけだ」
言いたいことは言った。これ以上考えても言葉は出てこなかっただろう。
れんは静かにうつむいていた。彼女も言葉を探しているようだった。
思えば諒はれんの心の内をほとんど知らなかった。今回も推測こそすれ彼女の口からはまだその言葉を聞いていない。
この言葉が本当に的を射ているのか、沈黙が諒をどんどん不安にさせていくがやがてれんは顔を上げて笑顔を見せる。その目には少し涙が浮かんでいるように見えた。
「ありがとうございます、諒さん。もう一度、よく考えてみます。どうすればいいのか」
「ああ、それでいい」
話はそこで終わった。
諒は立ち上がって最後にれんの頭を撫でる。
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